2026.05.18

静かでありながら、どこか独創的。中国ブランドを席巻する新たなビジュアルスタイル

左:画像出典 東辺野獣REDオフィシャルアカウント
右:画像出典 茉莉奶白REDオフィシャルアカウント 

近年、「禅酷風(BOLD-ZEN)」と呼ばれるビジュアルスタイルが、中国の新興ブランドの間で急速に広がりを見せています。これは東洋の禅と前衛的な表現を融合したもので、ニッチな美意識から拡散されやすいコンテンツの形式へと徐々に変化し、ブランドの差別化競争における重要な方向性となっています。「禅酷」とは、もともと中国発のハイエンド香水・フレグランスブランド「聞献DOCUMENTS」が確立した独創的なスタイルのことを指します。2021年のブランド創立時に彼らが掲げた、美学の核となるコンセプトです。

画像出典:聞献REDオフィシャルアカウント

聞献をはじめ、多くのブランドは識別されやすい一連のビジュアルコンテンツを通してSNSで注目を集めています。風の動きや詩的な雰囲気に満ちたショート動画、雰囲気を重視した空間デザイン、及び統一された美意識を言語化したビジュアル体系を通して、強力な宣伝力と記憶に残りやすいインパクトを生み出しています。同時に、ますます多くのブランドがこのような表現手法を模倣し始めており、「禅酷風」が新たなトレンドになりつつあることを裏付けています。

ここで、聞献というブランドについて簡単にご紹介したいと思います。聞献は近年中国で急成長しているフレグランスブランドです。その核心的な競争力は、単なる製品のスペックや機能にあるのではありません。最大の強みは、極めて高度に統一された「ビジュアル」と「コンテンツ体系」にあります。彼らはショート動画や空間デザインを通じて、東洋的な情緒とアバンギャルドなファッションを融合させた美学を絶え間なく発信し、感度の高い若年層の間で強固なブランド認知を築き上げました。

日本市場で馴染みのあるブランドに例えるなら、聞献は単なる「香水ブランド」の枠に収まりません。それはComme des Garçonsのコンセプチュアルで前衛的な表現力と、Aesopのように空間と内容が一体となった美学、さらに初期の資生堂の広告のような東洋の情緒を芸術的に昇華させた感性を掛け合わせたものと言えます。言い換えれば、聞献は「フレグランスを媒体とした美学コンテンツブランド」であり、商品そのものよりも、商品を中心に構築された一連のビジュアルワールドと情緒的体験が消費対象となっています。

まず、表現方法の面から見てみると、禅酷風はまず「東洋的情景のビジュアル化」です。具体的な記号に頼るのではなく、風や花、服の動きを通じて目に見えない「気」を表現しています。直接的な説明を排し、感覚を通じて物語を伝えるこの手法は、情報の密度をあえて下げることで、かえってユーザーの体験を深める効果を生んでいるのです。

次に、コンテンツの面において、禅酷風は伝統文化の「再創作」でもあります。例えば、二十四節気の取り入れ方においても、記号を使った表現ではなく、情緒と物語的なビジュアル言語へと変換されています。春の気配、穀雨の成長、子ども時代と自然に対する記憶など、知覚可能なコンテンツ体験として再構築されます。知識の伝達よりも感情的共鳴が重視されているのです。

闻献が公開した「二十四節気」をテーマにしたポスター
画像出典:聞献REDオフィシャルアカウント

また方法論の面では、この種のブランドはしばしば非常に強い「美意識のコントロール」をアピールします。店舗空間から画像コンテンツ、人物スタイルや小道具の細部に至るまで、高度に統一されています。多くのビジュアル要素は手作業によって製作されており、高度な工業化とAI生成が加速する中、このような「手間暇かけて細部にまでこだわる」スタイルは差別化の源泉となっています。同時に、実店舗そのものも単なる売り場ではなく、「SNSでシェアしたくなる没入型の舞台」として設計されており、店舗体験そのものがブランド拡散の重要な一部を担っています。

左:上海西岸夢中心:午年限定 聞献RED
右:長春万象城雪庭空間
画像出典:聞献オフィシャルアカウント

小紅書(RED)などのプラットフォームを見ると、聞献に対するユーザーの評価は、個別の製品特性よりも「体験の総体」に集中しているのが分かります。例えば「よくわからないけど、すごくきれい」「すごく静かな雰囲気で没入感がある」などといった声が寄せられています。さらには「広告というより、映像作品を見ているようだ」と評価するユーザーもいます。また、オフライン空間とビジュアルコンテンツも重要な体験要素として頻繁に言及されています。中には実際に店舗に足を運んで、写真を撮ったり動画を繰り返し視聴するユーザーもいます。こういったフィードバックを通して、聞献が「雰囲気と美意識」を核心とするブランドとして認識されていることがわかります。その魅力は単なる製品属性ではなく、トータルの体験から生まれています。

画像出典:REDユーザー

禅酷風の流行は偶然ではなく、深いレベルで市場ロジックが存在しています。まず、消費者は「洗練されたテンプレート」に対して美的疲労を感じています。これまで主流だったミニマリズム、高級感あるビジュアル言語はだんだん画一化されていきますが、それとは対照的に禅酷風はより個性的で再現が難しい表現手法となっています。またZ世代の消費動機は「商品を購入する」から「情緒体験する」へと変化してきています。彼らは単純な機能ではなく、雰囲気や物語、自己投影からその価値を見出して対価を払うようになっているのです。

さらに重要なのは、このトレンドが中国における文化表現の成熟を反映している点です。初期の、伝統的な記号を直接的に引用する段階から、より抽象化・内面化された美学の発信へと進化しています。禅酷風の本質は、表面的な「中国的な記号」にあるのではありません。東洋哲学が持つ独特の時間感覚や自然観、そして精神的な空間のあり方を、現代的な言語で再構築している点にこそあるのです。

海外ブランドにとって、このトレンドを一つの方向性として参考にすることができるでしょう。一部の中国ブランドでは、空間・商品・コンテンツを同一文脈の中で統一された表現体系の構築を試みています。発信のあり方も、従来の「商品を紹介する」スタイルから、場面や情緒を通じて感情を伝えるスタイルへと徐々にシフトし、ユーザーと情緒的な結びつきを構築しようとしています。

このほかにも、現在の競争環境においては、容易に模倣されない表現がますます重要になってきています。禅酷風を例にすると、その魅力は全体の創造性と実行力の独特性からきています。そのため、短期的なアウトプットにだけ頼らず、長期的なコンテンツとクリエイティブの蓄積が必要でしょう。また文化表現においても、一部のブランドでは直接的な解釈を減らしたり、雰囲気や体験を通じてユーザーの感性や想像力に働きかける試みがみられています。

総じて、禅酷風は単なるビジュアルスタイルではなく、1つの強力なシグナルでもあります。中国ブランドの競争は、機能・価格から美意識・体験を中心とするステージに移行しています。今後、真の競争力を持つブランドは、商品の提供のみならず、消費者がアクセスしやすく長居したくなるような独自の世界観を構築できるブランドでしょう。