2020.10.27

中国のアート事情

中国のアート事情と発展

アートや芸術に関して、日本に住んでいた時よりぐっと身近になった気がする。
それはハイブランドが多々美術館などで展示を行ったり、モールの中に普通にアートスペースが存在し、誰でも気軽に触れられるものにまで一般化されているからではないかと思う。これは本当にすごいことだと思う。
一般の人からも、アーティストからも、他国からも、アート市場としてかなり注目されている上海。すでに上海はアジアのアート中心地になってきている例をご紹介します。

 

上海は美術館オープンラッシュ、アートフェアも盛んに

上海の創意産業区(クリエイティブエリア)M50などがアートの中心だったが、近年それ以外でも有名な美術館がいくつもある。

・上海当代芸術博物館(中国初の国営現代美術館)
龍美術館(ロン・ミュージアム)
余徳耀美術館(ユズ・ミュージアム)
・上海撮影芸術中心(センター・オブ・フォトグラフィ)
上海油罐芸術中心(TANK Shanghai)
・ポンピドゥーセンター(期間限定で西岸美術館内にオープン)
・上海喜玛拉雅美术馆(ヒマラヤ・ミュージアム)
・Prada荣宅

美術館ラッシュは建設だけではなくきちんと発展しており、2019年では上海市の美術館は960の展覧会を開催し、841万人以上を動員した。
(参考:http://japanese.pudong.gov.cn/2020-01/22/c_449647.htm)

実は美術館だけでなく、西岸には草間彌生作品を取り扱うオオタファインアーツやPerrotin、Lisson、Admire Reich Galleryなどすでに海外ギャラリーが進出し始めており国際色が強まってきているほか、2018年には上海ビエンナーレ、ART021、Westbund Art & Designというアートフェアが開催された。約100の世界有名ギャラリーが出展し、世界各国の現代美術作品が並び大盛況となった。
ART021の世界最大のメガギャラリーガゴシアンのブースでは、村上隆の代表作である「お花」モチーフのシリーズと、ルイ・ヴィトンのメンズディレクターであるヴァージル・アブローとコラボレーションして制作され限定品のバッグはどちらも完売となったようだ。
(参考:https://bijutsutecho.com/magazine/news/promotion/18813)

このアートフェアの活況から、上海のアートフェアは世界的に有名な香港のアートバーゼルとほぼ互角のところまで来ているといわれているほどだ。
芸術活動が盛んな都市は 「art capitals(芸術首都)」と呼ばれる。
現代作家は国境を意識せず、各都市で毎月のように開催されるアートフェアやビエンナーレに集まる。そのため「上海」として存在感を出していくのが重要なのだろう。

実際アートフェア時期含め、デザイナー・エンタメ・広告代理店関係の知人らが代わるがわる来中した。それまで中国といえばITイメージの深圳のほうが中国に来る理由が多かったのに対し、2018年は一転して上海のアートやエンタメ文化がメインの来中が多かったように思う。

こんなに美術館やアートフェアが闊達なのはただのブームではなく、2018年に上海市が「上海美術館ブランディング3ヵ年行動計画」を発表しているからである。その三か年計画とは、”国際基準と事例をベンチマークし、上海の美術館のブランドを促進し、「上海文化」のアイデンティティを高め、より良い生活を求める新世代の願望に応える”とのことだ。

具体的な内容をいくつか挙げると、以下の通りである。

・美術館のキャパシティビルディングを強化し、全体のブランド効果を高める
 →各美術館が1~2ブランドの展覧会を制作する。
 → 市内での展覧会企画研修会を開催し、学芸員研修を強化する
 → コレクションの管理を強化(美術館に修復センターやその他の専門部門を設置) 

・市民の獲得感と満足度を高める(獲得感、は美術やアートなど文化への障壁の低さ、みたいな文脈です)
 →市内16地区の数百万人の市民を対象に、100回の展覧会、100回のガイドツアー、100回の講演会、100回のテーマ別公教育活動を実施し、美術館を訪れて公教育活動に参加するライフスタイルの醸成を目指す
 →美術館の建設と都市文化の雰囲気づくりを組み合わせ、質の高い親しみやすい巡回展を2~5回開催する。
 →美術館の基本情報や交通ルートなどを掲載した「美術館マップ」を作成し、美術館の受付窓口や地下鉄の駅などで無料で収集できるようにする
 →現場やインターネット上でのコメントを通じて、市民が展覧会の見学や公教育活動に参加した感想を共有できるようにする

 

参考:上海市美术馆品牌建设三年行动计划(2018-2020年)

http://wgj.sh.gov.cn/node2/n2029/n2031/n2090/u1ai158795.html

”国際文化都市にふさわしい芸術生態環境を形成するように努力する”と明言している通り、掲げるアクションが具体的かつ実行されているところをみると施策の本気度がうかがえる。美術館のシステムや質だけでなく、市民への満足度までも国をあげて世界を見据えて取り組んでいるのを見ると、猫眼(映画を含む娯楽チケットを買えるアプリ)を使いながら、日本でも同じように取り組めるといいなと思う。

この施策か付随してなのか、上海国際映画祭、上海ブックフェアなどアート以外にも芸術祭が相次いで開催されている。
今年も上海映画祭は行われ、日本では2021年公開の「子供はわかってあげない」や、今敏「パプリカ」「千年女優」、北野武「座頭市」「ソナチネ」などの永年の有名作から、「すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」など幅広いラインナップで毎年チケットは即完売するほど注目されている、中国で唯一の国際映画製作者連盟公認の映画祭だ。
もちろん上海ブックフェアも例年通り行われ、盛況さは年々増すばかりだ。

