2023.07.28

注目度上昇!多くのブランドが関心を集める「音楽フェス」

この記事でご紹介する音楽フェスとは、歌手のコンサートや、ライブハウスの焼酎規模的なイベントではなく、1日8時間以上、2~3日間連続で行われる音楽フェスを指します。 音楽フェスの多くは主に屋外で行われ、複数のアーティストまたはグループが順番に出演する大規模なライブイベントとなっています。

画像:2023年6月「芒禾音楽フェス」の現場、人気歌手による圧巻の演出
筆者撮影

2023 年上半期だけでも、中国全土で100を超える音楽フェスが開催されました。

レッドブックアカウント「公演情報局ONTOWN」が公開した情報によると、2023年上半期に公式に発表された音楽フェスは100件を超えることがわかりました。「中新経緯」の概算統計によると、ゴールデンウィーク期間だけでも19の地域で41件の音楽フェスが開催されました。また、ゴールデンウィーク期間中、音楽フェス開催地周辺のホテルの予約率が前年比の20倍以上に急増したことが「飞猪」のデータによりわかりました。今年下半期に予定されている音楽フェスは現時点で50件以上あり、随時情報が更新されています。

レッドブックアカウント「公演情報局ONTOWN」がまとめた2023年上半期の音楽フェス情報
各音楽フェスのポスター
画像出典: レッドブックアカウント「公演情報局ONTOWN」

音楽フェスはどうやってニッチなカルチャーからマスカルチャーへとシフトしたのか?

音楽フェスは経済が発達していて、尚且つ文化的多様性が豊かな都市から広がりました。

2000 年に開催された第 1 回「迷笛音乐祭(Midi Music Festival)」は中国野外音楽フェスの「祖」と呼ばれています。以来、野外音楽フェスは音楽業界の発展における新たなスタイルとして音楽ファンの間で徐々に浸透していきました。
関連統計によると、2007年から2019年までの13年間、中国国内の野外音楽フェスが開催されたトップ10の都市のうち、その多くは経済が発達していて、尚且つ文化的多様性豊かな省や都市となっています。上海が大きくリードして第一位となり、北京、成都、深センが後に続き、杭州、重慶、長沙、昆明、武漢、珠海もトップ10にランクインしています。

2007年―2019年野外音楽フェスの開催都市
データソース:头豹研究所

ソーシャルメディアの普及により、メジャーではなかったジャンルの音楽がより多くの人に知られるようになりました。

2017年、「愛奇芸(iQIYI)」は国内初のヒップホップバラエティ番組「中国有嘻哈(The Rap of China)」を発信し、話題となりました。「ラップ」は今や最もホットな話題の一つとなっています。ネットを通じてアンダーグラウンドではなくメジャーな存在となり、メディアを通して多くの若者がサブカルチャーにふれることにより発展していきました。また、2019年には人気バンドバラエティ番組「楽隊的夏天(サマー・オブ・ザ・バンド)」がスタート。「豆瓣(Douban)」ではこの番組の評価が7.2から8.7に急上昇し、今でも高い評価を維持しています。「ウェイボー(Weibo)」でも単独記事の閲覧回数が2.2億回を超え、「百度(Baidu)」の2019年上半期のバラエティ新番組の検索でトップとなりました。
音楽バラエティ番組の人気に伴い、生の音楽の魅力を体験したいという思いから音楽フェスに足を運ぶ人が増えています。

コロナ禍での3年間の沈黙を終え、最盛期を迎える音楽フェス

「観研天下」の「2021年中国野外音楽フェス市場分析レポート」によると、コロナ前の2007年から2019年まで中国で開催された野外音楽フェスの数は毎年増加傾向にありました。 2015年は一時的に数が減少したものの、翌年にはすぐに回復、上昇しました。2017年以降のイベント数は265件前後と徐々に安定してきていました。ところが、2020年新型コロナウイルスの感染拡大により、ライブイベント市場が低迷に陥りました。 そしてコロナ禍の明けた2023年、音楽フェス市場は再び黄金期を迎えることとなりました。

2007-2019年野外音楽フェスの開催回数の推移
データソース:観研天下「2021年中国野外音楽フェス市場分析レポート」

音楽フェスの観客層は?

