奢侈品の在庫はどこへ行ったのか?
私はエルメス、シャネル、ルイ・ヴィトン等のハイブランドは入手困難だからに行列ができていると思っていました。しかし最近、あるポッドキャスト番組で知ったのですが、ブランドの公式発表で在庫データは公開されていませんが、企業の財務報告を見ると、多くのハイブランドの華やかなイメージの裏側で、在庫問題に直面しているようです。特にパンデミックの期間中、ハイブランド業界は堅調で速やかな回復をみせましたが、在庫問題は依然として重要な課題となっており、特に在庫の処理方法については、ブランドイメージと実態の両方に関わる複雑な問題です。
では、ハイブランドは在庫をどのように処理しているのでしょうか?以下、よく見られる6つの方法をまとめてみました。
1、配分システム
エルメスは配分システム戦略の典型的な代表です。顧客が人気商品や高価な商品を購入する際、一定金額の他の商品も併せて購入するように誘導されます。この手法はコア商品ラインに影響を与えることなく、ノンコア商品の販売を促進し、ブランドの希少性と価値を維持できるのです。
2、VIP社内販売
一部の奢侈品ブランドは、社内販売或いはVIPイベントを通じてシーズンオフの商品やアウトレット品を処分します。通常、自社の従業員や特定の顧客に限定したイベントですので、ブランドイメージを損なうことなく在庫を削減することができます。
公開データはありませんが、業界の推定によると、エルメスは毎年社内販売を通じて1億ユーロ以上の収益を得ているとされています。総売上高に占める割合は小さいものの、ブランドイメージの維持及びVIP顧客に特権を感じさせる効果があります。
3、Outlet割引セール
アウトレットはハイブランドが在庫を処分するもう一つの重要なチャネルです。ブランドによってアウトレットへの依存度は異なります。バーバリーはシーズンオフの商品をアウトレットで販売する一方で、他のブランドは特別デザイン商品を提供することもあります。一部のブランドにとって、アウトレットは無視できない販売チャネルですが、高級ブランドにとっては総売上高の一部に過ぎない場合もあります。
ベイン・アンド・カンパニーのデータによれば、ハイブランドのアウトレットにおける売上高の割合は、10年前の5%から13%に増加しました。例えば、プラダ、シャネル、バーバリー等のブランドのアウトレット店舗の割合が高く、これらのブランドにとってアウトレットチャネルは無視できない重要な存在となっています。
4、廃棄処分
一部のハイブランドにとって、不良在庫を廃棄することは最終手段となっています。これは極端なのですが、製品が二次流通されないようにブランド価値を保護するためです。しかし、この対処法に対して人々からの疑問の声が上がるなど、環境に配慮した取り組みなども必要でしょう。
5、寄付と再生処理
一部の奢侈品ブランドは在庫を慈善団体に寄付したり、アートプロジェクトに利用したりすることで、在庫を減らしつつ、ブランドの社会的責任を果たしています。例えば、ルイヴィトンは服のサンプル品をデザイン学院に寄付し、学生たちはそれを改造してチャリティーオークションに出品しました。
2023年末中国市場でも、甘粛省で地震発生後、カナダグースは震災地に洗濯表示タグのないダウンジャケットを2000枚寄付したというニュースがありました。これも在庫を処分する方法の一つであり、ブランドの社会的責任を果たすアピールをしているのです。しかし、カナダグースは有名ブランドであるため、商品が被災地に送られると転売される事態となり、多くの注目を集めました。
6、グレーマーケット
グレーマーケットには、並行輸入※など、ハイブランドの流通における非公式チャネルが含まれています。これらのチャネルはブランドから許可を得ていなく、消費者により低い価格でハイブランドを提供しています。グレーマーケットの規模は、世界の奢侈品総売上高の5%から10%を占めていると推定されており、特に中国市場では価格差及び為替変動等により活発です。
※ 並行輸入とは、輸入販売に関する代理店契約を結んでいない第三者の輸入者や個人がその国で知的財産権を有する権利者の許諾を受けずに輸入し、商品を市場に提供することです。
以上6つの在庫処分方法のうち、「配分システム」は長年にわたり「教育」されてきたため、エルメスに限らず、シャネルなど他のハイブランドも類似した取り組みを始めています。公的には認めていませんが、実際の運用においては効果的な在庫処分の方法となっているようです。
「在庫の廃棄処分」を初めて知ったときはとても驚きましたが、数十年前に起きた「牛乳の廃棄問題」※3のように、今となればこれはビジネス手段の一つに過ぎないと認識しています。欧州連合(EU)では未販売の繊維製品の廃棄を禁止する政策の研究を始めており、数年後には関連する法令が公布される可能性があるとのことです。そうなると、政策の影響を受け、対象となるブランドの範囲が拡大するので、ブランドに対してサプライチェーンと生産計画を積極的に改善することが求められるでしょう。
※3「牛乳の廃棄問題」:20世紀30年代、世界恐慌時代に起こった有名な事件です。当時、供給過剰と需要不足により、酪農家は牛乳の価格を維持するために、過剰に作られた牛乳を廃棄することを選び、市場価格のさらなる下落を防ぎました。
「グレーマーケット」は最近知った新しい知識です。商品は白(正規品)ですが、流通チャネルが黒(非正規)であるため、「グレーマーケット」と呼ばれています。この現象はブランドに大きな損失をもたらすと思っていましたが、実はブランドが黙認したり、主導したりすることもあると知りました。
ハイブランドは在庫管理において、市場の需要変化、ファストファッションとの競争、ブランドイメージの維持、販売売上と業績の向上、社会的責任、財務報告など多くの課題に直面しています。これらの課題に対処するために、ブランドはハイエンド、持続可能な発展及び資源の再利用など、さまざまな戦略を実行しています。資源を最大限に活用するための効果的な在庫管理は依然として長期的な課題です。