AIがダブル11に参戦:華やかなテクノロジーの裏で振り回される消費者
ここ数年、ダブル11(中国の大型セールイベント)は単なるショッピング祭りから、データとアルゴリズムの戦場へと変貌しつつあります。そして今年、AIがついに主役となり、プラットフォーム、ブランド、そして消費者の間を縦横無尽に駆け巡り、チャットボット、価格予測、レコメンド、クーポン最適化、コンテンツ生成、さらにはアフターサービスまで——その存在はもはや至るところに広がっています。一見すると「怠け者に優しい時代」となったように見えますが、認知的負担と意思決定コストが増大していることも否めないのではないでしょうか。
AIが成長エンジンとなり、プラットフォームとブランドの野心を加速
プラットフォームにとって、ダブル11はもはや売上数字の勝負だけではなく、技術力を見せ合うショーケースとなっているのです。
天猫(Tmall)の総裁・家洛氏は、今年を「AIが本格導入された初めてのダブル11」と位置づけました。消費者向けには6種類のAIショッピング支援機能を提供したほか、企業向けAIツールはEC運営のほぼ全工程に浸透。経営データ分析、商品企画、顧客セグメント、広告素材生成、プロモーション戦略の最適化まで——熾烈な流量争いの中、AIはブランドに新しい成長余地を与える存在になりつつあります。今回はその中でも、今年特に存在感を放ったAIツールをいくつか紹介していきます。
生意管家
「生意管家(=ビジネスマネージャー)」は、タオバオ天猫が提供する公式AI経営サポートツールです。データ診断、販促素材の自動生成、運営代行機能などが搭載されており、店舗運営の効率を大幅に引き上げることが可能です。
2024年のダブル11期間には、累計400万店舗が利用。中小規模の事業者を中心に、AIによって生成された商品画像やマーケティング素材は1億件以上にのぼり、さらに80万以上の店舗で合計200万回を超える流量分析が実行されました。

万相台AI无界
「万相台AI无界」は、アリババ傘下のマーケティング部門・阿里妈妈が提供する、EC事業者向けのオールインワンAI経営プラットフォームです。生成AIと大規模モデルを活用し、複雑化するEC運営(広告、運営管理、分析、販促計画など)をまとめて最適化。作業負担を減らし、意思決定の精度向上を支援します。
ダブル11の予約販売フェーズでは、「万相台AI无界」のアクティブユーザー数が前年比で二桁成長を達成。また、全体の推奨システムが支援した商材のROIは15%以上改善しました。本販売がスタートしてからは、AI活用によって100万点以上の商品が売上30%以上アップ、さらに20万点の商品で売上が5倍にまで跳ね上がったといいます。

一方、京東(JD)も「JoyAI」シリーズを全面投入。企業向けに1,000万点以上の無料リソースと、50種類を超えるプロフェッショナルAIツール群を提供するほか、複数の主要プロダクトで優待施策を展開しました。デジタルアバター「JoyStreamer」、アバター型AI「JoyInside」、そしてAIモデル開発基盤「JoyBuilder」など、京東の中核AIサービスがパートナー企業に開放され、無料トライアルでも利用可能となっています。
京小智5.0
「京小智5.0」は、京東がJoyAIの大規模モデルとマルチエージェント技術を基盤として開発した、EC向けAIカスタマーサポートシステムです。主に中小規模の事業者向けに無料提供されており、顧客対応の効率化や問い合わせから購入までの転換率向上を目的としています。問い合わせ対応、接客、注文管理、データ分析、品質管理まで、顧客対応に必要な業務プロセスをエージェントが一気通貫で実行できることが特徴です。その結果、有人対応への切り替え率は28%以上削減され、問い合わせから購買への転換率を37%改善しました。
※AI エージェント:単に命令通りにテキストや回答を生成するAIではなく、目的を理解し、判断・実行・改善まで自律的に行うAIシステムのこと。つまり、「次に何をすべきか」を自分で考えながら動くAIです。


