2026.03.09

KOLもIPコラボも効かなくなった時代に、何が残るか ── 2025年の総括と2026年への展望

バルコニア代表の久保山です。毎年、新年最初の記事で1年の振り返りと翌年の見通しをポストしています。今年は少し遅くなりましたが、25年の振り返りと26年の展望を書いてみたいと思います。

日本政権交代後のインバウンド規制。売上チャネルのバランスが問われる。

25年、日本国内で最も大きな変化といえば、政権交代後のインバウンド政策の転換でしょう。中国人消費者の日本ブランドに対する好意度が下がったわけではないのですが、物理的にインバウンドが規制されたことで、これまでインバウンド売上に支えられていたブランドは影響を受けることになりました。

前年の記事でも、インバウンドや越境ECなど日本国内からカロリーをかけずにはじめられる取り組みで中国売上を作っておきたい企業が増えている、と書きましたが、インバウンドチャネルが物理的に制約を受けたことで、このポートフォリオの組み方が一層重要になりました。越境EC、一般貿易、インバウンドの三本柱をどうバランスさせるかが、26年に向けてブランドごとに突きつけられている課題です。

ここで注意すべきは、インバウンドの規制はあくまで物理的なもので、消費者マインドとして日本ブランドが弱くなったわけではないということです。日本に来る手段が制限されたとしても、越境ECや代理購入といったチャネルでの購入意欲は健在です。インバウンドが減ったことを過度に悲観するのではなく、チャネルの組み替えで乗り越えられる余地は十分にあると考えています。

中国国内の景況感。底を打った感はあるが、不況は続く。

24年の記事で「直近10年間で最悪」と書いた中国の景況感ですが、25年はようやく底を打ったかな、という感覚です。各社少しずつ回復基調に入っていて、大手消費財の決算でも前年比でプラスに転じるブランドが出てきました。

ただし、力強い回復かと言われれば、そこまでの勢いは感じません。消費者の価値観はすでに成熟方向に不可逆的にシフトしていますし、不動産市況の本格回復も見えていない中で、この不況がすぐに終わるとは考えにくい状況です。急激に悪くなるフェーズは過ぎたけれど、低空飛行が続く、というのが実態に近いと思います。

不況下でも投資を続けたブランドに、芽が出始めている。

22年の記事から一貫して書いてきたことですが、不況期にきちんとブランド投資を続けたブランドは、回復期に大きな差をつけます。25年はそれを裏付ける事例がいくつも出てきました。

ANTAは不況下でもマーケティング投資を拡大し、年間87億元の予算のうち60%以上をデジタルチャネルに投下し続けました。その結果、2022年にはNike中国を売上で逆転。2024年には売上708億元(前年比13.6%増)に達し、中国スポーツウェア市場シェア23%でトップに立っています。投資を絞ったLi-Ningとの差は開く一方です。

Lululemonも同様です。中国での出店を加速し、店舗をコミュニティのハブとして活用する投資を続けた結果、2024年の中国売上は前年比41%増。NikeやAdidasが軒並みシェアを落とす中で、唯一成長を続けた外資スポーツブランドになりました。

農夫山泉の「東方樹葉」はさらに示唆的です。2011年に発売され、当初は「まずい」と酷評された無糖茶を、10年以上かけて地道にブランドを育て続けた。元気森林がバズ型マーケティングで急成長し、その後失速していく横で、東方樹葉は愚直にブランドを磨き続けていました。健康志向のトレンドが到来したとき、「健康的な飲料」として真っ先に想起されるポジションをすでに押さえていた。2024年の茶飲料売上は167億元、前年比32%増。派手さはないけれど、地道なブランド資産の蓄積が不況期にこそ差を生む――その典型例だと思います。

中国企業の「出海」はさらに加速。グローバル化の潮流は止まらない。

24年に本格化した中国ブランドの海外進出ですが、25年はさらにその動きが加速しました。日本市場への参入も増えており、流通の壁を越えるために、すでに日本で販路を持っている企業との提携という形態が目立つようになってきています。

ただし、この流れは単なる「脅威」ではありません。興味深いのは、競争関係から協業関係を模索する動きが出てきていることです。たとえば、中国に生産拠点を持つブランドの最終製品を、日本企業が日本市場での展開を支援するといったケースがすでに生まれています。日本から中国へ、中国から日本へ、双方向で互いの強みを活かし合う関係です。「出海」の流れを一方的な競争と捉えるか、新しい協業モデルの機会と捉えるかで、戦略の幅は大きく変わります。

いずれにしても、中国だけでなくグローバル全体に視野を広げなければいけないという環境は、日本ブランドにとっても中国ブランドにとっても同じです。日本ブランドとしては、中国市場に加えて東南アジアや米国、インドなど複数の市場で勝負する時代になっていることは、もはや議論の余地がありません。

