2022.03.11

クリエイティブプロセスについて考えてみる

こんにちは、クリエイティブの井上です。

2022年もあっという間に3ヶ月目に突入し、上海もポカポカと春を感じる季節となってきました。私が上海に来たのは2012年の春。もうすぐ10年の大台に乗ってしまうのですねー。いつの間にこんなに時間が経ってしまったのやら。。。

なんて老人みたいなボヤキはさておき、お仕事の話をしますと。
若いうちは、一つ一つの案件ごとに頑張って企画を絞り出し、それに対する評価から色々学んで、自分のスキルアップに努めていればよかったのですが、いつの間にやら上海も10年目、クリエイティブディレクターなんて大それた肩書もいただいておりますので、自分のプロセスや考え方に関して何らかのアウトプットをしていかなければならないフェーズかなぁという事になりまして。。。
自分がどのようにして企画を考えているのかについて、少し時間をとって考えてみました。

社内向け内容なので偉そうなことを言っていますが、何かの参考になるかもしれないなぁと思いまして、皆さんにも共有させていただきます。

【基本プロセス】

まず、基本の流れです。今回は、体験設計の企画をイメージしながら書いていますが、メディアや映像、グラフィックの企画でもなんとなく同じようなプロセスを辿っている気がします。

1.ブリーフィングを消化する
2.情報を集める
3.気になるテーマを掘り下げる
4.メソッドについて考える
5.具体的な企画に落とす

とくに変わった点はないリストですが、意識しないと疎かになってしまうポイントがいくつかあるので、それぞれのステップに関して私が大事だと思う点を一つずつ紹介していこうと思います。

【ステップ1: ブリーフィングを消化する】

企画を立てる作業を、タングラムに例えて見てみましょう。

企画を立てる際、まずブリーフィングかそれに代わるオーダーがある場合が多いと思います。
タングラムでいうと、大小様々なタングラムのピースを渡されるようなものです。
きちんと箱にはまって渡される場合もあれば、ごちゃっととりあえずまとめて渡されることもあるでしょう。

そのピース、一つ一つを丁寧にみていく作業が必要なのですが、一つに見えるピースも実は小さなピースの集まりだったりするものです。

例えば、
ブリーフィングで「Apple社みたいになりたい」と言われたとします。
その意図はもしかしたら「クリエイティブな人に選ばれたい」かもしれませんし、「ミニマリスティックかつ特徴的なデザインのブランドにしたい」かもしれませんし、単純に「業界トップを争うプレイヤーになりたい」ということかもしれません。

渡されたピースをそのまま受け取って「これで何が作れるかなぁ」と悩むのではなく、まず「このピースの本質はなんだろうか」「本当にこの全体が必要だろうか」と、ブリーフィングにある内容のコア要素を抽出する作業が、後の企画書にまとめる作業をスムーズに進めるコツであり、企画の質を左右する大事なポイントでもあります。

【ステップ2:情報を集める】

次に来るのが、もらったピースと一緒に企画を作り上げる「拡張ピース」を探す作業です。

ここでとても大事だなぁと思っているのが、今回の企画に必要かどうかを考えずに広く情報を集めること。
一見関連性が薄いと思われる事項も、どこかで繋がっているものです。
気になる要素Aを調べていって、なんとなく情報が集まった。次に全く別の要素Bを調べていったらAカテゴリでも出てきた情報にたどり着く、ということがよくあります。2つの全く違う要素を関連付けるこの情報はとても有益で、企画のコンセプトがここから生まれたりします。
ですので、一見使いにくそうに見えるピースも、私は最後の企画を組み上げる段階に至るまで、大事に持っておくように心がけています。

【ステップ3:気になるテーマを掘り下げる】

ステップ2で集めたピースの中で、企画のコアになりうるものを掘り下げていきます。
ここで私が気をつけているのは、一つのアイディアに固執しない事です。

少し話がそれますが、スタジオジブリの映画『耳をすませば』のワンシーンで、主人公の雫が洞窟の中で本物の宝石を探す場面があったのを覚えていますか?あそこまでエモーショナルな作業ではないし、「本物は一つしかない」というわけでもないのですが、このステップ3の作業は少しあのシーンに似たところがあるなぁと思っています。