AIの進化がもたらした消費者の疲弊
プラットフォーム間の技術競争が激化する中、今年のダブル11では消費者もまた、新しいスキル競争を経験せざるを得ませんでした。価格を比較するだけなら「お気に入り」に登録するだけで済んだ昔と違い、今は画像認識による類似商品の検索、過去価格の照合、値下げ通知、クーポンの組み合わせ計算……など、複雑な「AI協働スキル」が求められます。かつては気軽で楽しかった買い物体験が、もはや試験勉強のようなスキルを問われるものになっているのです。
AIは、大量のデータを解析して商品品質や価格、口コミなどを総合評価し、最適な購入判断を瞬時に提示できます。一見すると「消費者に優しい機能」に思えますが、実際にはAIを使いこなせない消費者は、すでにスタートラインで不利になっているのが現実です。
そして、「損をしたくない」と思う消費者はAI支援ツールの学習を余儀なくされ、AIショッピングアシスタントに頼ってしまうことになります。代表的なAIショッピングアシスタントは以下のものがあります。
1、タオバオの「AI万能搜」
「AI万能搜」は、わずか数秒で全体のショッピングプランを提示してくれるAIアシスタントです。商品の価格、おすすめ理由、購入リンクを一覧で示すだけでなく、さらに質問したり再検索したりすることも可能です。つまり、従来のAI検索に商品リンクを統合することで、検索 → 選定 → 購入までの一連のプロセスをワンクリックで完了できる便利ツールになっています。

2、Deepseek
Deepseekは、優秀な「買い合わせ計算」アシスタントです。商品リストや割引クーポンなどを入力するだけで、最もお得な買い方の組み合わせを自動算出してくれます。どの商品をどう組み合わせれば最も安く買えるか、AIが具体的にアドバイスしてくれるので、節約志向の消費者には欠かせません。

3、拍立淘
写真やスクリーンショットをアップするだけで、同じ商品や類似商品を自動検索してくれる画像検索型AIです。最新版では「部分指定検索」に対応しており、例えばインフルエンサーのコーデ画像の靴部分だけを選ぶと、同モデルの商品を探せます。さらに過去30日間の価格帯も表示され、「現在の価格は9月の平均より12%安い」といった情報も出るので、購入判断に役立ちます。

4、什么值得买
単なる商品比較サイトではなく、購買意思決定を支援するプラットフォームです。商品推薦、割引情報、ユーザー投稿、レビューなどを総合的に提供します。2024年にリリースされたAIショッピングアシスタント「AI小値」は、対話形式でユーザーのニーズを理解し、商品推薦、価格比較、ネット検索などを実行できます。

しかし、誰もがAIツールを駆使するようになると、新しい消費の考え方が生まれています。「節約したければ努力が必要で、努力を怠れば余計なお金を払うしかない」という感覚です。消費者は、まるで見えない競争システムに巻き込まれているかのようです。あなたがAIで商品を選べば、他の人はAIで最安値を狙い、企業はAIで価格を動的に調整し、プラットフォームはAIを駆使してあなたの客単価を密かに引き上げます。クリックひとつ、迷いひとつの裏側で、すべてはアルゴリズムによって計算されているのです。
AIが参戦するダブル11は、消費者をサポートするのか?負担になるのか?
言うまでもなく、AIによってダブル11はより効率的でスマートなものになりました。一方で、ショッピングを「ツールを使いこなすスキル競技」へと変えてしまったのです。
「ツールが必須」「価格比較が必須」「意思決定が必須」といった買い物プロセスが固定化すると、かつてのように気ままに、楽しく買い物をする体験は失われ、かえって消費者は疲弊してしまいます。
最終的に対峙する相手はもはや企業ではなく、何層にも重ねられたアルゴリズムやプロモーションシステムです。以前はお祭りのようだったダブル11が、今や計算力と注意力の消耗戦に変わりつつあるのです。
もしAIとショッピングのテーマにご興味をお持ちでしたら、ぜひご連絡ください。お待ちしております。