2021.11.12

ニッチからマスへ、ポッドキャストマーケティングは大勢の消費者をターゲットにできるのか?

ポッドキャストとは、ポータブルプレーヤーiPod(アイポット)と放送(Broadcasting)を融合した、デジタルブロードキャストテクノロジーの一種であり、2004年アップル社のiPodの登場とともに誕生しました。これにより、ラジオ番組のように放送を待つことなく、人々はいつでもどこでも自分の好きな番組を楽しむことができようになったのです。新しい視聴スタイルの出現は、便利さを実現しただけでなく、自分が主役となり番組を制作し、インターネットを通じて、自分の声を他のユーザーに届けたりシェアしたりすることが可能となりました。

そして、2020年ポッドキャストは爆発的な成長を見せました。(コロナ禍の影響により在宅勤務などで増えたおうち時間を使って収録していた方が多かったようです。)Listen notesのデータによると、2020年一年間で約100万ものポッドキャストコンテンツが増え、2019年の3倍にものぼっています。2021年の増加テンポはやや緩やかになってきていましたが(コロナ禍の収束により徐々に平常を取り戻しつつあるため)、10月15日時点でのポッドキャストは64.1万にまで増加しています。

中国国内の主なポッドキャスト配信APP:

微信公众号:CN广告网资讯
https://mp.weixin.qq.com/s/l46aG4GGZKuKvLfX-53BwQ

ポッドキャストはなぜ多くの視聴者を集めるのか、こちらの「2021年ポッドキャスト視聴者調査研究レポート」にその答えが隠されています。

「2021年ポッドキャスト視聴者調査研究レポート」https://cdn.wavpub.com/reports/podcasterunion-survey-2021-zh.pdf

視聴場面ジャンル別では、トップ3が「通勤時」、「就寝前」、「家事をしている時」となっており、その中で「通勤時」にポッドキャストを楽しむ方が最も多く、全体の61.9%を占めています。

「2021年ポッドキャスト視聴者調査研究レポート」https://cdn.wavpub.com/reports/podcasterunion-survey-2021-zh.pdf

また、視聴コンテンツレーティングでは、上位6位に「映画テレビ」、「歴史」、「文学」、「音楽」といった文化コンテンツがランクインしています。多くの人々がポッドキャストを通して、スキマ時間を有効活用していることが見てとれます。また、このような寄り添い型の学習スタイルによって、知識の獲得につながることを期待しているようです。読書や文字を通じたインプットスタイルは人々から遠ざかりつつあり、一方で、スキマ時間の有効活用というニーズが増えつつあります。

このような理由から、中国国内ではより多くのブランド企業がポッドキャストマーケティングを試みています。2021年上半期だけでも、ポッドキャスト配信をする新鋭ブランドが続々登場しており、その中には、各分野のトップランナーとして知られる人気ブランド「三顿半(Saturnbird Coffee)」や「永璞(YongPu Coffee)」、「NEIWAI内外(インナーウエアブランド)」、「拉面说(RamenTalk)」などの姿も見かけられます。このほか、高級車ブランドレクサス、ECプラットフォーム天猫、独自コンテンツで人気の「新世相((Xin shixiang))」、さらには国際環境保護組織「绿色和平(グリーンピース)」などもポットキャスト配信を試みています。実は、海外ではポッドキャストを用いた広告配信はすで普及しているのです。Chanel、Gucci、Guerlain、Hugo Boss などの有名ブランドは独自のポッドキャストチャンネルを持っており、プロダクトリリースにまつわるストーリーやエピソートなどのコンテンツを配信しています。しかし、ポッドキャストというスタイルが中国で大ブレークしたのは2020年で、特に下半期に入ってから新消費スタイルが追い風となり、国内ブランドとポッドキャストの濃密なコラボがようやく始動したのです。

以下、ビジネスコラボ事例を2つご紹介します:

(1)ポッドキャスト番組のホストと広告主のコラボ

微信公众号:福神fusion
https://mp.weixin.qq.com/s/A34dBjbB4GkOqHoj7kuneg

今年のレディースデー(3月8日)、「NEIWAI内外」(インナーウエアブランド、フェイ・ウォンがイメージキャラクター務める)はポッドキャスト番組「随時波動」のホストとコラボし、「NEIWAI内外」の創設者、「葩说(変わり者トークショー、中国の人気弁論バラエティ番組)」のディベーターでもある詹青云や協和医院産婦人科の張羽一先生をゲストとして招き、現代女性のワーク・ライフにまつわる考え方や経験談について話し合われました。

「随時波動」は女性視聴者が多く集まるポッドキャスト番組です。主に女性をターゲットとした、女性目線から見たリアルな生活やエピソードなどのコンテンツを配信しています。

コラボの効果を見てみると、コマース化自体はユーザーに受け入れられる一方で、かなり質の高いコンテンツが求められているようです(視聴率、インターアクション、コメントや内容への返信など)。コマースとコンテンツの融合がうまくいかないと、ポッドキャストとブランド両方にとって残念な結果になってしまう可能性があるので、注意が必要です。

