中国パン市場は年々拡大、なぜパンへの人気は増加しているのか
中国パン市場の拡大
最近、私が滞在している上海では、新しいパン屋が次々とオープンしています。2019年ごろまでは、85度CやPARIS BAGUETTEなどの中国ローカライズされたパンを販売する大手チェーン店が多かったのですが、最近ではフランスやイタリアの本場に近いパンを販売する大手チェーン店が目立ち、食パン、ベーグルやフォカッチャなどの専門店も次々と誕生しています。またコロナ禍以降、実店舗のみならず、オンライン店舗も増加しています。中国式パンから本格的なパン、そして創作パンまで、ここ数年で幅広いジャンルのパン屋が展開され、消費者のパンに対するニーズも多様化しています。
日本国内のベーカリー市場規模を見てみますと、2022年の市場規模は15,732億円の見込で前年比2.5%の増加であり、2017年度からずっと横ばいが続いています(矢野経済研究所,2023)。一方で、艾媒咨询の2023年の調査によると、2022年の中国のベーカリー市場規模は2,853億人民元(約57,060億円※)に達し、前年比で9.7%増加しました。また、2025年までには3,518億人民元(約70,360億円)に達すると予想され、市場規模の増加が見込まれています。
※1元=20円計算
また、中国版インスタグラムのREDでは、若者を中心に「面包脑袋(パン脳)」というパンが大好きの人を称した言葉が新たに生まれたり、「面包脑袋(パン脳)」をテーマにしたイベントが開催されたり、パンの種類やおすすめ販売店を紹介する専門アカウントが増えるなど、中国消費者のパンに対する人気が伺えます。
ここ数年のパンブームは2024年に入ってもとどまらず、2024年3月16日から17日、23日から24日の4日間、上海外滩金融中心でパンフェスティバル(外滩漫歩面包节)トが開催されました。このイベントでは、中国国内全域から集まった80店舗以上の有名パン屋が出店し、来場者が長蛇の列を作り、一部の店舗では3時間でパンが売り切れるほどの大盛況でした。
なぜ人気なのか
中国でパンが話題になったのは、2018年に「脏脏包(汚いパン)」が一時期大ブームを起こしました。チョコやココアパウダーがたっぷりかかっており、とてもインパクトのある見た目と食べたら手も口もパウダーまみれになる様子が、写真映えするパンとしてSNSを中心に話題になりました。
しかし、ここ最近のパン人気は、欧州パンやベーグル、パンサンドイッチなど多様な種類に渡っており、ただ写真映えするかだけではなく、使われている原材料やオリジナル性なども消費者を魅了する要素となっています。
今回は大きなパンブームが起きているのかについて分析し、4つの考えられる理由をあげたいと思います。
理由①:欧米文化の浸透
パン人気を支える理由の一つとして、欧米式食事スタイルの浸透より食事にパンを取り入れる消費者が増加していることが挙げられます。また最近ではブランチ文化も広まり、特に欧米式朝ごはんを好む消費者が多くみられます。加えて有名海外インフルエンサーの食事スタイルや健康・ダイエット関連の情報から影響を受け、全麦パンや低脂質であるベーグルやドイツパンが流行したとも考えられます。
理由②:消費者の健康意識の高まり、ダイエットブーム
理由①と関連していますが、中国ではここ数年、健康意識の高い消費者が増加しています。それに伴い、原材料がシンプルで油成分や砂糖が含まれていないハードパンや、栄養豊富である全麦を使用したパンへの人気が高まったと考えられます。また、ダイエットブームにより低カロリーで満腹感のあるベーグルや、プレッツェルなども同様に人気が高まりました。
理由③:Citywalkの流行
ここ数年でCitywalkという言葉をよく目にするようになりました。若者を中心に「街散歩」が流行し、それと同時に「散歩がてらついでにパンを買って帰る」、「友達とパン屋で一休みする」といった情景が増えたこともパンブームを支える理由の一つだと考えられます。
この「ついでにパン屋による」という場面が増えることで、特に路上にポツンとある個人経営のパン屋への需要が高まったと考えられます。
理由④創造性のある商品への追及
中国市場の特徴として、新しいものが次々と現れ、流行の変化がとても速いことが挙げられます。パンは違う食材と融合することができるため、新しく斬新な商品を創造しやすいのも人気が続く理由だと考えられます。例えば、写真右のパン屋さんは、雲南省風味のパンを専門に販売しており、看板商品である「紫糯米甜白酒玫瑰吐司(紫もち米甘酒薔薇トースト)」や「茴香老奶洋芋吐司(フェンネルと雲南ジャガイモ煮込みトースト)」など雲南料理と融合させたフレーバーが話題をよび、人気が出ています。
またパン単体でも、食パンやベーグル、フランスパンなど種類がとても豊富にあるため、中国の消費者の異なるニーズを満足させることができるのも人気の原因の一つとして考えられます。
まとめ
中国におけるパン人気について情報を収集する中で、中国の創造性に改めて感心しました。食材とパンの斬新なコンビネーションや、カラフルで個性的な見た目など、他では見られない魅力的な商品がたくさんあります。パン以外にも、近年目にするコーヒーブームでも、豆花(ドウファ)×コーヒーや、チーズ×コーヒーなど斬新な組み合わせ商品が登場しています。
個人的には、中国の若者と日本の若者を中心に起こる食ブームは、類似点が多いと感じます。過去にはパンケーキブームや抹茶アイスブーム、ブランチカフェブームなどが、時期は異なりますが両国で流行しました。最近のパン人気でも、ベーグルやハードパンなどは日本でも人気であり、中国でも流行しています。これからの時代は、日本と中国の食文化がますます近づいていくのかもしれません。