2021.03.26

次世代のクリエイティブが考えるべきこと

みなさん、こんにちは。
ついつい、色んなことに手を出してしまうディレクターkakiです。
今回は、中国市場で正に今起きているクリエイティブの大きな変化について2つほどご紹介したいと思います。私自身もこの変化には大きな驚きを感じていますが、みなさんはいかがでしょうか。

変化1:クリエイティブは「消耗品」になりつつある

変化2:クリエイティブは顧客ニーズを「生み出している」

1、クリエイティブは「消耗品」になりつつある

まず、こちらのデータをご覧ください。

これは2019―2020年動画広告のライフサイクルの推移を示したグラフです。

一年の間に、動画広告のライフサイクルは30日間から15日へと50%も短縮しています。これは、ユーザーが広告に飽きるまでの日数が短くなってきていることを示し、かつて30日間使用されていた広告が、今では15日間しか使用されなくなっているということを意味しています。このため、動画制作のスピードアップや、量が求められ、ブランドはより多くの動画広告を制作し、消費者に新しい刺激を与え続けなければなりません。

では、もう一つのデータを見てみましょう。

あるオンライン教育企業が、1日にアップする広告の数量は266件、

ある工具類企業が、1日にアップする広告の件数は868件、

あるEC企業は、なんと1日に1532件もアップしているのです!

*備考:データの出典「某メディアプログラミング広告システム2020.5.13-14」。

では、なぜこれほどの数になっているのでしょうか?

それは、自動分析アルゴリズムによって、広告が「千人千面」つまりパーソナライズされ、情報を必要としているユーザーに必要な情報を提供しているからです。

例えばある広告のリーチ目標が1000人だとします。従来のやり方だと、まず年齢等、ユーザー属性によってターゲットを分類します。化粧品を例に挙げると、まず消費者の属性によって大学生、ホワイトカラー、主婦というようなセグメントに分類し、これをベースに動画を制作し、動画広告を配信します。しかし、実際にはセグメント毎に大きな違いがあります。例えば、

「金融を学ぶ女子大生」

「美術学院の学生」

「陸家嘴(高層ビル群で知られる上海の金融街)の外資系企業で働く女性セールス」

「国営企業で働く女性公務員」

「結婚後、長年専業主婦をしている女性」

「2人子供を育てる若いオシャレなママ」

これらのセグメントでは、周りの環境や情報入手方法の影響によって、彼女たちの消費行為はかなり変わってきます。AIアルゴリズムを活用することで、そういった個別の1人1人に対して、その人に合う広告を届けることが出来るようになります。

「千人千面」はもはや、オンライン広告のスタンダードと言っても過言ではありません。インターネット上以外に、屋外広告でさえビックデータや検知技術を活用して広告のパーソナライズを実現しています。

例えば高齢者向けの靴を販売するブランドがエレベーター広告を利用した場合、エレベーターに乗り込んだ高齢者に対して、高齢者向けの靴の動画広告を配信します。若者の場合には、「親孝行」の広告を流し、様々な年齢の人がたくさん乗り込んだ場合は、ブランド紹介の動画広告を流すようにする、といった具合です。

5G時代が到来し、アルゴリズムを活用するメディアは更に増えてきます。リビングのテレビ、タクシーの後部座席モニター、バスに搭載されるディスプレイ、ファーストフード店のテーブルまで多様なデバイスが接点となり、「パーソナライズド広告」が配信されるようになるかもしれません。

このような環境下において、やがてクリエイティブも自動化され、変化スピードが速い消耗品になっていく側面は否定できないでしょう。

2、クリエイティブは顧客ニーズを「生み出している」

今では、様々な面において、消費者のニーズはかなり満たされていると言えます。そのため、クリエイティブには、以前にも増して、何かを満足させるだけでなく、ニーズを掘り起こす役割が求められていると言えます。

みかん売りのお婆さんのお話をしましょう。

この2枚の写真に写っているのは、同じ果樹園のみかんかもしれませんが、お婆さんの「初恋よりも甘い」というキャッチコピーが功を奏し、他よりよく売れているそうです。

では、仮説を立ててクリエイティブの運用、シミュレーションをしてみましょう。

お婆さんは路地の各通用口に宣伝用の看板を置き、通行人に柳の木の下で「初恋よりも甘い」みかんが買えるというメッセージを発します。宣伝する看板が多ければ多いほど、集まってくるお客さんも増えるでしょう。

暫くしてから、お婆さんは3つ目の通用口からお客さんが入ってこないことに気づき、確認したところ、その辺りに住んでいる人はお婆さんと同年代のシニアであることがわかりました。シニアは若者と違い、「初恋よりも甘い」というキャッチコピーに反応しないことに気づきます。

そして、お婆さんはここの看板の宣伝文句を修正してみました。

「柳の木の下の初恋よりも甘いみかん 毎日5−7時に500g買うと250g無料で増量」

看板の宣伝文句を修正後、多くのシニアは5−7時の間にみかんを買いに来るようになりました。

さらに数日後、人々は宣伝文句に慣れてしまって興味が薄まったのか、みかんを買う人がだんだん減ってきました。

そこで、お婆さんは再度クリエイティビティを発揮し、今度は近所の子どもを数人雇い、通行人の特徴、ニーズや出来事など情報収集をして報告させました。例えば、李さんの家の子どもが風邪で咳をしているという情報を入手した場合、「みかんの皮は咳に効果あり、果肉は子供に食べてもらおう、柳の木の下の初恋よりも甘いみかんを買いに行こう」という宣伝文句に変えてみるのです。

このストーリーの前半では、クリエイティブの主な目的として、消費者にブランドを認識してもうため「初恋よりも甘い」というコピーを使用することによって、お婆さんのみかんの売りポイントである「甘い」を見事に表現しています。

そして、ストーリーの後半では

・ コンテンツの生産力(大量のクリエイティブの創出)
・ メディア浸透率(クリエイティブの影響)
・ ユーザーデータの応用(タイムリーな情報フィードバックと情報処理能力)

という3つの手法を使って顧客のニーズを生み出し、より多くのみかんを売っています。

まさに、現在のマーケティングにおいてクリエイティブに課されている役割を十分にこなしていると言えるでしょう。

最後に

伝統的なクリエイターの中には、大量のクリエイティブをジャンクデータと見なす人もいるように感じます。ただし、この粗っぽいクリエイティブが収益において非常に重要な役割を果たすようになっていることは事実といえます。もちろん、じっくり時間と費用をかけて作る高品質なクリエイティブが否定されるものではありません。それぞれの役割や特徴を生かして、多様なクリエイティブを活用できることが従来以上に求められていると言えます。

時代は凄まじいスピードで変化しています。そして、クリエイティブに対する考え方も大きく変化しつつあります。私個人も、この流れに柔軟に対応していく必要があると感じています。