2022年、山東芸術大学の焦聪氏は「中国における野外音楽フェスの推進モデルとコミュニケーションに関する研究」という論文を発表しました。研究の中でランダムサンプリングを実施したところ、合計1923の回答を回収することが出来ました。リサーチ結果によると、野外音楽フェスの参加観客の年齢層は18~25歳が最も多く、次に多いのが18歳未満、最も少ないのが50歳以上となりました。男女別でみると、女性が75.82%で圧倒的多数を占めています。また、各都市における野外音楽フェスの観客数は、その都市における経済のレベルや、文化交流の活発さに比例していることがわかりました。

左:野外音楽フェス客層の年齢構成
右:野外音楽フェス客層の性別比率
野外音楽フェス客層の居住地
以上3枚のグラフのデータソース:論文「中国野外音楽フェスの駆動モデル及び伝播研究」

彼らはなぜ音楽フェスに集まるのか?

2019年のデータ分析によれば、ウェイボーとレッドブックでの「音楽フェス」に関する検索結果およびトピック「なぜ音楽フェスに行くのか?」を調査したところ、以下のキーワードと結果が出ました。

各キーワードが占める割合
データソース:CBNData、头豹研究院

「好きな音楽の種類」が25.61%と最も多く、次に「複数のバンドやミュージシャンが観られる」、「イベントのテーマが魅力的」がそれぞれ18.76%、18.1%を占めており、「ついでに開催地で旅行する」が14.88%、「賑やかで雰囲気が良い」が13.6%、「単純に音楽フェスが好き」が9.05%で6位という結果でした。
近年、生活へのプレッシャーが強くなり、その反動で多くの若者が音楽フェスのチケットを購入し、屋外に出て、好きな音楽を通してストレス解消をはかっていいるように感じます。
2023年は「仕事や生活のストレスや不安の解消」という理由が大きな割合を占めていくかもしれません。

ブランドが重要視する音楽フェス

就職難が続き、生活のプレッシャーも大きいなっていく現在、衣食住、交通費、住宅ローン、車のローンなど、若者たちの金銭的負担が増え続けています。若者たちの収入が少なければ、その若者の消費意欲を高める事も難しくなります。ブランドは広告、マーケティング、コラボなど様々な方法を通して、そんな若者たちの心に近づいていこうとしています。ブランドに親近感を持った結果、若者たちの自社ブランド商品に対する消費意欲につながると期待しています。
その結果、一部のブランドは音楽フェスに「賭けている」ようです。ゴールデンウィーク連休中に、「元気森林」は多くの人気歌手やバンドを招待し、成都で「元気森林音楽フェス」を開催しました。「蜜雪冰城」は武漢で「アイスクリーム音楽フェス」を開催、「隅田川珈琲」は5月20日、21日に杭州で「隅田川潮珈音楽フェス」を開催するなど、ブランドが音楽フェスを多く主催しています。

音楽フェスのポスター
左から順に:「元気森林音楽フェス」「蜜雪冰城アイスクリーム音楽フェス」「隅田川潮珈琲音楽フェス」

10 年ほど前から消費ブランドは音楽フェスのスポンサーとして登場しています。「喜茶(HEYTEA) 」、「青島純生」等のブランドも音楽フェス「草莓音乐节(ストロベリー)」に協賛しています。特に「蜜雪冰城」は多くのブランドに先立ち、率先してスポンサー活動を行ってききました。「蜜雪冰城」は2015 年と 2016 年に「五月天」と「周杰伦」の鄭州コンサートに協賛、指定ドリンクとなりました。そして、2019年5月、「蜜雪冰城」の主催した「蜜雪冰城音楽フェス」には、20名の著名ミュージシャンが参加しました。

なぜブランドは音楽フェスに巨額を投じるのか

音楽フェスの開催にかかる主な費用は人件費と施設・会場費など、数百万から数千万元にものぼります。1万人~2万人規模のオフライン音楽フェスの場合、キャストやスタッフの旅費、食費、宿泊費、人件費が全体の約6割を占め、舞台技術、設備機材、会場設営などは全体の4割を占めます。業界関係者によると、最大のコストはなんといってもアーティストの出演料で、人気スターやミュージシャンの出演料は約700~800万元になります。統計によれば、音楽フェスで利益が出ているのはわずか20%程度しかいないとのことですが、では、なぜ消費者ブランドは損をしてまでイベントに取り組むのでしょうか?

