2023.07.27

近年注目を浴び続ける中国古代書「山海経」とは

中国の一大イベント春節時、歴史ある庭園で観光地でも有名な豫園には華やかに彩られたくさんの人が訪れます。
2023年は豫園も干支のウサギで彩られましたが、今回の装飾はただのウサギではなく「山海経」を題材にしたというのです。その時は”きっとそういうみんなに知られた中国の古い物語があるんだなぁ”と思っていたくらいでした。しかし半年たった今、やたらと「山海経」を題材にしたコンテンツを耳にするのです。

2023年山海経を題材にしたコンテンツが続々と登場

伝統文化:2023年豫園ランタンフェスティバル(2023豫园灯会)
アート展:没入型アート展 「山海経の謎」(探秘山海经)
映画:マーベル映画 「殷斉と十輪伝説」(尚气与十环传奇)

日本だと西遊記や三国志、水滸伝など中国の有名物語は漫画やアニメになっており、全部は知らなくとも「曹操」「三蔵法師」などの単語は知っている方も多いと思います。しかし山海経は聞いたことがなく、知らないだけで実はとても集客できる(と思われている?)?哪吒や西遊記のような、昔から中国で慣れ親しんでる古代コンテンツ?と興味がわきました。

2023年の豫園:「五福」の代表の一つウサギと、伝説中の大魚・鲲鹏
2023年の豫園:湖には縁起の良い獣や鳥が棲み、水面には輝きがあふれており、まるで時空を超えて古代の幻想的な仙境に入り込んだような雰囲気。左から現れると天下は豊作になるといわれている当康、九つの尻尾と虎の体と爪を持ち天界の九つの区域と天界の季節を司るといわれている陸吾、魚体に鳥のような翼が生えている䱻魚、翼を持ち天と地を行き来することができる応竜(すべて山海経の中に出てくるもの)が点在。
(引用: 豫园商城 https://mp.weixin.qq.com/s/7DDJxDzL6WmUAS8R9qJcCQ)

山海経ってなに?

「山海経(せんがいきょう)」は、古代中国で編纂された、中国最古の地理書と言われています。
18巻からなる書物で、「山経」(5巻)、「海外経」(8巻)、「海内経」(5巻)の三部分に大別されますが、「山経」は、神話的な山脈とそこに住む神々や生物について語られています。「海外経」は、中国の海外、特に東方と南方の神秘的な土地とそこに住む奇妙な生物について記述されています。
「海内経」は、中国の内陸部について詳しく記述しています。

上記の通り「山海経」は各地の地理、動物、植物、鉱物などの産物を記すだけでなく、空想的なものや妖怪、神々、人間、動植物が交錯する世界を描いているため多くの神話や伝説が含まれており、古代中国の神話や信仰、風俗習慣が理解できる書物といわれています。
色々調べてみた私の所感は、中国古代のポケモン図鑑のようだな、、、と思いました。

『山海経図絵全像』の女媧

実は慣れ親しんでいる山海経のキャラクターたち

また日本で有名な妖怪たちが夜中行列し徘徊する「百鬼夜行画巻」や「怪奇鳥獣図巻」にも山海経の妖怪を参考にしたといわれている妖怪が描かれています。(かまいたちを風神と混同したとの噂ですが・・・)もっと身近なところでいうと、中国神話の四大神獣の一つ麒麟は飲料メーカーのKIRINさんや日本橋にもいますし、漫画版封神演義でおなじみの四不象(スープーシャン)などすべて山海経に登場します。原書を知らないだけで、日本でもおなじみのキャラクターはたくさんいるようです。

中国コンテンツでももちろん実はこれも山海経が元ネタ、というものが多数あります。

・中国で国民的人気を誇るアニメ 「非人哉(Fei Ren Zai)」:
「封神演義」「西遊記」「山海経」といった神話の神々が現代社会で生活する面白くも奇怪な日常を描いている。

・世界モバイルゲーム売上高ランキング1位に輝き続ける「王者栄耀(Honor of Kings)」:
テンセント(騰訊控股)の対戦ゲーム。山海経の女媧などが登場する。

・映画「大圣归来」:
中国で公開され、爆発的な人気となった中国国産3Dアニメ『西游记之大圣归来』。悪役の混沌など。

実はたくさん目に触れているけれど「山海経」ではなく、それらと同じキャラクターを使用した「封神演義」や「西遊記」の方が有名になってしまったのかもしれません。それもそのはず、山海経が編纂されたといわれているのは紀元前4世紀 - 3世紀頃なので、「西遊記」や「封神演義」などの後世の文学作品に影響を与えたといわれています。物語性が強いこれらの方がメディア化されやすかったのかもしれません。

非人哉

現代において山海経二次創作が盛んな理由

現代において、「山海経」の二次創作が盛んである理由は大きく3つの観点から見ることができます。

1.国家的観点:

中国の伝統文化の継承と普及における重要な要素として、「山海経」は特別な位置を占めています。この古代の文献は、中国の歴史、神話、伝説、動植物、地理など、多様なテーマを網羅しており、それ自体が深遠な文化的意味を持つ資料となっています。後世の人々が古代中国の文化を理解し、自身のルーツとつながるための重要な道筋を示しています。

2.アート観点:

「山海経」はその幻想的な世界観と豊かな想像力を駆使した描写で、多くの芸術家やクリエイターにとって重要なインスピレーション源となっています。その神秘的な生物、奇妙な地形、印象的なエピソードなどは、創作活動を通じて新たな生命を与えられ、現代の文化作品に生き続けています。

3.商業的観点:

「山海経」は公有の文化財産であり、その使用に著作権制約が少ないため、商業的な観点からも魅力的なIPとなっています。その独特な世界観は広範なオーディエンスに対する強い魅力を持ち、映画、テレビドラマ、ゲーム、漫画、アニメ等のエンターテイメント産業で広く利用され、大きな市場価値を生み出しています。2022年はやたら敦煌推しだったと思うのですが、観光・文化の面からの推進だったのかもしれません。

これらの理由から、「山海経」は現代においても引き続き新たな解釈と創造を引き出し、その魅力を多様な形で発揮しています。もともと哪吒をはじめ封神演義はたくさん映像化されてきましたが、その原点となる山海経に注目が集まるのは、ハリーポッターやDCなど西洋のファンタジーが浸透し、東洋のファンタジーとして今なお不思議な魅力を持つ「山海経」が新たに見直されつつあるからかもしれません。
実際2016年から「山海経」をテーマにした本が書籍市場で続々と登場し、ほぼ千冊の書籍が出版されています。映画、ゲームなどの文化分野でも「山海経」のテーマは高い注目を集め、関連の著作権が急速に高まったため、2023年大型イベントの題材になるのは必然の流れだったようです。

今回は「山海経」に登場するキャラクターを中心にご紹介しましたが、キャラクター以外にも多くの神話や伝説があり、それぞれが古代中国の宇宙観、道徳観、人間関係、自然との関わりなどを象徴しています。

中国で有名なエピソードを中国人ディレクターkakiからご紹介いたしましたので、下記の記事をご覧になってください。
中国神話の意味と啓示
https://www.balconia.cn/blog/3344.html