2022.05.05

強敵に立ち向かう“元気森林”の成長ストーリー

今年の年明け、クライアントとの打ち合わせを終えて会社に戻る途中のことでした。中山公園にある龍の夢ショッピングモールの壁一面に出ていた飲料ブランド「元気森林(以下「元気」)」の大型広告を目にした弊社総経理の久保山から「この広告のアイディアどう思う?それより、このブランドはなぜ急に人気になったの?」と聞かれました。

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急に質問されて答えが思い浮かびませんでした。言われてみれば確かにそうです。しかし、なぜでしょう。思い返せば、いつの間にか、このブランドは私達の生活に入り込んできていて、その存在感も徐々に高まってきています。今や炭酸飲料といえば「元気」のフルーツフレーバー炭酸水に、お茶飲料は「元気」傘下の燃茶シリーズ、そしてスポーツドリンクも同様に「元気」傘下の「エイリアン電解質補給ドリンク」になって来ました。

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過去20年間、健力宝*や全国各地のローカルブランドなど色々ありましたが、結局はコカ・コーラやペプシには勝てず、この2大ブランドが約97%の市場シェアを獲得していました。しかし、なぜ「元気」が突如現れたのでしょう。
*健力宝:1984年に設立された飲料水メーカー、高い知名度を誇る。

ここまで熱い注目を集め、そして高い売り上げを誇る商品について、その成功の秘訣を見てみましょう。広告クリエイティブやプロモーションのみならず、市場トレンドの把握から製品開発、サプライチェーンの構築、チャネルの選択まで戦略的な選択があったと考えられます。以下、考察してみたいと思います。

1.市場トレンドにマッチしたマーケティング戦略
過去数十年の間、多くの人にとってソフトドリンク、特に炭酸飲料に対するニーズは端的に言うと「甘さ」で、甘ければ心が満たされ、満足していたと言えるでしょう。子供の頃、瓶入りのオレンジソーダをよく飲んでいたことを覚えています。楽しい夏の思い出がたくさん思い出されます。

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しかし、ここ7〜8年は肥満に注目が集まり、女性を中心に無糖の飲料を求める消費者が増えて来ました。フィットネスブームが来たのも同じ時期です。ランニングアプリから、総合的なフィットネスアプリ「KEEP」の利用も広がり、スポーツジムでは専門のコーチをつけたプライベートレッスンを選ぶ人がどんどん増加しています。健康意識が高まるにつれ、消費者のニーズに変化が生じたのです。
このチャンスを上手く掴んだ「元気」はフルーツフレーバー炭酸水、お茶飲料などの商品を次々と発売し、新しいニーズを探り出しました。炭酸飲料から飲料水まで、糖質ゼロ、脂ゼロ、カロリーゼロという明確な表示と、薄めの味という分かりやすい特徴で、「元気」はタイミングよく追い風に乗れたと言えるのではないでしょうか。
「元気」というブランドネームも秀逸です。健康的、安全なイメージだけでなく、輸入品のイメージも感じさせます。元気という言葉は中国語でもともと存在しますが、日常的に使われることは少なく、日本のアニメ、漫画で馴染みのある言葉でした。そのため、多くの人が最初は日本の商品と感じたことでしょう。ちょうど日本旅行ブームで、消費者がこぞって日本へ行き、コンビニで目がまわりそうなくらい多種多様な飲料に触れていたタイミングとも重なります。
さらに、「元気」の価格は他の競合に比べると若干高めとなっており、それが逆に輸入品感及び高品質感を担保したのではないかと考えられます。

2.データ・ドリブンの製品開発
「元気」は一般的なローカルの飲料メーカーのように見えますが、データをフルに活用して事業を展開するデータ・ドリブンの企業と言われています。
まず、数種類の製品を同時開発し、小規模のユーザーに対して試飲調査を行います。データの結果がよければ、次のステージへと移行し新製品を開発します。次に、販売チャネルに製品投入しますが、そこでの販売実績に基づいてマーケティング投資の判断を下していきます。実際に、販売実績が芳しくなく、大型投資を行う前に撤退した商品も存在します。
そのようにデータを重視する企業は他にもあると思いますが、「元気」の大きな特徴はその開発サイクルです。伝統的な食品メーカーよりもずっと短く、多くの商品の開発を同時に進めつつ、消費者や市場の反応を見ながら上市する商品および大型投資する商品を決めていくのです。この点はIT企業のプロダクト・サービス開発と非常に似ています。開発を短サイクルで能率よく行い、市場や消費者の反応に合わせてフレキシブルに改良し、完成品を目指していくスタイルです。
具体的な例としてよく知られているのは、「燃茶」と「フルーツ微炭酸水」のマーケティング展開です。中国では、茶飲料市場が非常に伸びて来ていたため、「元気」が最初に市場投入した製品は、最も有名な「フルーツ微炭酸水」ではなく「燃茶」でした。「燃茶」に続いて上市したのが「フルーツ微炭酸水」です。ただ、当初のデータでは「燃茶」よりも「フルーツ微炭酸水」の売れ行きが良かったため、シュガーフリー炭酸水というメッセージを中心に「フルーツ微炭酸水」へのマーケティング投資を集中的に行い、結果的に2020年のダブル11(中国の大型オンラインショッピングフェスティバル)では、天猫と京東の中国大手2プラットフォームでともに飲料水売上ランキングトップとなりました。

3.ターゲットに合わせた適切なチャネル選択
「元気」の「フルーツ微炭酸水」は、販売価格を5.5元に設定しています。コカ・コーラやペプシが3元前後、その他の海外ブランドの飲料も4元前後が多いのに比べるとやや高めの設定です。
全国展開するこれらのグローバルブランドとは違って、「元気」はターゲット市場を1級、2級都市に集中してマーケティングを展開しており、3級、4級都市に進出する計画はないようです。
「元気」のチャネル戦略にも特徴があり、彼らが当初選んだ販売チャネルは、コンビニエンスストアとECチャネルです。この2つのチャネルのユーザーの特徴は、商品価格にあまり敏感でない若者層が多いことです。このように、ターゲットを見極めて、適切な販売チャネルを選択したことも成功の鍵の一つだといえます。

「元気」がここまで成長してきたのには、他にもたくさんの要因があると思いますが、ここでは上記に絞って考察してみました。何か疑問や、もしくは違った解釈、ご意見があれば是非お聞かせ頂けると嬉しいです。
中国の注目企業やトレンドについては、今後もご紹介していきたいと思いますので、ご期待下さい。