2021.04.20

本名の重要さが低い?中国の名前と呼び名事情

 日本では夫婦別姓が騒がれている中、中国では夫婦別姓のため一生名前は変わりません。
 しかしながら日本と比べるとなんとなく名前が同じ人が多いように感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は中国の名前と呼び名についてご紹介します。

同じ名字に出会う確率が段違いに多い中国

 現在の日本では約30万種類ほど存在し、その中の約7000種類ほどの名字で人口の96%をカバー、TOP10の名字で人口の約10%カバーしていると言われています。同じ名字の方に出会うことは稀ではないかもしれませんが、姓名の組み合わせでは同音の方がいることはあれど字が異なったりなどしてなかなか同名の方に出会うことはありません。

 対して中国、現在約6000種類程度の名字ですが、TOP5の名字の人口は全国世帯数の30.8%。約三人に一人がTOP5の名字という計算です。みなさんの周りにも「王」「李」「張」「劉」「陳」さんがいらっしゃるのではないでしょうか。

2020年の名字の多さTOP100。
参考:《二〇二〇年全国姓名报告》发布http://www.gov.cn/xinwen/2021-02/08/content_5585906.htm

 上位100まで見るとわかる通り、基本的に中国は「単姓(単一姓)」といって一文字の名字が主流です。「复姓(複合姓)」というに文字以上の名字も存在はするのですが、人数はそこまで多くないようです。そのため中国語になじみがない人からすると同じ名前が多く見えるのは至極当たり前のことのようです。

子供の名前の付け方と重複度合い

 中国はもともと子供は父方の姓を名乗る習慣がありましたが、2016年の二人っ子政策以後母方の姓を名乗る状況が増え、祖父母の姓を名乗る子供も増加しました。 2020年には12人に一人は母方の名字を引き継ぐようになったそうです。

 名字は同じものになることが多いことが分かりましたが、なぜ名前も同じになってしまうことが多いのでしょうか。日本だと名前の意味などをよく聞きますが、中国だと音の響きや親の名前、産まれた日にまつわる事柄など、シンプルな理由が多い気がしています。例えば新中国が建国された年代は「建国」「建華」など国にまつわる名前が多かったり、1970-1990あたりまでは割と同じ文字の「伟」「静」「丽」などシンプルな一文字がランクインしていました。しかし2010年になると趣向がガラッと変わり、TOP10がすべて二文字の名前に変わっています。おそらく一人っ子政策(1979-2014)もかなり関係しており、その子世代は個性が出るような名前の傾向になっているのではないかと思われます。

 その傾向は上海市の行政手続きのミニプログラムにも現れているように思います。名前を検索すると上海で同名が何人いるか出してくれる機能が存在しており、子供の名前を付ける際に参考にする機能のようです。

 私は結構変わった名字をしておりある程度個人を特定できるレベルの情報のため、名前=個人情報の一つだという意識が結構あるのですが、中国に来て同名の多さ、またこの機能を知り、”名前というものは個人情報として重要度の低いもの”と感じた一件でした。

各時代で最も使われた名前ベスト10
2021/3/25現在で、王建国さんと同じ名前の人は1442です。

幼名(小名)というものがある

 中国では幼名と言って、小さいころに付ける家庭内のあだ名のようなものがあります。例えば名前の一部を二回繰り返してリンリン、ランランのような名前にしたり、力強い動物名「虎子」や子供(baby)に関連する「貝貝」、「草苺(いちご)」など食べ物など様々です。 この呼び名は基本的には家庭内の目上の人が目下の人に対する場合に限られた名前であり、大人になると自然と使用しなくなります。

 生まれてすぐ本名を使わずあだ名で過ごす、しかもそのあだ名が呼べるのは目上の人だけという条件は、字(あざな)文化があったり、諱(いみな、実名のこと)を直接呼ぶことを避けた中国ならではの文化なのかなぁと思わずにはいられません。

呼び方は関係性が大事

 基本的に中国では名前を呼ぶときにフルネーム呼びです。日本では山田太郎という方は「山田さん」と呼ばれますが、中国では「山田太郎」または「山田+役職」で呼ばれます。その他に、もし山田さんが若い方であれば「小山」(山田ちゃんな感じ)、結構上の方で親しい間柄であれば「老山」(山田のアニキ、な感じ)というように親しいかどうか、年齢が上か下かによってかなり呼び方にバリエーションがあります。

 先ほどの幼名も目上から目下への言葉である通り、特に年齢の上下、親族呼称は実に複雑です。例えば日本では「おじさん」「おばさん」ですが、父の兄弟姉妹を呼ぶ時のバリエーションには様々な呼び名があります。

仕事では本名を知らないことがままある

 私が中国に来て本名の重要性が低いと思うもう一つの理由は、自分のニックネームを仕事でも使っている人が多いと感じることです。実は同僚のkakiやASA、クロ、ゆい、puppyもニックネームで仕事をしています。基本的には中国ではLINEのようなアプリのWechat上でチャットのように仕事をするので、ニックネームしか知らないお客様やパートナー企業の方もたくさんいらっしゃり、本名を知らないまま案件が終わっていくこともままあります。

 LINEで表示されている名しか知らない、といえば想像できますでしょうか。

 中国に来たばかりの時は毎回「この人は怪しい人じゃないだろうか?」と思っていましたが、たくさんのニックネームの方に出会い、今ではこの気楽さがとても馴染んでいます。

 私が中国に来て名前や呼び方について常々違うなぁと思うことは、「本名の重要性が低いこと」「本名以外の呼び方がたくさんあること」「その呼び名は関係性にかなり由来すること」の三点です。

 最近では日本でもYoutuberなどのクリエイターの台頭により仕事でもニックネームを使用していることもそこまで珍しくなくなったと思いますが、本名=個人情報という観念から基本本名を使用しないことについては信用度が低くなりやすいように思います。また弊社のようなクリエイティブを扱う会社が日本よりも名前に関してカジュアルなのかもしれません。

 中国は人口も多く他人を気にしない性質故の本名の軽視かと思っていましたが、実は外と内がはっきりしており、外側の人がどんなことをしていても気にしない、でも内側の人に対しては同質化を願う傾向が日本よりも強く感じています。それは身内の呼び名の多さにも現れているのではないかと今は思っています。

 まとまりがないのですが、まだまだ中国の名前文化に関しては歴史的背景を学ばないと「日本と違うところはこの理由」とは言い切ることができないのですが、本名が日本ほどアイデンティティを表すものではないとすると、代わりにどこにアイデンティティがあるのか?それともないのか?など今後もアップデートしていきたいと思います。