2021.06.09

中国EC業界の新概念「興味EC(兴趣电商)」とは?

 先月開催された抖音(TikTok)のECに関する発表会で「興味EC」というワードが出てきて注目を浴びました。随分前から人気だった「コンテンツEC」と同じものでは?小紅書(Red)の「种草:草を植える=KOL/KOC、UGC等を用いて興味・関心を喚起する」と何が違うの?などなど、SNSでホットな話題となりました。いろいろ情報整理をしてみましたので、今回は「興味EC(兴趣电商)」について私なりの理解をシェアさせて頂きたいと思います。

興味EC(兴趣电商)とは何か?

 抖音(TikTok)の康沢宇総裁は、興味ECとは人々の豊かな暮らしへの憧れから、ユーザーの潜在的な購入興味を喚起し満たしていく、消費者の生活の質を向上させるためのECであると説明しています。

2021年抖音(TikTok)エコシステム大会
https://www.36kr.com/p/1173160938990984(36kr記事より)

 従来のECモデルによる購買に至るまでのプロセスは以下のような流れでした。
ニーズの明確化、情報検索(淘宝の検索キーワード)、商品比較、オーダー成立。
 そして最終的にユーザーのニーズを満たすというプロセスになっています。

 一方で、「興味EC」モデルによる消費に至るまでのプロセスは以下となります。
 興味があるショートムービーを偶然発見し、オーダーする。
 ニーズを引き起こし、それを知覚化させることがキーポイントです。これは、顧客の転換率が伸び、今まで買いたいと思ったこともない商品が購入される、ということも意味しているのです。ブランド側としては、希望小売価格での販売が可能となり、価格競争も避けられます。

 例を挙げます。旅の達人(旅行系KOL・KOC)が旅行の写真をシェアする際、写真だけでなく、臨場感溢れる動画も配信します。そこで、彼らが使っている電気マグボトルがふっと目にとまり、「そうか!今までホテルの電気ポットは衛生面においてどうしても心配だという不安や悩みはこれでスッキリ解消しそう!」ということに気が付くのですね。

興味ECはニューコンセプト?

 まず、私自身は「興味EC」=「コンテンツEC」だとは思っていません。コンテンツに対する捉え方は人それぞれだからです。また、「興味EC」は5年前の「种草=草を植える(KOL/KOC、UGC等を用いて興味・関心を喚起する)」という概念とも異なります。なぜなら、「興味EC」の場合、「草を植える」と「草を刈り取る(コンバージョンを起こす)」という二つのフェーズは同時に行われているからです。
 興味ECの最大の特徴は、最初の段階でユーザーのニーズが不明確であるところです。次に買いたい商品は何か自分自身も意識していないのに、その何かがある日突然浮かび上がってくるのです。

興味EC台頭の背景について

 近年、ショートムービーやライブコマースの普及から、商品の展示形式はリアルで直感的なものになり、消費者の購入への決断ハードルがぐっと下がっています。また、興味ベースの商品紹介ノウハウが日々進化・成熟する一方で、多くのコンテンツクリエイターが現れました。こうして、さらに多くの優良商品がより良い形式で紹介されるチャンスも増えるようになり、興味ECが発展を遂げてきているのです。

ショートムービーやライブコマースが普及
https://kuaibao.qq.com/s/20200523A07NRK00?refer=spider(看点快报の記事より)

興味EC、その背後にある成長ロジックとは?

 数年前から消費のアップグレードという言葉をよく聞きますが、これは高価な商品という意味ではなく、消費者ニーズのアップグレードのことを指していると言えます。
1、良質な商品
 ヘルシー、軽量、耐用年数が長い、質感がある、フレッシュ 等
2、美しい商品
 パッケージデザインが素敵、もしくはユーザーをより美しく見せてくれる、SNS映えする 等
3、心理的な付加価値
 エコ、面白い、個性的、自分を楽しませることができる 等

 上記のポイントは、潜在ニーズを掘り起こすことができれば、消費者は最初の段階でニーズに気づいていなくても、購入することで満足感が得られるようになります。
 これはこの先10年の消費トレンドになるかもしれません。興味ECはまさにこの新しい消費トレンドを背景に創られたものです。

興味ECで期待できるリターンは?

 抖音(TikTok)が、興味ECという概念と同時に打ち出した3つのサポートポリシーをご紹介します。
1、1,000社の企業の年間売上高1億元超え
2、1万人のトップインフルエンサーの年間売上高1,000万元の実現を目指す
3、100種の良質商品の年間売上高1億元超え

 抖音(TikTok)がこれほど大きな目標を掲げているのは、1日あたりのアクティブユーザー数7億人という、中国トップのデジタルプラットフォームであるからです。これまでECプラットフォーム大手の淘宝(タオバオ)や京東はユーザーのセグメント化・タグ付けのプロセスに最低2週間かかっていましたが、抖音(TikTok)によると、それがたった3日間で完成可能とのことです。これはつまり、新しいユーザーが3日間抖音にアクセスさえすれば、抖音はそのニーズを掴むことができるということになります。

 ECにおける最大のポイントは効率だとよく言われますが、最強の「超効率」とは、実はユーザーに沢山の選択肢を与えない、つまり何も考えなくても好きなコンテンツが楽しめて、好きなものが購入できる、ということかもしれません。
 興味ECの今後に期待が集まります。