「原神」異業種コラボイベントから学ぶ、ストーリーを考えて次元を超えるIPマーケティング。

ゲームプレイヤーなら、「原神」という名前をすでに知っているかと思いますが、ゲームに馴染みがない方であっても、もしかしたら、町のどこかで「原神」に関連する広告を目にしたことがあるかもしれません。

画像出典:知乎ユーザー投稿
※「原神」は、上海米哈游网络科技股份有限公司(中国の二次元文化インターネット企業、代表作として「崩壊3rd」、「崩壊:スターレイル」、「未定事件簿」などがある)が自主開発した、冒険が楽しめる新しいオープンワールドRPGです。このゲームはiOS、Android、PC、およびPS4/5などのプラットフォームで遊べるだけでなく、プラットフォームの間で継続してプレイできるので、他のプラットフォームプレイヤーとオンラインでの協力プレイが可能です。
2023年1月4日時点、サードパーティデータモニタリング機関Sensor Towerのデータによれば、2020年9月にローンチ以来、原神モバイル版の売り上げは40億ドル(約5519億円)以上に達しており、「最も収益の高いシングルプレイスマホゲーム」となりました。また、ゲームの最高月間アクティブユーザー数は7000万人を超え、最大同時接続プレイヤー数は300万人を超えたそうです。
この勢いある原神の面白いコラボプロモーションについて今回はご紹介したいと思います。
2022年9月時点、原神は中国で合計26回のコラボイベントを実施しました。中には招商銀行、支付宝(アリペイ)、キャデラックの3つのコラボイベントを同日だけでなく10分の間にWeibo公式アカウントで立て続けに発表したことです。これは国内のコラボにおいても大変珍しいことです。
当時、このニュースを見た多くの人は、これはつまり、まず人々に招商銀行で口座を開設してもらってから、支付宝(アリペイ)アカウントと紐付けて、キャデラックを購入させるための戦略だなと冗談を言っていました。もちろんこれは冗談なのですが、原神がゲームの境界を超えて、より長期的で広い分野に着目し、オフラインコラボを通じて、プレイヤーの日常に密かに溶け込もうとする取り組みがうかがえます。

原神オフィシャルと各ブランドのコラボ状況
画像出典:原神公式資料
では、原神のコラボイベントについてある程度ご理解いただいた上で、その特徴を見てみましょう。
- 1、協業企業の背景とストーリーを考えたコラボ
- 2、コラボイベントのトラフィック共有及びブランド力の強化
1、企業の背景とストーリーを考えたコラボ、独特な体験を創造
KFC、ピザハット、喜茶(HEYTEA)とのコラボレーションでは、店内食事とテイクアウトのシーンに対応し、高德地図ではドライブシーン、そして立邦(日本ペイント株式会社)はホームインテリアのシーンに対応しています。原神は、具体的なユーザー体験および使用シーンでゲームの特徴を展示するのが得意です。コラボパートナーのリソースと要素を通じて、ユニークなコンテンツ、アイテム、またはイベントを提供し、ユーザーの興味と参加を引きつけます。

画像出典:左ピザハットWeibo公式、右REDユーザー投稿
現在の中国市場では、「流量明星(アクセス数やファンが多い有名人)」といって多くのゲームが人気の有名人を広告塔にし、テンプレート化された宣伝を行っていますが、プレイヤーにとってこれはただのIPレンタルに過ぎないのです。具体的なコラボ企業とのストーリーに欠けているため、実用性が低く、持続可能な発展には不利です。
コラボイベントでコラボ企業の背景やストーリーを考えを行うことは、没入感のある体験を生み出し、ユーザーの参加意欲を高め、コラボ機会を増やし、ブランド価値と競争力を強化するという点で非常に重要です。ストーリーや背景を考えてコラボすることは、今後のゲームマーケティングにおいて大きなトレンドになるかもしれません。
- 「原神」X「KFC」
独特な体験といえば、「原神」と「KFC」のコラボを取り上げないわけにはいきません。このコラボは中国国内で「社死※型」コラボの先駆けとなりました。
※「社死」とは、「社会的死」の省略でネット流行語です。一般的には大衆の前で恥をかいたり、恥ずかしい思いをしたりするなど、人前に出ると緊張して、コミュニケーションをとることが困難な状態を指します。
2021年3月、原神とKFCは、プレイヤーが対象店舗で限定メニューを購入し、店員に「異世相遇,尽享美食(異世界で出会い、美食を楽しむ)」という合言葉を言うとゲーム限定アイテムをゲットできるというコラボイベントを開催しました。
当初、こんな合言葉を言うのは恥ずかしい、参加のハードルが高いのでは?と懸念されていましたが、実際、多くの人は「大型社死現場」を大変楽しんでいたようで、予想外の展開となりました。しかも、このイベントはネットで話題となり、さまざまな社死関連のスタンプまで次々と登場したのです。

画像出典:左KFCWeibo公式、右REDユーザー投稿
イベント開始後、プレイヤーたちはKFCのミニプログラムに殺到し、ダブル11セールに匹敵する勢いで限定メニューが瞬時に売り切れました。それと同時に、一部のプレイヤーは店舗で合言葉を言って限定メニューを購入している様子をBilibiliに投稿し、動画は数百万回再生されました。またWeiboハッシュタグ#原神KFCもホットトピックとなり、閲覧回数は1億回を超えました。

画像出典:Bilibiliのスクリーンショット
イベント当日、KFCはプレイヤーの熱意を過小評価していたため、予想をはるかに上回るお客さんが店舗に押し寄せました。当局の感染症拡大予防対策措置に違反したとして、店舗は閉店を余儀なくされただけでなく、安全と秩序を維持するために警察官を動員する事態となりました。

画像出典:Weiboユーザー投稿

警察が「KFC」で秩序を維持している
画像出典:Weiboユーザー投稿

画像出典:原神公式ツイッター
コラボイベント中に「ハプニング」が頻発したにもかかわらず、今回のイベントは原神のプレイヤーに深い印象を残しました。シンプルな合言葉は平凡に見えるかもしれませんが、「社死」という新しい体験を通じて、原神に対して共通の認識を持つことができたようです。その合言葉を叫んだ瞬間、まるで次元の壁を突き破ったかのように感じられたのではないでしょうか。
次回コラボイベントのトラフィック共有及びブランド力の強化に関する内容をご紹介したいと思います。
もしIPコラボレーションにご興味がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。