2020.12.23

中国の家庭用ゲーム機にまつわる規制と現状

クリスマス商戦やPS5の品切れなどで日本の皆さんはこの時期になると、家庭用ゲーム機を買おうか?と悩まれる方は多いのではないでしょうか。インターネットも発達し、世界中のプレイヤーとゲームを楽しめる時代になった・・・とお思いのみなさん、実は一部は合ってて一部は間違っています。

中国を知るにあたって大きなキーワード「規制」。中国のゲーム規制は日本とは大きく異なるものになっており、今回は家庭用ゲーム機にまつわる規制をご紹介します。

「IP扱ってて世界同時展開したいんだけど」「表現の規制ってどんな感じ?」「中国って色々VPNいるんでしょ?」という方に参考になれば幸いです。

1.中国の家庭用ゲーム機規制の歴史

中華アプリが日本のアプリマーケットの上位に来ることが多々あることをご存知の方は驚かれるかもしれませんが、中国は家庭用ゲーム機が日本ほど普及していません。

実は中国では、2001年に「关于开展电子游戏经营场所专项治理的意见」(電子ゲーム経営場所の整頓に関する意見)が発布され、国内外問わず家庭用ゲーム機の製造販売が禁止され、市場が消え、一般消費者はオフィシャルで家庭用ゲーム機に触れる機会を、なんと2014年まで失います。この禁止をきっかけに、中国ではPCゲーム、ブラウザゲーム、MMORPGなどが主流になったと考えられます。

2014年以降家庭用ゲーム機の解禁があっても、表現の規制があり、海外の有名ソフトが中国正規版で発売されることは非常に稀、もし発売されるとなってもセンサーシップ(検閲)により世界の発売日よりも大幅に遅れて発売するなどさまざまな理由から、有名タイトルが遊びたいユーザーは淘宝などの個人商店が輸入したアメリカ版や香港、日本版を購入し遊んでいます。

上記のさまざまな理由から、解禁されて6年、家庭用ゲーム機のハードとソフトに高いお金を出して買う・・・ということまでは日本ほど根づいていないように感じます。逆にアプリはものすごい発展を遂げ、皆さんがご存知のように中華アプリは多々存在して世界中で人気を博しています。

参考:15年越しの夢 中国全土で家庭用ゲーム機「全面解禁」
https://www.sankei.com/wired/news/150728/wir1507280003-n1.html
参考:中国大陆游戏机历史
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%A4%A7%E9%99%86%E6%B8%B8%E6%88%8F%E6%9C%BA%E5%8E%86%E5%8F%B2
参考:中国游戏机解禁那么久为什么还是无人问津?
https://www.sohu.com/a/134798791_464036

2.ゲーム内における表現規制

先ほど表現規制があり有名ソフトが正規版で遊べることが少ない、といいましたが、中国ではゲームに限らず「暴力、薬物の使用、わいせつ、ならびに公共の倫理や中国の文化にとって有害なもの」は表現として規制されています。

そのため血の表現やFPS(ファーストパーソンシューティング、銃撃戦のようなもの。フォートナイトやコールオブデューティなどが該当する)、バイオハザードなどはもってのほかNGにあたります。また文章は基本原則として必要のない英文字などは中文化(簡体字)しなくてはならない規制があり、”スタート”や”ランキング”など日本人にはなじみ深い単語も全部中文化しなければならないようで、中国版として正式に発売されても、オリジナルのものからはかなり変更されてしまっている状態になっています。

参考:中国でのローカライズは検閲がたいへん!? プレイステーションの取り組みからSIEが実感した、中国のゲーム事情とは【CEDEC 2017】
https://www.famitsu.com/news/201709/04141032.html

例えば中国で正式に発売された『New スーパーマリオブラザーズ U デラックス』では、POWブロックは、英字の「POW」ではなく意味不明の模様になっているようです。

引用:中国では『スーパーマリオ』の「POWブロック」も自主規制を強いられる。中国のゲームコンテンツ、検閲事情まとめ
https://automaton-media.com/articles/newsjp/20200419-121836/

正規ルートで遊べるコンテンツ、ファイナルファンタジーXIV(中文:最終幻想XIV)というオンラインゲームでも、中国だけサーバーが別であることは有名です。そのため国外のプレイヤーと一緒にプレイしたり、交互に行き来することが出来ないようになっています。

3.それでもすり抜けるアンダーグラウンドマーケット

約14年間も禁止されてもなお、その法の目を潜り抜ける人がいるのも事実。香港や台湾、マカオといった中華圏や日本から輸入したり、偽物が出回ったりなどアンダーグラウンドでひっそりと家庭用ゲーム機は親しまれていました。

禁止が解かれた2020年現在でも正式版のソフトが少ないため、販売禁止されている海外のソフトを暗号や隠語を通して淘宝などのECで売買されています。

たとえば中国でも人気のあるタイトル「龍が如く」であれば本当は「人中之龙」というのが正式名称ですが、正式版の発売はおろか、並行輸入ソフトでも販売を禁止されているためECでその名前を検索してもヒットしません。そこでゲーマーとお店はゲームのサブタイトルの「光と闇(光与暗)」など、微妙に検索避けしながらも、そのゲームの内容がわかる人達の中だけでわかる暗喩的なワードにて出品し、売買するという方法で流通しています。