音楽フェスは若者を呼び込む「キーワード」となっています。

前述したように、音楽フェスなどイベントの主な消費者は若者であり、彼らはまさに大手消費ブランドが最も注目している顧客層です。その結果、音楽フェスはブランドの露出とプロモーションに最適な場所となりました。また、メインスポンサーや主催者になることで、ブランドは短期間に多くの露出が得られるので、宣伝効果を最大限に引き出すことができるます。これは若い消費者の間でブランドの人気向上に非常に役立ち、同時に、人気歌手やアーティストの宣伝効果も期待でき、彼らを通じて、ブランドの人気と好感度を高め、販売促進につながっていきます。

蜜雪冰城2023「アイスクリーム音楽フェス」の舞台設計
画像出典:レッドブックアカウント「饮力实验室」

音楽フェスの会場がブランドの宣伝空間に

イベントロゴ、ステージ、横断幕やバナー以外にもガーデンパラソル等の設備、周辺商品など、すべてが消費者にブランドを認知させる広告塔になります。「蜜雪冰城音楽フェス」では、高さ8メートルのエアーオブジェと踊る雪だるま人形が観客の目を引き、大きな宣伝効果をうみました。

蜜雪冰城2023「アイスクリーム音楽フェス」現場の人形
画像出典:https://www.163.com/dy/article/I59837R50514X2OL.html

ブランド商品が音楽フェスに登場し、消費者に馴染んでいく

「蜜雪冰城音楽フェス」では、数多くの「蜜雪冰城」商品が広告塔として使用されました。音楽フェス開催中、観客は「蜜雪冰城」や「ラッキーコーヒー」など関連の周辺商品を購入することができるので、ブランド商品の消費活動にも貢献しています。

音楽フェス現場で販売されている「蜜雪冰城」商品及び周辺商品
画像出典:レッドブックアカウント「一只兔子」

音楽フェスがマーケティングの戦場になるということは、ブランド側の発言権がマーケティング効果に直結する

一つの音楽フェスには複数のスポンサーがつきますが、協賛金額がブランドの露出に直結する事となります。これはスポンサー間の争いでもあり、スポンサー側と主催者側の連携がうまくいかないと、マーケティング効果はかえって低下する可能性さえあります。したがって、一部のブランドは主導権を最大限に握ろうと、直接イベントの主催者となったりもしています。ブランドが主催者となることでブランドの特徴がより効果的に反映されるからです。例えば、「蜜雪冰城音楽フェス」において「蜜雪冰城」が商品を低価格に設定できたのも、ブランド自身がイベントの企画から運営まで全ての権限を握っていたからこそ出来たことなのです。

左:2023蜜雪冰城音楽フェスチケットの最安値が199元
右:2023隅田川潮珈音楽フェスチケットの最安値が398元
画像出典;レッドブックアカウント

最後に

消費ブランドは若者の共感を呼ぶ方法を常に模索しています。人々の消費パターンは生活するための最低限の消費から精神的満足度を重視する消費へと変化しています、そのため、消費者に精神レベルでの価値観や意味を付与できるブランドだけが、市場から頭一つ抜けることが出来るでしょう。また、各都市の文化観光局にとっても「パフォーマンス + 観光」というビジネスモデルは産業経済を回復するための成長材料です。

当社では様々な市場の変化に伴い、若者のライフスタイルをリサーチしていくことによって、ブランドにとって価値あるトレンド情報とコンサルティングサービスの提供に尽力しています。ご興味ある方は、お気軽にお問い合わせください。

特典画像
隅田川潮珈音楽フェスに参加する若者たち
写真撮影:筆者