2025.04.22

「ゴールド界のエルメス」が巻き起こした、中国全土を席巻するゴールドブーム

深夜3時に金を買い求める若者たちは、いったい何を狙っているのか?

出典:RED

最近、国際的に金の価格が急騰していますが、それ以上に注目されているのは中国消費者の異常なまでの行動です。今回は、近ごろ話題となった“騒動レベル”の消費現象を振り返ってみたいと思います。

春節前後からバレンタインシーズンにかけて、中国の金製品を取り扱う高級ブランド「老舗黄金」によって行われた一連のプロモーションが爆発的な人気を集めました。その理由は、設立以来こだわり続けてきた伝統的な金工技術と高級路線に加え、金製品に込められた情緒的な価値にあります。

北京SKP百貨店1階「老舗黄金」の行列の様子
出典:https://finance.sina.com.cn/roll/2025-02-12/doc-inekfssw1555343.shtml
老舗黄金ブランドの「古典技法」シリーズとして知られる、人気モデル「伝統」「点钻(ダイヤ付き)」
出典:https://web-cshd.hbjt.com.cn/article/draft/share/295121

金は高級ブランド品以上?行列してまで金を買う、その本当の理由とは?

「老舗黄金」は一部のネットユーザーから「ゴールド界のエルメス」とまで称されています。
その理由は伝統的な技法だけでなく、金の購入が一種の「儀式」として演出されているからです。すべての金製品に「黄金パスポート」が付いており、購入者が商品に触れるにはまずは白い手袋を着用しなければなりません。さらには、人気モデルは在庫切れ・入荷待ちとなる場合もあります。このような現象の背景には次のような消費心理が読み取れます。

「目に見えて、手で触れられる富」

近年、仮想通貨や株式が相次いで暴落する中、消費者から見て「目に見えて、手で触れられる」実物資産として、金の価値が再評価されています。

「贅沢さと文化的な価値も併せ持つ」

贅沢品は、大衆化・一般化するにつれて「レア感」が薄れつつあります。しかし、無形文化財にも登録された技術によって作られた金のアクセサリーは、再び文化的優越感をもたらすアイテムとなり、SNSに投稿することで注目を浴びることができる「レア」なコンテンツになっています。

「投資センスの証明」

金を買うために何時間もかけて並ぶという行動は、将来の価値の上昇を信じ、慎重に判断している自分を証明したいという消費者心理が働いていると思われます。

スタッフが行列に並ぶお客様にエビアンの水やゴディバのチョコレートを手渡しています。
出典:https://web-cshd.hbjt.com.cn/article/draft/share/295121

拝金主義の象徴だった金が、「投資対象」から「スピリチュアルな象徴」へと変貌

REDでは、多くのインフルエンサーたちがゴールド開封動画を投稿しています。
出典:RED

「潮宏基×敦煌博物館」のコラボショップでは、若者たちがこぞって買い求めているのは金インゴットではなく、空を舞う天女を描いた伝統的な「飛天」模様が刻まれた「ゴールドカードお守り」です。金としての重量は軽いにもかかわらず、プレミアム価格が付けられています。
また中国の老舗ジュエリーブランドと宇宙関連企業がコラボしたシリーズである「菜百航天文创金」では、月隕石の模様を刻んだ金ブレスレットまで登場しました。これらの金製品はお年寄りではなく、SNSでトレンドを追いかける若者たちの関心を集めているのです。

「潮宏基×敦煌博物館」コラボ商品と、「菜百航天文创金」の月隕石ブレスレット
出典:RED

これらのことから、金はもはや貯蓄や投資ではなく、スピリチュアルな象徴へ変貌し、その背景にある文化的なストーリーで消費者を引き付けていることが読み取れます。これはまさに「玄学経済」のトレンドと同様に、若者たちがお寺で学業成就や金運、恋愛祈願をするのと同じにように、金にも「すべてが上手く行きますように」や「金運向上」などといった意味が付与され、感覚的・精神的な価値を持っているようです。

※中国のインターネットスラング。科学的根拠は薄いが、「運気が上がる」「縁起がいい」などの感覚的・精神的な価値にお金を払う経済活動のこと。

金の多様化:金フィットネス、金タピオカミルクティー、金火鍋まで?!

さらにシュールなのは、金があらゆる生活シーンに無理やり使われていることです。北京SKPの「老舗黄金」では深夜から行列ができ、南京の徳基広場にあるジュエリー店「周大福」の金工ワークショップでは、若者たちが自ら金のアクセサリーに篆刻を施そうと殺到。杭州のジュエリーブランド「曼卡龍」では、金インゴッドがダンベルやコーヒー豆の形に。ここまでくると、金の消費はもはや「価値保存」の枠を超え、投資への不安、ソーシャルカレンシー、文化的アイデンティティを交えた「国民的アートパフォーマンス」と化しています。

杭州のジュエリーブランド「曼卡龍」では、フィットネス上級者が筋トレしながら富を見せびらかすことができる「ゴールド・ダンベル」を発売。
上海のミルクティー店「茶店長」では、「金掘りキャンペーン」を実施。ドリンクを2杯購入すると、999足金1gが当たるチャンスがもらえる。
深圳のプログラマーは、年末ボーナスを溶かして「金のキーボードキー」を作成。毎日コードを打つたびに「富の触感」を感じられるという。
また、REDではインフルエンサーが70万元をかけて作った「金火鍋」を投稿して話題に。

一見ふざけているように見えるこれらの金の派生アイテムですが、これには現代人の資産に対する不安が映し出されています。バーチャル世界が経済を支配しつつある今日、たとえその実用性がゼロであっても、人々は何か「リアル」で確かなものを求めています。この一見おかしな金のトレンドは、実は国民全体の心の癒しの一環かもしれません。人々が本当に求めているのは、金そのものではなく、「富に対する安心感」、「文化的アイデンティティ」、「ソーシャルカレンシー」、そして「スピリチュアルな癒やし」なのではないでしょうか。

もし今度深夜3時にゴールドショップの前に並ぶ人を見かけても、決して笑わないであげてください。
彼らは、5年前にiPhoneを買うために並んでいた人たちと同じように、ごく「普通」なことをしているだけなのです。