お店によっては問い合わせて裏メニュー的に出してくれるところもありますが、もちろんそこでの会話も検閲が入る可能性があるため、暗喩的な単語でやりとりします。

引用:中国で販売が禁止されている『龍が如く7』を売るために、売り手は隠語や暗号を使う。背景には“自主規制”の根深さ
https://automaton-media.com/articles/newsjp/20200125-111388/

またコロナ時期と重なり世界中で爆発的に売れた「集まれ!どうぶつの森」(中文:動物森友会)が、中国でも人気を博し、淘宝でも並行輸入版で多々売られていました。しかしこのゲームはカスタマイズ性が高く、香港のデモ時期に一部のユーザーがゲーム内で抗議活動を行い、そのスクリーンショットがWeiboなどにアップされることが多々ありました。そのためか否かは一切公式発表されていないのですが、4/10前後にどうぶつの森が淘宝から一斉に削除され、検索しても検索結果が出なくなってしまいました。

淘宝の人気ゲーム店舗のswitchソフト一覧。12/23現在でもやはりどうぶつの森がありません。


それでもプレイしたいユーザーたちは、さきほどの例のように隠語「猛男捡树枝(枝を拾うマッチョ)」を駆使して売買しますが、中国本土版のSwitchからは通信をシャットダウンするという事態になりました。(いずれも公式アナウンスなし)現在では通信できるようですが、それでも季節のイベントなどは正常に遊べないようになっているようです。

中国本土版switchユーザーが、サンクスギビングデーイベントの内容が一切わからないという投稿。
国行=中国本土版の意味。

4.国民の通報システム(PSNのシステムアップデート)

例えば日本のアップルストアにしかないAPPも、アカウント取得国を変更すれば取得できる・・・といったようにすり抜けの方法が暗黙の了解で多々出回ることがあります。

プレイステーションのソフトがDL出来るPSNも、中国では124本しか販売されていない状況に対し、香港では4600超のタイトルが販売されていることから、一部のユーザーは香港ストアでソフトをDLしたりしていました。

しかし5/10に緊急メンテナンス一時間前という、ほぼアナウンスなしの緊急アップデートを行い、とうとう本土版PSユーザーは香港などの海外マーケットにアクセスができないようになってしまいました。

基本的には野放しになっていることも多いのですが、やるとなったら即座に徹底的に対応するのが中国の特徴で、今回まことしやかにうわさされてるのは、中华人民共和国文化和旅游部(中華人民共和国文化観光部:行政部門、文化事業と観光事業を管轄する)に対しあるユーザーが「無検閲のコンテンツをDLできる状態にある」とコメントしたためといわれています。

このように、通報システムがちゃんと整備されているのも中国の特徴の一つだと思います。

参考:中国正規版PlayStation 4のPS Storeが突如サービス停止。その背後にある、中国告発システムの恐怖
https://automaton-media.com/articles/newsjp/20200518-124514/
参考:中国本土向けプレステストア、〝システムセキュリティ上の理由〟で閉鎖ーー中国政府が関与か
https://thebridge.jp/2020/05/sonys-playstation-store-suspends-services-in-china

5.中国産ゲームのサポート

長年家庭用ゲーム機が規制された中国。2010年代後半から続々と公式でハードが発売されても、中国本土版とその他各国版と使用が異なったり、購入できるソフトがセンサーシップ(検閲)の工程の多さにより極端に少なかったりと、国際的に有名なゲームが好きなユーザーにとってはなかなか難しい状況で、なんとか規制をすりぬけ環境を整えられるユーザーはごく一部のように思います。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)はこの状況に対し、クオリティの高い中国オリジナルゲームを増やそうと中国製ゲーム開発支援プロジェクト「China Hero Project(中国之星計画)」を立ちあげています。
このプロジェクトは『グローバルで通用するタイトル(=ヒーロー)を創出』することを目的として、中国の有望なゲームデベロッパーを選出して技術面と経営面の両面からサポートする取組み。この取り組みから、VRソフトも含め毎年数本ショーケースを発表しています。

まとめ

家庭用ゲームはインターネット環境が発達し、ますますオンラインで国外ユーザーと交流したり、「世界中でもりあがる」ことが前提になりつつあります。中国も長年の規制が溶け
2019年には任天堂Switchも正式に中国本土で発売となりましたが、実際には国際版を買っているユーザーがおそらく多く、公式なデータとしては下落になっている家庭用ゲーム機市場。

中国クライアントゲーム機の市場セールス
引用:《2020年1-6月中国游戏产业报告》今日发布(附下载链接)
http://www.cgigc.com.cn/gamedata/22026.html

ただし、これから中国本土でのPS5の発売が待ち構えており、中国版の盛り上がりがどうなるのか、まだまだ家庭用ゲーム機市場から目が離せません。

※中国ではルールや規制が頻繁に変わるため、この記事通りではない可能性もあります。現状どうなっているか?などお困りごとがありましたらいつでもbalconiaまでお問い合わせください。