上海宛平南路600号が再び話題に
最近、REDで「宛平南路600号」という住所がバズっています。実はこちらでアート展が開催されており、若者が続々と訪れ、その体験をソーシャルメディアでシェアしているのです。
ここは、中国本土初の精神衛生センター内にあるギャラリーで、摂食障害(ED)という疾患に着目しています。アートを通じて人々の心に触れ、疾患への認識、理解、関心を喚起することが目的となっています。ここまで読んでいただいた方は、「宛平南路600号ってブランドなの?」「精神病院とはどういう関係があるの?」といった疑問が出てくるのではないでしょうか。ではここで簡単にご紹介したいと思います。
宛平南路600号はどんな場所なのか?
「宛平南路600号」は上海市精神衛生センターの通称住所であり、上海市徐匯区に位置しています。中国本土では最大の精神衛生機関として知られており、上海市唯一の精神医学科三級甲等病院(最高クラスの病院)なのです。
600号の過去と現在
ここはもともと精神科専門病院として1935年に設立されました。当初は精神疾患に対する誤解と恐怖心から、人々に忌避されていただけでなく、揶揄と嘲笑の的にもなっていました。上海市民はよく「600号」を使ってこの病院のことを暗に指していました。これも当時の社会が精神健康問題に対して敏感な態度を示していたことを映し出しているのではないかと思います。
近年では、かつてのグレーイメージは徐々に薄れ、スペースの拡大や環境美化に加えて、専門家による普及活動(精神衛生センター≠疯人院※)が多く行われ、人々の恐怖感を取り除き、温かみのある場所になりつつあります。また、一連のマーケティング手法を通じて「出圈(世間の注目を集め始めた)」に成功し、ソーシャルメディアで話題となりました。
※“疯人院”という言葉は、現代の文脈ではしばしば否定的な意味合いを持ち、精神疾患の患者が隔離され、不人道に扱われた場所を指すことがあります。
600号はどんなことをしたのか?
では、600号はどのようにして健康普及と同時に若者の心を掴んだのでしょうか?
2021年、600号の中秋月餅(中秋節に食べる月餅)が話題となり、今では「一餅难求」(入手が困難)というほどのネット人気月餅となりました。精神病院が月餅を作るというギャップが若者の好奇心をかき立てたのです。
2022年から、600号は一連の異業種コラボレーションを実施し、若者が好む形で精神健康普及活動を行なってきました。
この他にも、上海交響楽団、上海博物館、上海交通大学出版社などとのコラボレーションが多数あり、詳しい紹介は割愛させていただきます。
以下の非公式の文創(文化・創意)グッズは主にネットユーザーのアイディアから生まれたもので、精神健康問題のようなシリアスな話題を受け入れやすくする効果があります。
これらの文創グッズは、汚名返上や差別を取り除く役割を果たしているだけでなく、若者にも人気があり、流行の象徴となっています。さらに、600号はBilibiliなどで公式アカウントを開設し、KOLを招いて若者と交流するなど、若者との距離を縮めています。
これらの事例から、私は600号が「忌避される存在」から「メンタルホーム」へと変貌を遂げたことにはそれなりの理由があると考えています。600号は時代における感情的なニーズと合致しており、若者の精神的なIP(知的財産)になりました。ソーシャル化された言語は、シリアスな話題を心の交流の場に変え、科学普及も医師から患者への説教という伝統的なスタイルではなく、友人のような対等な関係でコミュニケーションを取っているのです。これは600号の寛容さとユーモアがあったからこそ、ゆったりとしたリラックス感が信頼感につながったのではないでしょうか。
最後に
若者の共感を得ることに成功した600号なのですが、どの広告代理店に依頼したのか非常に興味深かったので、いろいろ調べたところそのような情報は見当たらず、ある記事でクリエイティブチームの中心メンバーの一人が600号の精神科副主任医師だったことを知りました。その瞬間、私の好奇心がかき立てられ、期待満々でした。ぜひ一度600号のギャラリーを訪れてみたい、この副主任医師が主導するクリエイティブを体験してみようと思います。