2024.01.03

2023年中国マーケティングのまとめと24年の展望

 バルコニア総経理の久保山です。本日は2024年第1回目の記事ということで2023年の振り返り、2024年に向けて注目していることを整理してみたいと思います。
 23年は中国不動産大手企業の破綻や、失業率の悪化など市況全体の悪化を受けて、全体の傾向として消費は弱くなりました。また、年末にかけて処理水問題もあり、日本ブランド一人負けの構造になってしまいました。体感としては私が上海に来てからの8年で最悪だったと思います。
 とはいっても、下を向いてばかりもいられないので、24年に向けて一度足元の状況を確認できたらと思います。私自身頭の整理の意味も込めて書いてみました。よかったら読んでみてください。

環境変化

処理水の影響は一巡。徐々に忘れられていく。

 処理水問題に関してはKOLが日本ブランドを敬遠するといったことはあったものの、消費者サイドを見ていくと、一巡して平準化していると見て良いと思います。地方都市においては根強く敬遠する消費者も残るとは思いますが、徐々に忘れられていくと思います。
 もちろん処理水問題に乗じて、競合になるブランドがうまく日本ブランドからスイッチさせる施策を打ってきたことなどから、大手ブランドを中心に影響は大きかったですし、それに対して対抗策も打てなかったのは痛かったのですが、ひとつずつ地道に取り返していくしかないかなと思います。

中国ブランドは伸びるが、これまでの広告投資ではなくなっていく。

 日系、欧米系ブランドではなく、中国国産ブランドに対する好意度が高まっているという数年にわたる消費者トレンドは陰る気配がなく、継続しているトレンドですが、ブランド側からの広告投資は少し鈍化していくのではないかと見ています。
 中国ブランドが巨額の広告投資を行ってきた背景に目を向けると、Exitを前提にしていたということが挙げられます。売上が広告投資に見合っているか、PLとして成り立っているのか、というよりは、市場シェアを大きく取ればどこかで売り抜けることができる、上場することができる、という金余りの市況ならではの力学が働いていたことが大きいと考えています。
 これに対して欧米ブランドは中国人社長を雇用して権限委譲し、同じやり方でついていかせるのに対し、日本ブランドはビジネスとして成立する状態の広告投資を行っていく、かつ、中国法人単体のPLで成り立つように投資をし、相対的に負けやすい、という大きな構造がありました。
 このことを受けて、出てきたばかりの中国ブランドがすごい勢いでシェアを伸ばすということがよく起こってきたわけですが、この構造の根底にある金余りの市況が変わってくることで、赤字でも投資し続けてまずは市場シェアを取ろう、というブランドは減ってくると思います。
 これまでのようにお金をかけることが前提という市況からは徐々に変わっていくと思いますし、消費者インサイトをベースにした、よく練られたコミュニケーションプランを作れたところが勝つという成熟した市場に成長していくと捉えています。
 ひとつ注意としては、これは大きなトレンドの話をしていて、KOLやライブコマースなどの広告費用は依然として高く、ゆっくりと進行していくものだと考えています。

商戦期へのキャンペーン集中は分散していく。

 これは数年にわたる大きなトレンドですが、商戦期の重要性が希薄化しています。というのも、618、ダブルイレブンといった大型商戦の他に、細かなイベントをたくさん創出してきたこともあり、ディスカウントが常態化しています。結局いつでもディスカウントしているならいつ買っても一緒という状況にあり、ブランドからすると商戦期に安売りするほど利益はでないので、商戦期の捉え方が少しずつ変わってきました。
 商戦期周辺はKOLやメディアの単価も高く振れるため、そこを見て広告投下していくというよりは、商材の特性やブランドが打ち出したいオケージョンなどに合わせる形でブランドを作っていくことのほうが費用対効果としてもブランド・エクイティの育成という観点でも良い判断になっていくと思います。
 一部のブランドはこうした背景から大型商戦期への投資やディスカウントのゲームから降りる、ということも起こり始めているものの、まだ本格的な移行には至っていません。モール側は大型商戦期が最も安くなるようにブランドに求めており、消費者もすぐのニーズでなければ買い物リストに入れておきまとめ買いするという行動は存在はしていますので、数年かけてこの傾向が加速していくと見ています。

トラベルリテールの本格的な回復。

 日本へのインバウンド需要は23年私が予測していたより緩やかな回復でした。想定より遅いものの今年はますます回復していくと思います。
 日本滞在時の一人あたりの消費が弱くなっているというファクトはあるので、それ自体はネガティブなのですが、インバウンドの回復で大きいのは売上もさることながら、「日本で見たあの製品」という認知がブランド想起のきっかけになっていくというのが副次的にあり、日本ブランドに与えるポジティブな影響は大きいはずです。

