玄学経済の多様化・日常化・カスタマイズ化がますます進んでいる
最近、玄学(オカルトやスピリチュアルに関する分野)の経済がますます盛り上がっていることに気づきました。チームでのディスカッション中によく話題になるのは、「若者が行列を作って神に祈ったり仏に参拝したりしている」「この寺院の周辺で売られているマスコットが大人気だ」「あの道教の名言がSNSで話題になっている」といった玄学関連のトピックです。
2年前に話題になった「寺院カフェ」や「玄学マーケティング」と比較すると、最近の玄学経済はますます多様化、日常化、カスタマイズ化されていることが見受けられます。本記事では、面白い事例を挙げながら、現代の若い世代が持つ心理的ニーズについて深掘りしていきたいと思います。

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玄学経済における具体的な変化と心理分析
1. 文創商品の多様化:趣味性と個性の表現
玄学経済における大きな変化の一つは、文創(文化・クリエイティブ)商品の種類が増え、趣味性と個性表現の要素が強まった点です。ターゲット層の一員として、最もよく目にするのが玄学に関連した文創グッズです。2023年に話題となった「寺院カフェ」は、今や人気寺院の定番となり、それに加えて新しい文創商品が次々と登場しています。
そして、私自身も仏教系の「無語菩薩」の変顔扇子や「阿弥陀仏」のマスコット人形、道教系の「四喜財神(喜びを呼ぶ財神)」の置物や「長寿神」の冷蔵庫マグネットを購入しました。


振り返ってみると、これらの商品を購入したときはすべて衝動買いでしたが、後悔したことは一度もありません。商品の第一印象は「面白い」でしたが、それぞれ独自の魅力を持っていました。さらに、玄学的な意味合いも加わり、敬虔さと自由が感じられ、当時の自分の心境と一致していたように思います。
また、私はいくつかのアウトドアスポーツにも参加しているのですが、驚いたことに、クライミングには「岩神」、スキーやトレッキングには「山神」、サイクリングには「自転車神」というように、細分化されたカテゴリーごとに守護神キーホルダーが存在していたのです。スポーツ愛好者にとって非常に面白いアイテムで、趣味と個性をアピールしつつ、心の安らぎを得ることもできます。しかも、1個30元程度の価格設定なので簡単に入手できるのです。

出典:RED

データソース:https://baijiahao.baidu.com/s?id=1798653995615450434

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このように、玄学関連の文創商品の多様化は若者たちに「日常の小さな幸せ(小確幸)」と「趣味の延長線上の自己表現」をもたらしていることが分かりました。
2. 宗教用品の日常化:精神的な安定と心のサポート
ご存知の通り、仏教や道教はそれぞれ豊かな芸術形式持っており、多種多様な宗教用品があります。最近では念珠、タンカ(仏画)、お香などといった宗教関連アイテムは日常生活に溶け込みつつあります。本来なら神聖なものとされた物品が今や普段の生活に密着した物に作られ、人々の間で広がっています。2年前、大人気だった雍和宮で「香灰琉璃手串(香灰ガラスビーズのブレスレット)」を買い求める長蛇の列ができるほどでした。そして、今年も入手困難な状況が続いており、熱気に包まれています。
※香灰琉璃手串(香灰ガラスビーズのブレスレット)に使われる香灰は、雍和宮大殿の物であり、特に旧暦の2月8日(釈迦牟尼仏が出家した日)に集められたものが使用されます。この香灰は神聖な力を持つとされており、身に着ける人の平安、災難除け、福徳増進などを守護すると信じられています。