「これは使えそう」と思って掘っていったら、全然広がりが出なかった。「これはユニーク」だと思って企画を作ろうとしたら、出来上がりの出目はとっても普通になってしまった。そういう事はよく起こります。
一つのアイディアに時間をかければかけるほど、諦めるのが辛くはなっていきますが、輝いて見えたものが石ころだとわかったら固執せずに他も掘ってみる柔軟性が必要です。

【ステップ4:メソッドについて考える】

このステップについて言及したいのは、これを考えるタイミングですね。

メソッドについて考えるのは、実現性の高い企画を組む上でとても大切なプロセスです。これが疎かになると、「おー!すごそう。で、これどうやって作るの?」という企画になってしまいます。そういう企画は、通ったとしてもエグゼキューションのフェーズに入って輝きを失ってしまう、ということになりがちですよね。。。

しかしながら、メソッドを最初に考えて表現の方法だけの企画になってしまうのも、また問題です。
例を挙げれば、「プロジェクションマッピングやりましょう!」という類のものですね。
表現のイメージはできるし、実現性も高いが、中身がない。全く同じことを他のブランドがやっても成り立つ、ということになりがちです。

クリエイティブに「やすい・はやい・うまい」がよく求められがちな中国では、残念ながらこういう企画が通りがちではあるのですが。。。クリエイターとしては時間の許す限り「伝えたいこと」が固まった上で表現を考えるというプロセスを踏みたいと思いますし、そうすることがブランドにとっても有益だと信じています。

【ステップ5:具体的な企画に落とす】

ここでやっと企画を組むというフェーズに入ります。

ステップ1−4でしっかりピースを集めて、細分化しておくことができれば、あとはタングラムで遊ぶようなものです。この段階に至る頃には提出までのカウントダウンが始まっている場合が多く、楽しんでいる余裕がないことが多いですが、ここでいかに遊べるかが企画の印象を左右します。
お料理で言えば盛り付けの段階です。せっかく集めてきた美味しいものたちを、見た目で「不味そう」と思われないように、また変な順番で食べさせて味を損なわないように注意したいですね。

この段階に入っても、なかなか作業が進まない場合は、ステップを遡ってピースを集め直すといいかもしれません。

【まとめ】

色々書きましたが、伝えたい事は、

「ブリーフィングを聞いてすぐ、[企画書_ver1.pptx]を作りはじめるのはもったいない」

ということです。

下の図を見ていただきたいのですが、こういう企画になってしまっていること、よくあると思うのです。

ブリーフィングでもらったピースを「どういう形にしようか」と考える。
→「正方形のピースは必要なさそうだな」と排除する。
→他を組み上げてみたら下の角が開いてしまったので、そこを埋めるものを探してきて、綺麗な長方形にまとめました。

というものですね。

一見良さそうに見えるのですが、(そしてこれでうまくいく場合もあるのですが)長方形なら、クライアントさん社内でも、他のベンダーもおそらく考えつく形ですよね?コンサルティングやクリエイティブエージェンシーとしての価値を発揮したとは言えないし、「浅い企画」という印象を与えがちです。

ユニークで芯のある企画を組もうとするならば、

ブリーフィングでもらったピースを消化して細分化できるものは要素毎に分ける。

→関連しそうなピースを広く集めてくる
→コアになりそうなピースを中心に、どんな形が素敵か考えて形を作る
→大切にしていたピースでも邪魔になるなら潔く捨てる

というステップを踏むことが重要だと信じています。
最終的に長方形に落ち着いたとしても、いろんなピースを集めてきた後にできた長方形は、いただいたピースを並べただけの長方形よりも、スッキリ気持ちよくはまり、納得感も高いものができます。

なんだか説教臭いお話になってしまいましたが。。。
バルコニアには、固まったピースを分解するのも、拡張ピースを探すのも、形に組みあげるのも、それぞれ得意な人間が揃っておりますので、一緒に悩みながらタングラムで遊ぶ仲間が欲しくなったら是非お声がけください。