 

中国はアート市場世界二位。アートは見るだけではなく投機。

美術館だけでなく、オークションハウスChristie’sやSotheby’sなども上海にすでに存在しており、2018年秋にはアジアで初の試みとして、香港と上海で新規顧客向けのイベント、Christie’s Latesが開催された。
2019年では収益ベースのオークション売上高世界2位を記録しており、すでにアート市場として中国は見逃せない存在となっている。これまでアジアではほとんど香港で開催されてきた現代アートのオークションも、今後は徐々に上海での開催も増えていくだろう。

2019年上半期 収益ベースのオークション販売トップ10か国 

国 - 売上高 (市場に占める割合)
1、アメリカ - 26億7783万5000ドル
2、中国 - 17億6287万5000ドル
3、イギリス - 14億822万9000ドル
4、フランス - 3億2964万9000ドル
5、ドイツ - 1億3156万7000ドル
6、イタリア- 1億847万3000ドル
7、スイス - 7028万ドル
8、日本 - 5277万2000ドル
9、オーストリア - 4998万3000ドル
10、オーストラリア- 3226万4000ドル

参考:Stronger Demand for Contemporary Art
https://www.artprice.com/artprice-reports/global-art-market-in-h1-2019-by-artprice-com

ここまでオークションが加熱するのは、日本のコレクターのように芸術に親しんで作者や作画に惚れて所有目的で・・・というわけではなく、蓄財や投機商材としての人気が沸騰している。そのため、デザインよりも希少な素材が使用されているとか、価格や価値が高騰しやすいかどうかなど重要視して売買している。
アートフェアが活況なのも、セカンダリー市場での需要がたくさんあることなどをを見越して購入するような、いわゆる株を行うのと一緒のような扱いの場合が多い。
またプライマリーマーケットに出る前に青田買いすることも、プライマリーマーケットに出展せずいきなりオークションに出展するということも起きている。
強く株的に見る傾向は、これから発展とともに変化していくことだろう。

 

ハイブランドの展示など「网红展」が一般的に

プラダ美術館や、ハイブランドの展示が至る所で行われている。
日本では行われてないものも多々あり、2018年から私が行っただけでもかなりのハイブランドが並ぶ。

GUCCI:「THE ARTIST IS PRESENT」余德耀美術館
TOMFORD:「解禁TOMFORD世界」上海外滩源1号
Louis Vuitton:「Volez, Voguez, Voyagez」上海展覧中心
CHANNEL:「MADEMOISELLE PRIVÉ EXHIBITION IN SHANGHAI」西岸芸術中心
Tiffany & Co.:「VISION & VIRTUOSITY」上海Fosun Foundation
Dior:「Christian Dior:Designer of Dreams」龙美术馆西岸馆

見てもらうとわかる通り、何処を切り取っても「映え」る。ハイブランドの展示で自分込みの写真を撮るという光景、日本ではあまりなかったように思う。ここ中国ではオシャレなカフェ行くのと同じような気持ちで展示会に行き、映える写真を撮る。むしろその写真を撮るためにその場所へ行くのである。
そのためハイブランドの展示へのハードルがとても低く、美術やアートに造詣が深くなくてもハイブランドの展示は見にいく、という層が一定数存在する。
チームラボが上海の西岸に常設展を設けているが、入場料が229元(9/23現在)と強気なのにも関わらず連日盛況なのはこの文化にとてもマッチするためだと思われる。

ハイブランドばかりでなく、商業施設で展示するものとして「映えるアーティストや作品を誘致してほしい、とにかく目立つようにしてほしい」という商業施設側の要求は以前として激しいようだ。そのためか、2018年には上海のモールがオープンする際に「草间弥生×村上隆双联展」とうたい、二人の作品と称する展示が多数出品されるがすべて贋作のイベントが登場した。(そのあと上海では本物の展示会も開かれていた)

そんな映えも、たくさんの小さな個展やイベントも増え、ここ一年ほど様子が少し変わってきている。
民宿と展示スペースがセットになった「CAMUS」など、何処を切り取っても画面が映えるこの施設は知る人ぞ知る感も相まってとても人気だ。(民宿も日本語のイメージではなく、オシャレにリノベされ、ホテルとAirbnbの相の子のようなイメージ)
商業施設でいうと「TX淮海」では入口に大きな展示スペース、さらには中にいくつかの展示スペースとインディーズファッションのフロアなど、文化ブーム(ブームと言っていいのかわからないが)を体現するような商業施設となっており、連日にぎわっている。

商業施設や民泊までそのような風潮であるアートは、一部の人のものというハードルの高いモノでは決してない。それどころかここ数年、アートは一種の趣味のような、あって当たり前の文化にすら感じる。
国、お金、市民の意識がアートや文化に大して身近なものになっている上海。盛り上がり続ける文化シーンはますます見逃せない場所となっている。

 

参考サイト:
上海市文化観光局、「2019年上海市美術館運営状況報告」を発表
http://japanese.pudong.gov.cn/2020-01/22/c_449647.htm

【美術解説】アートワールド「21世紀の現代美術」
https://www.artpedia.asia/art-world/

なぜ「かぼちゃアート」に8億の価値があるのか
https://president.jp/articles/-/30972?page=4