出典:RED
このほか、タンカ(唐卡)や合香といったアイテムも、日常生活に登場してきています。タンカはチベット仏教特有の宗教の掛け軸絵画です。多彩な絹織物で装丁され、供養や装飾用に吊り下げられています。タンカに描かれている内容は多岐にわたり、仏陀、菩薩、護法神などといった宗教的な人物から仏教の物語、宇宙観まで含まれています。合香は仏教の供養品の一つで、環境を清め、瞑想などに用いられるものです。合香は檀香や沈香など、複数の香料を混ぜ合わせて作られ、心を落ち着かせ、心の浄化作用があるとされています。
少し前、道教文化を広めるライブ配信ルームで合香を購入しましたが、それまで合香についてほとんど知識がなかったため衝動買いをしてしまいました。購入を決めた最大の理由は「健康に良い」、それに加え「香りが8年間持続する」(168元で8年も香りが続くなんて、お得だと思いませんか?)という説明がとても魅力的だったのです。そして、購入に至った決め手となったのは、なんと言っても配信者の「海外の精油抽出と異なり、中国人は独自の合香文化を持っている」という一言でした。
これらの「神秘的な力」や「霊的なエネルギー」を持つとされるアイテムは若者たちのライフスタイルに普及しつつあります。そして、これを通じて、彼らが「内面的な安定」や「文化的アイデンティティ」を求めている心理を垣間見ることができます。

右:筆者が購入した合香 出典:TikTok
3. 寺院体験のカスタマイズ化:浮ついた心を落ち着かせ、同じ志を持つ仲間を見つける
2023年、若者たちが「禅の修行体験キャンプに熱中」という話題がありました。修行体験は通常山中の寺院や道教の道観で行われ、7~15日間くらいそれに専念することが必要なのですが、多くの若者にとって、隔離された場所での修行、しかもスマートフォンから離れるのは大変難しいことでした。
近年では、寺院体験はますますカスタマイズ化され、柔軟に対応できるようになりました。たとえば、1日だけ、さらには2時間だけ心を静めて「仏教経典の書写(写経*1)」を体験することができます。さらには、企業の年次総会やチームビルディング等のニーズに応えるための寺院企画サービスも登場しました。たった1日のイベントだけでも、誦経(経を唱える)や祈願や素斎(精進料理)の体験、座禅や瞑想、お茶を味わう、お香の調合と制作(制香*2)、伝統的な文化サロン(雅集*3)などといったより深いレベルまで体験が可能です。
*1抄経:仏教の経典を書き写すことで、伝統的な宗教修行の一つです。
*2制香:天然の香料や補助材料を混ぜ合わせて加工し、香を作るプロセスです。
*3雅集:古代中国の文人や知識人たちが集まり、詩や絵画、音楽などの芸術活動を通して情操を高める小規模な集会。現代のサロンに似ています。

出典:RED
また、忙しい日々を送る人向けには「オンライン禅修キャンプ」という選択肢もあります。このプログラムは毎日わずか1時間を確保するだけで参加が可能です。具体的な内容はとして、30分間の座禅や瞑想、30分間人生の知恵や生命の真理について学ぶ、そして、同期の参加者とグループ内で体験や感想を共有し合うこともできます。
異なるニーズを持つ若者たちが、玄学への関心や要求を生み出す中、玄学体験やサービスの提供形態はますますカスタマイズ化が進んでいます。これにより、若者たちが求める「浮ついた心を落ち着かせる」や「志を同じくする仲間とのつながり」などといった心理的ニーズを満たすことができるのです。
まとめ
人々は精神的な文化に多くの時間とお金を費やすようになり、特に若者の間で玄学への関心が著しく高まっています。職業の選択、学業ストレス、個人の成長といった課題に直面する際、心理的な安心感やサポートを得るために玄学を頼る傾向が強まっています。このようなトレンドは、企業や社会が若者の精神的なニーズにより一層注目するきっかけとなり、伝統文化と現代生活の融合を推進しています。
私自身も、玄学経済が今後さらに成長し、市場規模が拡大していくと考えています。テクノロジーの発展に伴い、玄学と現代社会の結びつきはより密接になり、玄学は科学性や実用性をより重視するようになるでしょう。また、このような社会現象を深く研究することによって、若い世代の文化変化及び心理的ニーズを汲み取り、ビジネス活動や社会発展に有益な示唆を提供することができるでしょう。