KOLもコラボもやり尽くされた。差がつかない時代に。

25年の中国マーケティングを振り返って強く感じるのは、手法の均質化です。KOLを使ったプロモーション、ブランドコラボレーション、IPコラボレーション――ここ数年のトレンドだった施策は、もうほぼすべてのブランドがやり尽くしました。

数字を見れば明らかです。全ネットでフォロワー1万以上のKOLは1,420万人を超え、2020年比で50%以上増加しました。小紅書の商業化KOLは2024年だけで78.8%増。KOLの供給過多は、当然ながらエンゲージメントの低下を招いています。美容分野のライブコマースROIは2年前の1:5から2024年には1:2にまで落ちました。ユーザー1人あたりの年間消費額も、2024年に初のマイナス成長を記録しています。

IPコラボはさらに深刻です。2023年1-9月だけで人気飲料ブランド18社が236件のコラボを実施。2025年Q1には食品・飲料セクターだけで115件。消費者側も完全に食傷気味で、64.3%が「衝動購買をしなくなった」と回答しています。

23年の記事でブランドコラボやIPコラボについて、流量は増えたかもしれないけれどブランドのキャンペーンとしては成り立っていないケースが多い、と書きました。たとえば、自社商品のパッケージが黄色いからという理由で、同じ色の某有名キャラクターとコラボしていたケースがありました。話題にはなるかもしれない。けれど、それは広告費でキャラクターの宣伝をしているだけで、自社ブランドのエクイティは何ひとつ育っていません。こうした「手段ありき」のコラボは、いまだに山ほどあります。25年においてはその状況がさらに進行し、もはや手法そのもので差別化することは極めて難しくなっています。

原点回帰。ブランド・エクイティとCEPに立ち返る。

では、同じ手法を使う中でどこで差がつくのか。私は、ブランド・エクイティとCEP(カテゴリー・エントリー・ポイント)に忠実に立ち返ることだと考えています。

CEPとは、消費者がそのカテゴリーの商品を想起するきっかけとなるシチュエーションや手がかりのことです。「朝、疲れた顔を見たときに思い出すスキンケアブランド」「友人へのちょっとしたお土産に思い浮かぶお菓子ブランド」こうした消費者の頭の中にあるブランドとの接点を、いかに多く、強く持てるか。これが本質的な競争力になります。

先ほどのIPコラボの例で言えば、問うべきは「どのIPとコラボするか」ではありません。「自分たちのブランドは消費者のどんな場面で思い出されたいのか」「そのために、どんなブランド連想を作りたいのか」という根本的な問いです。

農夫山泉の東方樹葉が成功したのは、まさにこの問いに10年かけて答え続けたからです。農夫山泉というブランドの根幹には「中国にきれいな水を届ける」という揺るぎないエクイティがあります。だからこそ、「健康」という大きなCEPを獲りにいくことに一貫性があった。東方樹葉が10年かけて押さえていたのは、まさにこの「体にいいものを選びたい」という消費者の想起ポイントです。ブランドの魂とCEPが一本の線でつながっていたからこそ、健康志向のトレンドが到来したときに一気に花開いた。

KOLもコラボも、CEPを強化するための手段として使うなら依然として有効です。ただ、手段ありきで企画を組み立てると、予算だけが消え、記憶には何も残らない。

24年の記事で「流量の解像度をあげる」と書きましたが、もう一歩踏み込みたい。「どのCEPを獲りにいくのか」「そのCEPにおいて、自社ブランドはどんなエクイティを想起させたいのか」ここまで落としてから施策を設計すること。これが26年のマーケティングでは不可欠だと考えています。

結局のところ、KOLの選定もコラボ先の選定も、CEPとブランド・エクイティの設計が先にあって初めて意味を持ちます。逆に言えば、ここがしっかり定義されていれば、施策の良し悪しは自ずと判断できるようになるはずです。

26年の展望

25年を総括すると、高市政権による政策変更、中国不況の底打ちと低空飛行、そして手法の均質化という3つの大きな変化がありました。

26年に向けて、私が特に重要だと考えるポイントは3つです。

ひとつは、売上チャネルのポートフォリオ再構築。インバウンド規制を受けて、越境EC・一般貿易・インバウンドのバランスを見直す必要があります。中国一国ではなく、グローバル全体での売上構成を考える時期に来ています。

ふたつめは、ブランド・エクイティとCEPへの回帰。手法で差がつかなくなった今、ブランドの本質的な競争力を磨くことが最も投資対効果の高い取り組みになります。ANTA、Lululemon、東方樹葉が示しているのは、不況期にブランドの根幹への投資を止めなかった企業だけが、回復期に圧倒的な差をつけるという事実です。

みっつめは、グローバル競争環境の変化への対応。中国ブランドが本格的にグローバル展開を進めていく中で、日本ブランドも競争の土俵が変わることを前提にした戦略が必要です。

不透明な時代だからこそ、小手先の手法ではなく、ブランドの根っこに立ち返ること。そこから始まる打ち手は、必ず持続的な成長につながると信じています。26年も引き続き、一緒にこの波を乗り越えていきましょう。

久保山