2022.04.25

コロナ再拡大下の消費者トレンド

balconia上海副総経理の川崎です。お久しぶりになってしまいました。今回は、現在も続く上海のロックダウンについてのお話です。
日本でも多くの内容が報道されていると思いますが、最も短くても20日間程度、マンションどころか部屋から出られないという状況が続いています(長い人は2カ月以上の方もいます)。
医療体制をはじめ、食料や生活物資の配給までかなりの混乱が見られ、エリアによっては緊迫した状態が続いています。
・・・と、ネガティブなお話をし出すとキリがないのですが、そういった内容は報道メディアに任せて、ここでは歴史的なイベントの中でも明るく逞しく生活する消費者にスポットをあて、ロックダウン期間中に話題になったもの、流行ったものをご紹介していきます。

1日1000万人単位でフォロワー増加。フィットネス系KOL「劉畊宏」

出典:劉畊宏のDouyinアカウントより

まずは上海のみならず中国で今最もホットなアカウントをご紹介します。フィットネス系KOLの「劉畊宏(リュウ グンホン)」です。
写真からも雰囲気が伝わるかと思いますが、彼はユーモアたっぷりに、やや大げさなリアクションを加えながら、奥様とペアになってエアロビのライブ放送を行う台湾出身のタレントそしてKOL(インフルエンサー)です。もともとは俳優や歌手もこなすマルチタレントで、そこそこ有名、程度の人気でしたが、本人のフィットネス好きが高じてフィットネス系KOLになりそれが大ブームとなっています。
どのくらいのブームかは以下のデータをご覧ください。中国版Tik TokであるDouyinにおける彼のアカウント・フォロワー数の直近の推移ですが、4月15日から加速度的にフォロワーが増え始め、4月20日前後では500万~1000万人単位で増加していることが分かります。

出典:南都大数据研究院:劉畊宏Douyinアカウントのフォロワー数増加量

もともと中国では健康やフィットネスへの興味関心が強まって来ていましたが、短期間での急激なブームの背景には、上海をはじめ中国全土で広がる隔離政策があるのは確かでしょう。上海以外でも、ロックダウンに近い状態の都市はいくつか出て来ています。多くの消費者が運動不足に悩み、その悩みを自宅で解消することを望んでいます。
そして、「運動」といったただの機能に留まらず、毎日の楽しみを提供していることが彼の特徴と言えるでしょう。実は、彼がよく比較されるのはその他のフィットネスKOLではなく、口紅王子として有名な李佳奇Austinです。Austinは、ユニークでにぎやかなインパクトのあるスタイルで有名な中国トップのライブコマースKOLです。Austinのファンの多くは、実際に欲しい商品を見つけるというよりは、エンターテインメントとして彼のライブを心待ちにしています。そして同じようなファン同士でつながり、一種のコミュニティ意識のようなものを持っています。

出典:https://www.sohu.com/a/301235520_534145

劉畊宏も同じです。コロナで不安と不満が溢れる中で、運動不足を解消するとともに、イヤなことを忘れ、ストレスを発散する体験を提供していることが強く支持されている理由だと言えます。さらに、インパクトと話題性があるためにWechatでシェアされやすいことが広く支持される要因と言えるでしょう。シェアされた投稿のコメント欄には「私も毎晩やってる!笑」「今晩ももうすぐ始まるよ!スタンバイ!」といったような声で溢れています。

劉畊宏に限らず、フィットネス、ヨガは全般的にアプリの利用やオンラインレッスンなど、盛り上がりを見せている分野だと言えます。

ランダムでやってくる配給食材に試される料理の腕

上海では、自宅から出られず、物流がとまっていることからオンラインでの買い物も不自由な状況において、政府から食料の配給が行われています。ただし、いつ来るのか、そして何が、どのくらい来るのかは誰にも分かりません。
そのため「一度も自分で調理したことがない(場合によっては名前すら分からない)食材」が急に自宅へやって来ることも珍しくありません。

出前システムが非常に発達した中国都市部では、食事を出前に頼りきっている人も多く、毎日自炊をしなければならないだけでもチャレンジなのに、更に食材も自分で選べない、という状況で、多くの人がオンライン・レシピを見ながら奮闘しています。最近は、調理やレシピ関連のショートムービーも多くあがっていることから、たまに流れてきたショートムービーを見て新しい料理にチャレンジするケースも少なくありません。