(2)ブランド独自のポッドキャストチャンネルを運営:新興コーヒーブランド「三頓半(SATURNBIRD COFFEE)」の「フライング放送」

微信公众号:福神fusion
https://mp.weixin.qq.com/s/A34dBjbB4GkOqHoj7kuneg

「フライング放送」はコーヒーとライフスタイルに特化したポッドキャスト番組です。番組ではコーヒーファンを招き、各自の体験談を話す場を提供しています。このほか、「泡泡玛特 POP MART(ポップマート)」も同様にポッドキャスト「POP PARK」を運営しており、人気アーティストや業界関係者をゲストとして迎え、流行カルチャーの普及に向けたトークや情報シェアをしています。

新鋭ブランドがなぜポッドキャストマーケティングを選んだのでしょうか。それは、ポッドキャストには「優れたコンテンツ」、「優れた共鳴力」、「優れたユーザー価値」、「優れたコスパ」という4つの優位性を持っているからです。

「優れたコンテンツ」とは様々な業界のスペシャリストホストを通じてその質を保証するものです。ポッドキャストに注目が集まると、メディアや広告、出版、金融業界のスペシャリストたちは業界を跨いて活躍するようになり、得意とする分野の知識や10数年の業界経験を活かし、文化現象、市場特徴または社会現象等のホットトピックについて自分の洞見を述べたり、知識をシェアしたりします。

「優れた共鳴力」を得ることができたのは、UGC(ユーザー制作コンテンツ)を生み出したポッドキャストファンがホストとしてデビューしたおかげです。彼らは専門家のようなトークはできないかもしれませんが、視聴者に寄り添い、リアルさを届け、自分たちのデイリーライフやステータスをシェアすることで視聴者に感銘を与えているのです。ポッドキャスト番組「得意忘形(有頂天外)」のホストを務める張瀟雨は、ポッドキャストホストと視聴者は「添い寝」の関係にあると話していました。

コンテンツは全く異なるものになっていますが、「知識獲得のためならお金を払ってもも良い」、「情緒的ケアにお金を払っても良い」というような「高価値ユーザー」たちの注目を集めているのです。 PodFest Chinaが発表した「2020中国語ポッドキャスト視聴者及び消費者の調査研究」によると、中国語ポッドキャストの視聴者のうち、一線都市や新一線都市で生活している大学卒業以上または同等の学歴を有するユーザーは全体の50%以上を占めています。視聴者との心の触れ合いを通して、今まで以上に絆を深めることができたのです。今のポッドキャスト群体は比較的良質で、インフルエンスをポジティブに受け止める群体であると言えるでしょう。

「優れたコスパ」とは、他と比べてもポッドキャストのコストはとても低いということです。データから見てわかるように、ポッドキャスト番組の視聴量は12ヶ月で倍増するため、ロングテール効果は明らかであり、一回のポッドキャスト配信で数週間から数ヶ月にわたりビジネス価値を持続的に生み出していきます。コンテンツ企画制作の「新世相(Xin Shixiang)」の副総裁がポッドキャスト番組「津津乐道(楽しく喋りまくる)」で、「WeChatの閲覧数の平均価格は1回当たり1.5人民元、Bサイト(BiliBili動画サイト)は1回あたり0.6〜1元であるのに比べ、ポッドキャストの視聴平均価格はたったの0.05-0.1元です」と話していました。

ポッドキャストマーケティングに関して、業界内では「まだ売れるマーケットとは言えない」というような共通の認識が持たれています。確かに転換率向上を目的としているマーケティングと比べると、ポッドキャスティングの役割はロングスパンでの視聴者囲い込み、ユーザーとの繋がりであり、そして、知らず知らずのうちにブランドイメージが確立されていく仕組みになっているのです。

とはいえ、ポッドキャストにはメリットがたくさんあるものの、企業ブランドがポッドキャストマーケティングを始める場合、直面しなければならないチャレンジすべき課題があります。

まずは配信効果の測定です。現状データからポッドキャストティングのマーケティング効果を測定することは難しいようです。通常、ポッドキャスト番組は複数チャンネルで同時配信をするが、全てのインターネット間でのデータ共有はまだ実現されておらず、配信データの統計やリンク追跡などが難題となっています。

次に、ポッドキャストマーケティングのハードルは決して低くなく、これまでのキャッチコピーや動画マーケティングと違うため、従来手法ではうまくいかない可能性があるという点です。わかりやすい例をあげると、ポッドキャストのコラボで、企業ブランドと番組ホストのコラボスタイルは通常の「甲乙」という契約上の力関係ではなく、殆どのホストは非常に名誉を大切にしており、コンテンツ制作に心血を注いでいます。そして、番組コンテンツの一貫性を保つため、コラボするブランドの選択をする際は非常に慎重で、主導権を握りたがります。企業ブランドはホストにある程度の権限を与えることも必要となってくるのでしょう。

前述のように、中国でのポッドキャストの普及はまだまだこれからです。公式アカウント、ショート動画、ライブなどが徐々に飽和状態になりつつある中で、ポッドキャストは今後大きく発展する可能性を秘めています。

最後に、今年3月ポッドキャスト公社が発表した「2021年ポッドキャスト視聴者調査研究レポート」のリンクを貼っておきますので、ご興味のある方はご覧ください。または弊社までご連絡ください、お待ちしております。

https://cdn.wavpub.com/reports/podcasterunion-survey-2021-zh.pdf