2020.11.26

2020年“W11”の注目ポイントを振り返る

中国のEコマースにおける一大商戦であるW11(ダブルイレブン)は日本でも話題かと思います。今回の記事では、簡単にW11を振り返りつつ、当社が注目したW11クリエイティブを紹介したいと思います。

 

数字で見る2020年“W11

約1か月に及ぶW11商戦も活況のうちに終了、11月12日0時の時点でアリババが発表した数字によると2020年のT-mallにおけるW11(11月1日~11日)の総取引金額(GMV)は4982憶元、日本円にして約8兆円に達しました。

直近3年で見ても、W11商戦に参加するブランドが今年も大幅に増加したことが分かります。
2018年、参加ブランド数:18万。
2019年、参加ブランド数:20万
2020年、参加ブランド数:25万。

W11商戦全体でプロモーションに出された商品数は1400万、昨年の1.4倍にのぼります。
また、今年のW11は、初めて不動産と自動車が加わったことも話題となりました。この不動産と車は将来のT-mallにおけるGMV成長のドライバーと言われており、W11を盛り上げる要因ともなりました。不動産と自動車の取引額が含まれたことが今年のW11の総取引金額増大の理由と見られています。

 

クリエイティブで見る2020年“W11

私個人的には毎晩時計とにらめっこしてお買い得品に飛びつく、ような熱意はだんだんと薄れて来ましたが,W11は大手ブランド達が凌ぎを削って自分達のクリエイティブを競い合う場とも言え、そういう意味では見ていて面白く感じられます。中国でクリエイティブ支援を行う当社の目線で、今年のW11で印象に残ったものをいくつかシェアしたいと思います。

まず、以下のプロモーションを見ていきます。

第一 “今年のW11、私たちはこの戦いから退場します

多くの人を驚かせたのが、ECプラットフォームである「綱易厳選(NetEase Yanxuan)」がW11開始前に発表した「W11退場宣言」です。
“いつからでしょうか、W11が来るたび、私たちの目の前にはプロモーションの大きな波が次から次へとやってくるようになりました。理性を狂わせ、人を扇動するような謳い文句、途切れない商業的なシグナル、次から次へと更新されるデータ・・・これらが狂喜とも言えるものを作って来ました。”

さらに、多くの人が狂喜に湧く中で「消費はしても、消費主義にはならない」のプロモーションムービーを配信しています。ムービーでは、さまざまなブランドの広告を彷彿とさせる表現の中で、それらの主張に対して異を唱えるナレーションが続き、多くのブランドが「過度な消費」を叫ぶ中で、自分にあった消費、適度な消費、理性的な消費を主張しています。

綱易厳選(NetEase Yanxuan)もECプラットフォームの一つですが、違った価値観を打ち出すポジショニングをとった、つまり「無理な消費主義」に賛同しない態度を表明したことが彼等が今回とった戦略といえます。これはW11の消費熱がピークを迎える中で賛否両論の議論を生みだしましたが、綱易厳選(NetEase Yanxuan)のユニークな存在を知らしめることには成功したといえます。

綱易厳選(NetEase Yanxuan)は、コロナ禍においてもこのように「逆」のメッセージを出す広告で注目されています(※詳しくは以前のブログを参照:「この広告をみないでください」https://www.balconia.cn/blog/donot_look_this_ad.html)。彼等の方法に賛否はあると思いますが、大きなトレンドの中でいかに独自性を出すか、いかにそのトレンドに異を唱えるのか、といったポイントはクリエイティブにおいて非常に大事なポイントであるといえます。

第二 “生活に溢れる「やわらかい」を愛そう”

こちらは老舗のちまき・米菓ブランド五芳斋がW11中に出したショートムービー「柔らかいのが良い」です。もち米のお団子をキャラクター化し、2つ(2人)のソフトで可愛い対話の中でやさしく朗らかな世界観を打ち出しています。山脈、流れる水、緑の木々、田舎の小道......ショートムービーの中では、中国の色彩豊かな風景が映し出され、それぞれ「愛情」「大人」「登山」をテーマに、2つのお団子が人生を語っている様子は、まさに癒しに溢れています。

例えば、「愛情」のテーマでは、“先に自分自身を大事にしよう。だからこそ、自分のパートナーに出会えた時に「お互いを大事にしよう」って言えるんだよ”、といったコピーが印象的で、柔らかく可愛い外見にくるまって、2つのお団子が現実味のある、深いメッセージを伝えます。