出典:https://post.smzdm.com/p/a27leo6p/

SNSでも(おそらく他にすることがないため)、手料理の写真をアップするのが日課となっている人も多く、上海でここまで「料理熱」が高まったことは、これまでなかったのではないでしょうか。
また、これは私の身の周りだけかもしれないですが「エアフライヤー(空気炸锅)があって本当に助かった!」という声をよく聞きます。手軽に揚げ物や焼き物が作れる調理器具ですが、これ以外にもお菓子作りの調理器具を含めて、料理のバリエーションを増やすことが出来る調理器具に、これまで以上にスポットライトがあたったと言えます。
ただ、物流が止まっているため、他人を見て、もしくは新しい料理にチャレンジしたくて器具を買う、といったことが起こらないのが残念ですね。これでオンラインショッピングが動いていれば結構な売上げにつながったのではないか?と感じる商材は少なくありません。

音声プラットフォーム「ヒマラヤ」のコンテンツ消費が大幅増加

隔離下で、読書や音声コンテンツを楽しむ人も多いです。

第一財経によると、中国の大手音声プラットフォーム「ヒマラヤ」における今年3月以降のコンテンツ視聴量は、去年に比べて52.6%増加しているようです。
(出典:第一財経オフィシャルアカウント:
https://new.qq.com/omn/20220419/20220419A0C1OA00.html

気持ちを落ち着かせてリラックスするためだけでなく、リモートワークや自宅の他のアクティビティと「ながら」視聴を出来るのが人気の理由でしょう。また、児童用コンテンツも多く消費されていることから、家から出られずストレスがたまる子ども達にとって、時には遊び相手になり、時には学びのサポートツールとなっていることが分かります。
さらに、ヒマラヤは隔離期間中の精神的な問題を解決するものとして、心理学者やカウンセラーと協力してオンライン・カウンセリングサービスを提供したり、タレントやライバー達とコラボして、ヒーリングをテーマにしたライブを行う等、積極的な支援やサービス提供を行い、多くのユーザーの支持を得ています。

今回のコロナ対策の消費への影響は?

さて、ロックダウン下の上海や中国で見られたブームやトレンドを見て来ました。
最後に、今回のロックダウンが今後の消費行動や生活実態に影響を及ぼすのか?についても考えてみたいと思います。
率直に言って、直接的には大きな変化までは起こらないのではないかと考えています。その理由は、今回のロックダウンはあくまでも短期的処置であり、あまりにも特殊なケースだからです。物流まで止まってしまう、食料購入まで困難になる、ということは、中国都市部においてそうそう起こるものではないでしょう。
また、今回ご紹介した内容も、フィットネス、料理、エンタメのデジタル化と、特別新しいものではなく、3年間のコロナ禍の総集編的な性格が強いです。物流がとまって新しいモノを購入することが物理的に出来なかったので当然とも言えます。
一方で、ロックダウンが上海市民にとって大きなショックとなったのも事実です。大きなストレスを和らげるために、オンラインヨガやオンラインでのヒーリングコースに申し込んだという人も周りに多いです。また、友人と話していても「どれだけ高い服買って、キレイなカバンを買い揃えていても空しいよね。なんだか今回のことで思い知った。」という声もチラホラ聞こえてきます。このように、内面的に少なからずインパクトを与えるきっかけとなっているのは確かです。
更に、最も無視できないものとして経済への影響があります。現時点で既に約2カ月間も経済がとまっており、コロナが落ち着いたとしても倒産やリストラ等、現実的な問題は避けて通れないでしょう。それにより、購買力が低下するといったことも予測されます。これらの変化は、もう少し事態が落ち着いて来るとよりクリアに見えてくると思われますが、問題は確実に存在します。

以上、上海の生活にスポットをあてつつ、コロナが再び広がる中国でのトレンドをいくつかご紹介しました。まずは一刻も早い事態収拾を祈りつつ、引き続き消費者の動きにも注視していきたいと思います。
バルコニアはロックダウン中も、リモートでいつも通り営業しております。「今、中国どうなってるの?」といった簡単なご質問も大歓迎です。お気軽にお声かけ下さい。