「双減」は本当に私と子どもの教育負担を軽減できるのか?

こんにちは。「双減」という言葉を初めて聞く方も多いと思うので、まず簡単に説明させてください。「双減」とは、2021年7月に中国国内で推進された政策「義務教育段階における生徒の宿題負担および校外教育負担のさらなる軽減に関する意見」の略称です。すなわち、義務教育段階の生徒の宿題を減らし、塾などの校外教育の負担を軽減することを目的とした政策です。
例えば:
1、これまでは宿題の量が多く、子ども達は数時間かけてやっていたが、「双減」の実施により30分〜1時間程度で終わるようになりました。
2、民間企業による中国語、英語や数学等の科目の学習塾は厳しく制限され、大規模な授業開講ができなくなりました。その代わり、各都市や地域では国の方針に従い、芸術や趣味などの課外活動、コンテストなどが徐々に増えてきました。
私は上海に住むごく普通のサラリーマンです。一線都市である上海では長年にわたって教育の「内巻」(中国のインターネットスラングで、不条理で無意味な内部競争の意味)が続いていましたが、「双減」政策の実施により、私たちもその確かな“恩恵”を受けることできました。
2024年12月、私は息子の直近の試験結果を目にして愕然としました。これまでまずまずの成績だったのに、それがジェットコースターのように成績が急降下してしまったのです。目に飛び込んできたひどい点数に、思わず涙がこみ上げました。その夜、息子の机の前に座りながら彼のノートをめくっている時、私の頭の中は疑問でいっぱいでした。
「双減」の実施により宿題や塾の負担を減らしたことで、息子には明らかに自由時間が増えました。本来ならもっと元気で、多方面に成長できるはずだったのに、なぜ成績が下がってしまったのだろうか?ある週末の午後、私は息子をリビングのソファに座らせ、優しく話しかけました。
「最近、勉強どう?しんどい?」
息子はうつむいたまま、服の裾を指でいじりながら、しばらくしてつぶやきました。
「授業で分からないところがあっても、誰も教えてくれないし、宿題も簡単だからすぐ終わっちゃう。だから試験がちょっとでも難しいと、もうダメなんだ。」 私はその言葉に胸がドキッとしました。「双減」で軽減されたはずの“負担”が、まさか息子の学びの足かせになってしまったなんて……。その夜、私は一睡もできず、「双減」が子どもの教育環境にもたらしたさまざまな矛盾や問題点について深く考え込んでしまいました。
宿題を減らす本来の目的は、子どもを大量の課題から解放し、自由に興味を広げる時間を与えることでした。確かに、学校の宿題の量は減りましたが、そこで新たな不安が生まれました。息子は急に増えた自由時間をどう過ごしていいか分からなくなってしまったのです。宿題でいっぱいだった夜の時間は、忙しかったもののそれなりに充実していました。それが今では暇を持て余してしまい、怠け癖がついて、外出もせず家に引きこもるようになり、ゲームが唯一の娯楽になっている状態です。私自身も仕事が忙しく、息子と四六時中一緒にはいられません。その結果、彼はどんどんゲームに依存するようになり、反抗期も相まって言うことを聞くどころか、ゲーム時間の制限や端末の取り上げに対して激しく反発するようになりました。時には「勉強なんかもうやめてやる!」とまで言い出すなど、家庭内トラブルは増える一方だったため、保護者としては妥協せざるをえない状況となったのです。
宿題の強制力がなくなった今、自己管理能力が未熟な子どもたちにとっては知識の定着や発展が困難になり、人格形成だけでなく感情のコントロールにも大きく影響しています。「双減」が目指していた「総合的な素質の向上」という目的とは真逆の結果になっているように感じます。

そこで、「双減」では学校で学ぶ科目の学習塾などは制限されているものの、技術系の習い事は規制されていないので、このまま息子に無意味な自由時間を過ごさせるくらいなら、いっそ何かスキルを学ばせた方がよいのではと考えました。ゲーム漬けの時間から息子を救い出すために、彼の将来に役立つスキルを身につけさせるのが一番良いのではと思い、彼が好きな音楽や絵に注目しました。絵なら、将来的にデザインやアートの仕事にもつながるかもしれません。「よし、そうしよう!」と即決しました。しかし希望と同時に、また新たな問題に直面したのです。習い事にかかる費用は決して安くなく、デザイン系専門学校の受験に対応した絵画教室に申し込みましたが、基礎学習から受験対策まで含まれるコースの場合、週1回の授業で年間合計16,000元(約33万円)かかります。以前通っていた英語塾も年間で18,000元(約35万円)ほどだったので、結局経済的な負担が減るどころかかえって増えてしまっているという状況です。

このような課題を解決するには、学校・家庭・地域社会の三者が協力して取り組むべきだと考えています。現状の課題に対して、自分の考えをいくつか提案します。
まずゲームに依存する子どもが増えている問題に関しては、家庭で親がしっかりと指導し、自律心を育てる必要があると思います。また、放課後の時間を有効に使えるように、学校側から課外活動の提案及び活動目標の設定、発表する場を設けるのも良いと思います。
例えば、授業外の時間や自習の時間に、子どもが自主的に努力した成果(芸術・工作・研究など)を発表する機会を設けたり、仲間からの称賛や共感を得られるような仕組みを作るなど、達成感や情緒的価値が得られれば、成長に対するモチベーションアップが図れるだけでなく、ゲーム依存からも抜け出せるかもしれません。そして、学習塾に頼らずに済めば、家庭の経済負担の軽減にもつながるでしょう。
また受験競争のプレッシャーに関しては、教育当局は引き続き多元的な評価システムを整備すべきです。学校側も学力を伸ばすと同時に、生徒の総合的な成長をサポートし、知識だけでなく思考力や人間力を育成する教育へと移行していくべきだと考えます。基礎教育だけが唯一の進学への道ではありません。子どもたちはより多様な選択肢を持つべきです。これこそが過度なプレッシャーのない環境の下、「徳・知・体・美・労※」のバランスが取れた健やかな人材を育てる道ではないかと思います。
※中国の教育方針の一つ。道徳、知力、健康、美意識、勤勉のすべてにおいて全面的に成長させること。
このように、「双減」は、ただ単に「減らす」のではなく、教育のあらゆる側面を考慮に入れ、関係者が連携しながら取り組むべき課題であると考えます。家庭や子どもたちにとって最善の利益とは何か、それを社会全体で真剣に考えるべき時期なのではないでしょうか。