擬人法の手段を用いた表現、更に白いお団子が茶色いお団子を不注意で噛んでしまうような動きが、ショートムービー全体に面白味を加えています。小さい子どもの声を用いたナレーションも心にストレートに響き、若者にとって避けて通れない「愛情」「仕事」「人生」という3大テーマを嫌味なく語り、強い共感を呼びました。ネットでも多くのユーザーからの共感の声があがっており、“大人の世界では、休みの時だって、場所を変えて残業するだけ、だからね・・・”というような殺伐とした現代社会に生きるユーザーの心に響いたことが分かります。
ブランドの「やわらかい」という商品の特徴が、コピーやビジュアルの中で見事に表現されており、結果として商品の良さやベネフィットを上手く伝達しているといえます。

最後に T-mallの「猫の頭」プロモーション

今年はW11が始まって12年目となりますが、T-mallのW11のロゴにおいて、いかに「猫(T-mallのキャラクター)の頭+11.11」というフレームを崩さずに、残りの20%のデザイン空間を使って独自性を表現するか、これが各社デザインチームを悩ませる課題となっています。

2020年は、コロナで始まった非日常な生活の中でW11を迎えることになりました。アリババのデザインチームは、1年1度のT-mall  W11の盛り上がりを通して、困難な生活の中で前に進もうとする消費者への連帯を表現しようとCheer Up! 生活会更好,加油!(生活はもっと良くなる、がんばろう!)のスローガンを制定しました。

また、“小さいことから始めよう”というテーマを「 Cheer Up! (生活会更好,加油!)」のスローガンと結びつけ、よりテーマを具体化しています。そして、人々を応援するポジティブなエネルギーに溢れるものを目指し、「 猫の頭 + 11.11 + 手を高く上げたポーズ 」=「T-mallが頑張るあなたのために手を差し伸べる、頑張ろう!」をメッセージに据え、2020年W11のロゴを設定しています。このメッセージは、ロゴの動作を見ると一目瞭然です。なかなかイラストでは理解しづらいメッセージを、イキイキとしたイメージでダイレクトに伝えることに成功しています。

スローガンとロゴに続き、「1起挺你,尽情生活(みんなで支え合い、生活を楽しもう!)」というデザインテーマが設定され、「猫の頭」をベースに使ったデザインに展開し、各ブランドがクリエイティブに溢れるポスターを制作、あっと驚くようなデザインも多く、大注目の1つとなりました。
これまでと少し異なるのは、今年のポスターでは全て同じ猫の頭の輪郭を用いながら、各ブランドの特徴を表すビジュアル、コピーが表現されており、T-mallのW11のためだけに準備されたものとなっていることです。

例を見ていきましょう。

① 拉面說(ラーメン says

日本式のラーメン屋が猫の頭と結合、夜中に帰路についても暖かい灯りに包まれたラーメン屋さんが目につけば、とても幸せな気分が訪れます。

② ユニクロ優衣庫

この色とりどりのカーディガンの棚、一目でユニクロ、と分かるかと思います。ユニクロは自身のショップの特徴を用いて、洋服の色で猫の頭を表現しました。パッと見で、ブランドを識別できる独自性に溢れるものと言えます。

③ HUAWEI华为

イラストの上下の色の対比と放射線状の線といったビジュアル効果が強烈で、さらにバーチャルなイメージの自動車、オートバイといったエレメントがサイエンス感を強く表現しています。もちろん、センターには「お月様もキレイに撮れる」Huawaiのスマフォが位置しています。

④ Dyson

マンションの窓、そこから見える家庭の灯りで猫の頭を表現しています。窓からはDysonの家電を使っている家庭が映し出されており、ストーリー感と温かみをしっかり伝えています。

全てをここでお見せすることは出来ませんが、全部で55のブランドが本ポスターを作成しています。ブランドのエレメントとT-mallのロゴが合わさりながら1つずつ違ったクリエイティブに仕上がっています。猫の頭デザインは、後になればなるほどどんどん難易度が高まるといえますが、私個人は今年のポスター達は去年を上回るクオリティのものが多いと感じています。

このように見ていくと、中国においても多くのブランドが表現のクリエイティブにおいてブランドらしさを出そうと注力してきているのがわかります。ビジュアル、文章に限らず、balconiaはクリエイティブを強みとするブランドコンサルです。中国のクリエイティブで悩まれたら、是非お声がけ頂けますと幸いです。

YUI