「喜蛋」と「出産内祝い」から、日中文化の違いについて考える
皆さん、こんにちは。お久しぶりです、misaです。先日、喜ばしいニュースを聞きました。取引先のお客様から「上司に赤ちゃんが生まれたので、お祝いとして会社の喜蛋(シータン)を送ります」とのご連絡をいただきました。新しい命の誕生や結婚などおめでたい話を聞くと、幸せをお裾分けしてもらったようで、気持ちまで明るくなります。さっそくこのグッドニュースを同僚たちに伝えました。
すると、同僚たちのリアクションがとても興味深かったのです。中国人の同僚たちは喜びを分かち合い、「喜蛋」を楽しみにしている様子でしたが、日本人の同僚たちはお祝いの気持ちを共有しつつも、「喜蛋って何?」と首をかしげていました。日本人にはまったく馴染みのない習慣だったようです。
「喜蛋」って何?

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「喜蛋」とは赤ちゃんが誕生した際に、両親が親しい人々に贈る伝統的なギフトであり、赤く染めたゆで卵のことを指します。新しい生命の誕生を祝うとともに、吉祥や円満、生命の継承を意味する縁起の良い贈り物なのです。
この習慣には長い歴史があります。興味深かったので調べてみたところ、南宋時代(日本の鎌倉時代)にはすでに記述があり、「杭州の人々は、新生児の誕生を祝う際に、赤い卵を贈る」と記載されていました。
1980から1990年代では、新生児の両親が自ら卵を茹でて、漢方薬の「蘇木(赤色の天然染料)」や染料の「品紅(赤い顔料)」で赤色のお湯を作り、その中で卵を浸して赤く染めるのが一般的でした。こうして染めた卵を竹かごや赤い紙に包み、親族や親しい友人に贈ることで、お祝いの気持ちを伝えていたのです。

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しかし2000年頃になると「喜蛋」は市場化が進み、様々なブランドからパッケージ化された商品が登場しました。これにより、両親が自分で卵を茹でる必要がなくなり、パッケージにはキャンディーや点心まで付いていることもあります。さらに、「喜蛋」そのものが必ずしも本物の卵である必要がなくなり、卵の形をしたケーキなどで代用されることもあります。
最近は、より洗練された喜蛋ギフトボックスまで登場しており、中身はチョコレートやマカロンなどモダンなスイーツが入っています。また、高級感のあるパッケージが登場したり、個別のカスタマイズが可能になったり、各家庭のニーズに応じた贈り方ができるようになりました。
伝統的なスタイルであれ、現代的なスタイルであれ、人々は依然としてこの特別な瞬間に贈るギフトを「喜蛋」と親しみを込めて呼んでいます。

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ここまで話すと、日本人の同僚たちは「なるほど、中国の喜蛋は日本でいう「出産内祝い」のようなものだったのか!」と気づき、納得してくれたようです。
日本でも新しい命が誕生する際、親しい人々からお祝いの贈り物やご祝儀を受け取ります。そのお返しとして赤ちゃんが生まれた家族から「出産内祝い」を贈ります。通常内祝いは生後1か月頃に行われるのが一般的で、中国の「満月酒(生後1か月を迎える際の祝いの宴)」と時期的に近いものです。
ここで、「満月酒」について簡単に説明させてください。「満月酒」以外にも「百日宴」「周歳礼」といったお祝いの文化があります。
中国では、赤ちゃんが生後1ヶ月を祝う「満月酒」、生後100日を祝う「百日宴」と1歳の誕生日を祝う「周歳礼」等の伝統的なお祝い行事があり、家族や親しい人々に赤ちゃんをお披露目するとともに、お祝いに対して感謝の気持ちを伝える機会でもあります。そして、このようなお祝いの席で、「喜蛋」は象徴的な存在なのです。「喜蛋」は単なるギフトだけでなく、お祝いの場を盛り上げ、幸福を分かち合う役割を果たしているのです。
中国の「喜蛋」と日本の「出産内祝い」の違いは?
最大の違いは、その目的にあります。
中国では、「喜蛋」は赤ちゃん誕生の喜びを周囲に知らせる方法の一つです。新生児の両親は、親しい人々や同僚、さらにはビジネスパートナーに「喜蛋」を贈り、新しい命の誕生の喜びを分かち合います。相手から贈り物をいただいたかどうかに関わらず贈ることができます。
一方、日本では新生児の両親が自発的にギフトを贈るのではなく、親族や友人から「出産祝い」をいただいた際に、お礼の意味を込めてお返しの品を贈るのが一般的です。日本の出産内祝いは、お祝いをいただいてから贈るお返しであるという点が特徴です。
次に、贈り物の中身にも違いがあります。
伝統的な「喜蛋」は赤く染めたゆで卵ですが、赤色は中国文化において喜びや幸運を象徴する色であり、新しい命の誕生を祝う縁起の良いアイテムとして受け継がれてきました。しかしながら、時代とともに「喜蛋」は進化し、よりモダンで持ち運びや保存に便利なギフトへと変化し、チョコレート、ケーキ、マスコットやぬいぐるみ等のアイテムが「喜蛋」として贈られるようになりました。ただ赤色は依然として「喜蛋」の象徴的なカラーとして使われています。一方、日本の「出産内祝い」として定番なのが紅白饅頭や和菓子などです。内祝いのギフトは、洗練されたラッピングが重視され、贈り手の心遣いを示す重要なポイントとなります。内祝いが多様化する今でも、「上品さ」や「格式」が重視されており、精巧で繊細な日本文化の美意識が反映されています。
贈り物に込められた感情と文化について

さて、取引先のお客様からいただいた「喜蛋」の話に戻りますが、これはまさに日中文化の融合なのではないかと感じました。「喜蛋」は、日本文化におけるギフトラッピングへのこだわりや精巧を踏襲しつつ、中国の喜びを分かち合う伝統をしっかりと受け継いでいると言えるのではないでしょうか。2つの要素が融合することで、贈り物以上のものが生まれ、目の前がぱっと明るくなるような感動を覚えます。そして、そこには文化を超えた温かさと相手への深い思いやりが込められているのだなと感じました。
祝福を届けるだけでなく、交流を通じて文化が融合し、新たな温もりが生まれます。これこそが、ギフトが持つ本当の価値なのではないでしょうか。
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