施策、打ち手

川上より川下の戦い。広義のCRMが重要に。

 KOLを使ってRED、Tiktok、WeChatなど様々なメディアで発信したり、ライブコマースを行ったり、デジタル上のコミュニケーションが重要であることはその通りなのですが、コストが高いことや、ライブコマースに関して言えば、売上のマージンも発生することなどから、依頼した時点で利益は出ず、純粋にエクスポージャーを増やすために活用するケースが多いのではないかと思います。ECもプラットフォーム側も苦戦している中で、流量を担保するために広告費をかけたり、モールのプロモーションに乗ってディスカウントをすれば利益が出ません。そうすると、どこで利益を担保するのかというお話になります。
 乱暴にくくると、要は流量をおさえた人が勝つゲームになっているので、自前でどれだけ質の良い流量を創出し活用できるのか、というのが重要になります。具体的に言えば、コミュニティを形成しておき、小規模なイベントを行いながら広げていく方法や、そのイベントの中で売上も作ってしまったり、その流量を最大限生かせるようにプレゼントニーズを掘り起こして多く買ってもらう工夫であったり、何かブランドが行う施策に対して、売上もくっついてくるような設計にしていくことが重要だと考えています。

ブランド・エクイティを軸にするコラボを。

 流量を増やしていく取り組みの中で必ず出てくるのがブランドコラボレーションとIPコラボレーションです。これらは23年もかなりのブランドが行い、成功したキャンペーンの多くがブランドコラボレーションでした。Luckinコーヒーがお酒の茅台酒とコラボしたキャンペーンや、喜茶とFENDIのコラボなどはかなり話題になりましたし、それぞれブランドが達したいことを実現できたケースだと感じます。
 他方で、流量は増えたかもしれないけれど、それはブランドのキャンペーンとしては成り立っていなく、ただIP先やコラボ先のブランドを宣伝して終わっているケースもかなりの数遭遇しました。その背景には先に書いた流量を追いかけることを一義的なKPIに置いてしまったもので、目的のない目標になっていることがあるように思います。
 ブランドコラボもIPコラボも、特に上海にいると消費者もやや食傷気味ではあるものの、この先も数年は継続するトレンドだと考えています。このとき重要なのは自分たちがブランドのどの特徴をお客様に印象付けられているか、という検証です。本来の目的は流量を増やすことではなくて、その流量に対して、自分たちのブランドの印象をどれだけ記憶してもらえるかであるべきで、流量が増えるけれど記憶に繋がらないならもったいない出費です。

取りたい流量の解像度をあげる。

 2つの施策の話に共通するポイントとして流量の捉え方があると考えています。確かに流量は重要な要素ではありますが、多くのブランドにとってあてていくべきターゲットは異なります。
 最初から戦略ターゲット全体を狙ったキャンペーンとして組み立てるのではなく、戦略ターゲットの中で、今回のキャンペーンでどのターゲットにどんな態度変容を起こしたいのかを具体化していくことで、コラボにしろコミュニティ施策にしろ、目指すべきものが変わっていきます。
 市場全体の中でNo.1をいきなり取るのは難易度が高いことですが、特定の切り口でNo.1を取るのであれば難易度は下がります。食品全体でNo.1にはなれないが、疲れたときの朝ごはんというカテゴリではNo.1を取れる、、、といった具合に、自社のブランドが競争しやすい切り口を見つけ、そこのNo.1を取るための施策と考えると、施策は自ずとシャープになっていきます。コラボする先や小規模イベントをリクルートする対象者も変わっていくでしょう。
 このあたりの流量の解像度をあげずに、流量を増やしたい、認知が足りない、と広告代理店にオリエンをしても、ここまで話した環境変化の中では埋もれてしまいます。このあたりの解像度の高さが24年以降のマーケティングを左右すると考えています。

24年の展望

 23年は冒頭に申し上げた通り、私が知る中国の8年間の中では最悪の景況感で、ネガティブな話が多かったなという所感です。
 また、そうした市況全体の大きなトレンドの中で、マーケティングのゲームが少し変わった1年間でもあったのかなと思っており、これまでと同じ目標数字を追いかけていると目的にたどりつかないケースが増えてくると感じています。どのような切り口で競争して勝つのかを目的として定義しKPIに落としていくことで、変化する環境で成果をあげていく必要があります。
 他方で、売上が落ちたところも、ある程度底をうってきた感はあるかなと思っていますし、インバウンドはまだまだチャンスが眠っていると思います。また、地方都市に関しては中流階級が構造的に増えていくことも機会と捉えることができると思います。
 これまでより一層作戦が重要になってくると思うので、また次の作戦会議には私たちも混ぜていただけたらとても嬉しいです。

 24年もよろしくお願い致します。

 久保山