2024.11.07

なぜ「ブサかわ」がトレンドになるのか

最近、気が向いたのでゲームセンターでクレーンゲームをして、25元(約500円)で2つのぬいぐるみをゲットしました。どの景品を狙おうかなと決めるとき、見た目や可愛らしさではなく、出口に近くて形状的に掴みやすいものを優先しました。家に持ち帰ってよく見てみると、その一つはちょっとブサイクで、一目見ただけでは何のキャラクターかわからなかったので、友人たちに写真を送って見せたところ、みんなからの評価は「ブサかわ」で一致しました。そう言われると、私も徐々に面白いなあと感じつつ、その独特なブサイクさに興味を持ち始めたのです。

画像:筆者撮影

このぬいぐるみのおかげで、ここ数年「ブサイクグッズ」が流行していることに気づくことができました。淘宝(タオバオ)は2020年から4年連続で「ブサイクグッズコンテスト」を開催しています。コンテストでは、独特なアイデアやデザインを持つ商品が奨励・表彰され、募集、審査、授賞の3つのステップで行われます。伝統的な美的基準では評価されない、独特な魅力や創造性を持つ商品を発掘・展示することを目的としています。

これまで開催されたコンテストは、多くのネットユーザーが参加し注目を集めています。ユーザーたちは各種SNSを通じて自分が「ブサイクだと思うもの」をシェアしたりするなど、審査のプロセスに参加することもできます。これらの「ブサイクグッズ」は、その独特なデザインと創造性がかえって若者たちの新たな人気商品となり、一種のリアルさ、悪評を恐れない姿勢、そして、流行に流されない精神を象徴しています。

2024年度淘宝(タオバオ)「ブサイクグッズコンテスト」表彰式のスクリーンショット
画像出典:https://baijiahao.baidu.com/s?id=1785888817726709191

トップ5のうち、2つの受賞作品はどれほどブサイクなのか?

受賞作品の図
左:鮮やかな緑のカエルのスプーン;右:電気ポット型ヘルメット
画像出典:https://post.smzdm.com/p/axow0q69/

2022年、甘粛省博物館の「銅奔馬」をモチーフにしたクリエイティブなぬいぐるみが一夜にして大ブレイクし、即完売となりました。このシリーズのぬいぐるみは、甘粛博物館の銅奔馬を原型としており、ネットユーザーからは「ブサかわで大ヒット」と評価されました。銅奔馬は甘粛省武威市の雷台漢墓から出土し、「馬踏飛燕」とも呼ばれ、中国国宝級の文物です。

左:文物「銅奔馬」;右:クリエイティブグッズ銅奔馬
画像出典:CCTVニュース

ここでいう「ブサイクグッズ」とは、伝統的な意味での醜さではなく、独特で反伝統的な美的デザインを指しており、若者たちの共感や好感を引き起こしやすいようです。

「ブサイクグッズ」の背後にある消費トレンド

若者の嗜好は常に変化しています。「ブサイクグッズ」が大ブレイクする背後には、どのような消費トレンドが隠れているのでしょうか?

トレンド1: 奇抜さから得られる感情的価値

美の基準は比較的統一されていますが、醜さの表現は多種多様です。「ブサイクグッズ」は予想外の形態で若者たちの好奇心をくすぐります。これらを好きになるのは、単にちょっと面白いとか人と違うからではなく、新鮮で興味深いと感じるからです。実際、「ブサイクグッズ」は若者たちに特別な感覚をもたらしてくれるだけでなく、リアルに慰められるような感じはとても心地よく、共感を覚えます。若者たちが真に「醜い=美しい」と思っているわけではなく、このような特別な方法を通じて美を探求・鑑賞しているのです。ブサイクグッズもまたちょっと面白くてユーモラスな方法で若者たちと新たなつながりを築き、自分たちは理解され、受容される存在だと感じさせているのです。このようなマーケティング手法は非常に親しみやすく、若者の好みに合っています。

トレンド2: 美的センスの「異化効果」

消費者は外部からの刺激に対して「目新しさを追い求める」や「好奇心旺盛」といった反応を持つ特徴があります。「完全で確実な状況(新奇さ、驚き、挑戦がない)」では興味を引き起こしたり、維持させたりすることがほとんどないでしょう。「ブサイクグッズ」の流行は、美的センスの「再構築」が現代の広告や製品マーケティングで広く使用されていることを示しています。「ブサイクグッズ」以外にも、「巨大グッズ」「高齢」「実体のないもの(アインシュタインの脳)」なども「新奇性」のイメージを持っており、視点転換により、消費者を視覚疲労から解放させようとしているのです。美的疲労が蔓延する中、若者たちは常識を打ち破る「ブサイクグッズ」を受け入れることを望んでおり、この美的センスの「再構築」の発展はまさに消費市場の新たなトレンドなのです。

上海に現れた巨大広告
左:北外灘のKaws。右:張園のTHE NORTH FACE
画像出典:RED

トレンド3: コミュニティグループの創造

豆瓣(中国の有名な文学青年コミュニティ)に「ブサイクグッズ保護協会」というグループがあり、2019年に設立されました。グループメンバーは約25万人で、互いに「ブサイクグッズ」をシェアしています。2020年に淘宝が第1回ブサイクグッズコンテストを開催して以来、「ブサイクグッズを愛する人もいる、見た目が悪い商品にも春がやって来る」という理念を掲げ、毎年ユーザーの投票で「見ていられない」ブサイクなものを選出し、数百万人のユーザーから更新を催促されています。

「ブサイクグッズ保護協会」グループのスクリーンショット
画像出典:豆瓣

「ブサイクグッズ」はその独特な面白さと話題性で、若者たちの新たな雑談のネタとなっています。彼らにとって、ニッチなコミュニティは個性、センスや自由を象徴しています。「ブサイクグッズ」は単なる独特なソーシャル・カレンシー(社会的通貨)だけでなく、若者たちの共有欲や消費欲を刺激するものです。

トレンド4: 自己肯定

「ブサイクグッズ」に熱中する現象は、一種の自己肯定でもあります。自己肯定感は自信や自尊心を高めると同時に、社会や他人の評価に振り回されることなく、自分は平凡で、完璧ではない、見た目が普通であることを認めつつ、こんな自分でも多くの人に愛される価値があるのだと認識することです。

最後に

若者たちがこういったスペシャルな「ブサイクグッズ」を好きになるのは、自分たちを代表するものであると感じているだけでなく、心の居場所ができて、自分たちの個性を表現することもできるからです。社会の変化に伴い、人々は伝統的な意味での美しさだけを追求するのではなく、美に対する見方がよりオープンになりつつあります。また、現代の若者たちが買い物する際、フィーリングやソーシャル的楽しさをより重視しており、面白いものをシェアして友達と交流することを好みます。したがって、「ブサイクグッズ」が流行するのも、若者たちの新たな嗜好やニーズに合致しているからではないでしょうか。