2023.06.25

「遠景成真Vision Comes True」アート展を観て思うこと

画像出典:「遠景成真」アート展オフィシャルサイト

今年5月に「Vision Comes True」アート展が上海K11アートセンターで開催されました。8名のアーティストが共に手掛けた現代と未来が交じり合う異なる思考をアートで表現しています。人間とコンピューター(機械)の視点を置き換えてみることで、別の世界が見えてきたり、新しいアイデアが浮かんできたりすることがあります。

早速心揺さぶられる作品をいくつかご紹介したいと思います。

「視覚」とはパーソナルなもの。

作品名『当下一次你看向树枝,鸟儿们已经不在那儿(再度木の枝に目を向けたとき、小鳥たちは姿を消した)』

画像出典:「遠景成真」アート展オフィシャルサイト

画面上の点在する光の点は木の枝にとまる鳥を表しています。枝は暗く表示されていますが、画面を3秒間じっと見た後に目を閉じると、なんと鳥が消えていなくなるのです!私の脳の認識レベルでは、鳥はまだそこにいるだろうと思っていましたが、いなくなっていたのです。この作品は、「視覚」がパーソナルなものであり、脳は感覚を通じて外部情報を認識していますが、外部情報を拒否することもある事を物語っています。

如何でしょうか、この世界であなたが見ているものと現実に起きていることは本当に同じものなのでしょうか。

この作品は視覚の錯覚を通じて、知覚には主観的で私的な性質があることを示しています。世界を認識する際に慎重な思考と警戒心を持つ必要性を強調しています。直感や表面的な観察に過度に頼りすぎず、より深い現象や真実を積極的に考え、探求することを忘れないようにというメッセージを伝えています。

人間である限り、落下し続ける

作品名『自由落体』

撮影:筆者

中央左にあるサイネージ上で白いマスクが画面の上から下へ落ちてきている映像が流れています。これは、コンピューターが人間を「見ている」光景を記録したものです。一見すると全て同じように見えますが、実は少しずつ異なるところがあります。マスクの横に数字が表示されていて、その数字は、コンピューターが「マスク」を記憶する過程で数値化される「人間の顔」に近いものになっています。ひたすら落下し続けるマスクは現実の多様な人間社会の縮図にも見えますが、未来のデジタル視点の考え方の現れでもあります。

この作品は、テクノロジーの進歩とデジタル化の影響が私たち現実世界の認識と理解を変えつつあることを示しています。私たちは広い視野を持って、テクノロジーが影響を与える生活と社会を注目していく必要があります。

リアルな幻像

作品名『卡瓦诺伊之舞(卡瓦诺伊の舞)』、『寻找奇莫佐亚(奇莫佐亚を探して)』

画像出典:「遠景成真」アート展オフィシャルサイト

分野を超えた研究によって、生物とそれらが住む幻想的な世界を、実際の風景とコンピュータシュミレーションを駆使して撮影することで、ロマンチックな物語を演出します。作品『卡瓦诺伊之舞(卡瓦诺伊の舞)』は、古代アイルランド神話の海の神と関係しており、「奇莫佐亚」は最新のがん治療研究において、研究者たちが期待している分野を超えた種のことです。動画からはリアルな実験室のシーンだけでなく、生物の成長過程を示すバーチャル映像も見られます。観客は臨場感のある仮想生物を目で楽しみながら、作品の背後にある美しいビジョンに思いを巡らせ、静かにこの瞬間を楽しむことができます。

この作品から分かることは、異分野の協力と最新技術によって、驚くべき視覚世界と物語の体験を創り出すことができるということです。この作品は伝統的な芸術形式の枠を超え、現実と仮想世界を組み合わせて、芸術と科学の素晴らしい融合を表しています。

AI化石

作品名『事件モデルー81日』

撮影:筆者

ソーシャルメディアやセルフパブリッシングの発展より、人類は絶え間なく情報を発信してきました。ですが情報の完全消去については考えておらず、その結果、インターネットの周辺世界には破棄された情報の破片が無数に散らばっています。このアート作品では、それらを「AI化石」と呼びます。画像に映っているコントローラーを操作すると一視点から情報世界を見渡すことができます。空から落下してきた「AI化石」には英語もあれば中国語もあり、稲妻や雨など形式はさまざまです。これらのAI化石は動かすことはできますが、消すことはできません。いずれ、人類の限られた意識スペースは多くのAI化石に埋め尽くされ、意識スペースが無なくなってしまう日がやってくるのかも知れません。

この作品は情報過多やデジタル化された世界が私たちの思考に与える影響について関心を向けるよう促しています。情報の処理や管理、デジタル時代においていかにして自立した思考や意識空間を維持するかについて考えていかなければなりません。

虚偽と真実の共存

作品名『生理反応 III』

画像出典:「遠景成真」アート展オフィシャルサイト

体験者の前には無数の紙製黒い箱で構成された大きな壁があります。実は、各黒い箱にはファンが設置されてあり、ファンの後ろには音を反響する膜が張られています。ファンが回ると、真ん中に立っている体験者はブーンという音が聞こえる設計になっており、ファンの回転スピードはランダムに2つのチャンネルによって切り替えられます。1つは自然風、もう1つはコンピューターによって算出されたデジタル風です。風の種類が自然とデジタルの2種類あると聞いた体験者はどちらが本物なのか判別ができずに戸惑っていました。まるでコンピューターの手のひらで踊らされているかのように感じたそうです。

この作品は、体験者に対して真実と虚偽について考えさせ、デジタルと人間の知覚の関係性を表しています。同時に、デジタル時代における機械が私たちの認識と感知に対して介入し、機械が私たちの生活に与える潜在的な影響力と制御性を示しています。そのことによって私たちは何が真実で、何が虚偽なのかを注意深く認識していく必要があります。

静は心から生じる

作品名『厨房 I: 圣特蕾莎的漂浮(厨房に浮く聖テレサ)』 

画像出典:「遠景成真」アート展オフィシャルサイト

一見、静止画かと思いきや、絵の中に浮いている「聖テレサ」が同じ体制のまま移動していることに気づきます。まるで絵の中で止まっているようかのように見えますが実は動いている、不思議な視覚体験をもたらしてくれました。キッチンが静止しているのに対して人は動いています。あなたなら、「静」か「動」どのように定義しますか?

この作品は私たちに静と動の境界線や定義について考えさせてくれます。物事の本質と外見は必ずしも一致せず、私たちの認識や解釈はさまざまな要因に影響される可能性があることを教えてくれています。

クリエイティブな仕事をしていると特に、多種多様な芸術作品が私たちの創造力をかき立ててくれます。感覚的な体験を通して新しいアイデアを得るだけでなく、私たちのインスピレーションセンサーも未来に向けて進化させてくれます!この展覧会のテーマ「遠景成真(Vision Comes True)」、私は本当に好きなんですよ。未来への期待と面白い想像が膨らみます。創造の世界に飛び立ち、笑いにあふれる奇跡を起こしましょう!

Info
遠景成真アート展 (VISIONS COME TRUE)
開催期間:2022.3.3~2023.5.28
場所:上海K11芸術館 入
場料:78元