2024.04.29

玄学が新たなマーケティングチャンスとなった

少し前のブログをお読み頂いている方は既にご存知かもしれませんが、昨年9月に「寺院経済」に関する内容で「寺院こそが中国の若者を最も理解している」という記事を掲載しました。あれから約半年経ちましたが、玄学の要素(星座、風水、占いなど)を取り入れたマーケティングのトレンドは衰えるどころか、さらに強まっているようです。

このマーケティング手法は、消費者が神秘的なものに好奇心を駆られたり、幸運や吉祥を願ったりする心理的なニーズを捉え、楽しいインタラクティブな体験や情緒的な価値を作り出すなど、消費者の注意をひきつけ、ブランド記憶力を強化し、製品やサービスの販売を促しているのです。

2024年2月22日、中国の春節休み明けまもなく、マックカフェは上海の静安寺の前に巨大なマックカフェポップアップショップをオープン。この期間限定ショップは高品質高コスパの朝マックコーヒーで「15元時代」へと導きました。 このキャンペーンは、マックカフェと労働者、そしてマック信者※1をうまく結びつけ、現代の若者の日常的な「迷信」心理を捉えた。 REDなどのソーシャルメディアでも話題となりました。

※1「マック信者」とは、マクドナルドのファンのことを指します。ユダヤ教やキリスト教の「アーメン」を真似して由来する言葉です。(中国語でマイメンと発音します。)

静安寺前にあるマックカフェポップアップストア
出典:https://sghexport.shobserver.com/html/baijiahao/2024/02/23/1260527.html
ポップアップストア開催期間中,REDユーザーの高い評価を得ている
出典:RED

実は、マックカフェのポップアップストアが開店する数日前に、喜茶(HEYTEA)も「辰年仕事始めの一杯目」というキャッチコピーで「仕事始めのサプライズ」キャンペーンを開催し、幸運をもたらすドリンクを提供することで多くの消費者を惹きつけました。データによれば、2月18日、喜茶(HEYTEA)の多くの店舗の売上は連休前の平日に比べて増加幅は500%以上※2となり、そのうちオフィスビル近くの店舗の売上が激増し、一部の店舗では700%以上※2の増加幅を記録しました。もちろん、「初」よりも重要なのは、縁起が良いという縁起が裏で働いていることです。「仕事始めに喜びに会う」という不文律の習慣は、何世代にもわたって都市部の労働者に影響を与えているようです。

※2のデータソース:北京商报 https://baijiahao.baidu.com/s?id=1791311990401308432

喜茶(HEYTEA)が発売した “連休明けの一杯目”宣伝ポスター
出典:RED

「連休明けの一杯目」ブームは、コーヒーやお茶の業界での人気が高まりつつあり、プロモーション手法も多種多様です。多くのブランドは中国の伝統的な民俗文化の要素を取り入れ、地域や文化層から消費者の共感を呼び起こしています。茉莉奶白(Molly Tea)はこのマーケティング機会をしっかり掴み、「幸運の聖杯セット」を発売しました。これには「如魚沈香」ドリンク一杯と閩南※3の特徴を持つ聖杯※4ペンダント「幸運の聖杯」が付いています。ネットユーザーは「迷ったら聖杯投げ」と冗談を言っていました。

※3 闽南:中国福建省の南部に位置し、泉州、厦門、漳州の三つの市と漳平市を含む地域です。
※4 聖杯:神とコミュニケーションするために使われたもので、木や竹でできており、新月形に削られています。二つで一組になっています。

Molly Tea ラッキー聖杯セット(ミルクティー1杯+聖杯1対)
出典:RED(@孤独的咖啡豆)

2月20日、M Standも仕事始めの若者の精神状態に共感し、仕事始めパッケージと一緒に木魚のおもちゃを数量限定で発売しました。「気分が乗らないときは木魚をたたいて、新年の平穏と落ち着きのために遊びましょう」と、たちまち労働者の精神安定剤となりました。

M Standではコーヒーを購入すると木鱼のおもちゃがもらえる
出典:RED(@M Stand)

ブランドのケーススタディとユーザーの反応から見ると、イベントに対して人々は情熱的でポジティブな反応を示しています、その原因として以下六点が考えられます。

1. 情緒的なサポートと心理上の慰め

現代の若者は生活や仕事において多くのストレスに晒されており、玄学マーケティングは情緒的なサポートと心理上の慰めを与えているのです。星座や運勢占い等の玄学要素を通じて、若者はある種現実を超越した希望を持てるだけでなく楽観的にもなれるので、不安を和らげることができるでしょう。

2. 文化的アイデンティティと継承

玄学マーケティングは、風水、干支などの伝統文化の要素を取り入れています。これらの要素は若者の間で広く認識されており、関連イベントに参加することで、若者は文化の伝承とつながりだけでなく、伝統文化への尊重と興味を示しているのです。

3. 社会的な相互作用と共有

玄学マーケティングは強い社会性を持っており、若者は玄学関連のコンテンツを共有したり友達との相互作用を通じて、社会的つながりが強化されます。ソーシャルメディア上では玄学に関連する話題やイベントは若者の社交やインタラクティブの媒介となり、相互理解と共感を深めているのです。

4. 趣があり、新奇な体験

玄学マーケティングは、インタラクティブなゲームや占い・テストなどを通して新しい消費体験をもたらしているのです。これらのイベントは面白くかつ創造的で、若者の好奇心と探求心を刺激します。新奇な体験は玄学マーケティングをトレンディなものにし、フレッシュさを求める若者を惹きつけるのです。

5. 個性化と自己アピール

玄学マーケティングは個性化されたサービスと製品を提供しており、若者は自分の星座や干支の関連グッズを通じて自己アピールできるので、このような個性化された消費スタイルは、若者の自己アピールと個性化への欲求を満たしているのです。

6. 意味と価値への追求

玄学マーケティングは単なる消費行動だけでなく、若者の人生に意味と価値をもたらしているのです。玄学イベントを通して、若者は未知の世界を探求しながら、生活の指針と方向を見つけ、より深い満足感を得ることができるでしょう。

現段階において、玄学マーケティングは効果的なマーケティング手法であり、ブランドは消費者と感情的なつながりを築き、ブランドの影響力を高めるのに役立つと思います。しかしながら、玄学マーケティングを使用する際には、イベントのコンテンツが適切でポジティブなものであることを確保しなければならないので、ネガティブな影響やロスを避けるよう慎重に臨む必要があるでしょう。