2026.05.25

心地よい「ゆるさ」が広がる、これからの商業空間

私の勤務先である「創享塔」はクリエイティブオフィス、ショップ、トレンド及びコミュニティサービスエリアが美しく融合した、都市型の複合コミュニティ空間です。ここは通常のショッピングモールと少し違っていて、「買わせよう」とする空気感があまり強くありません。夕方になると、犬の散歩をする人もいれば、広場で駆け回っている子どもたちもいます。建物の1階には個人商店が並んでいます。天気がいい日、仕事帰りは家に直行しないで花壇に座ってぼーっとしていたり、何もせずただ行き交う人たちをひたすら眺めたりしています。不思議なことに、特に何かを買うわけでもないのに、つい長居したくなるのです。最近になってようやく気づいたのですが、多くの商業エリアが人々を惹きつけているのは、もはや「ショッピング」ではなく、リラックスできるような繋がり感があるからかもしれません。

「创享塔共享社区」の様子。犬の散歩や子どもの遊び場として利用する人々がいます。
画像出典:筆者が撮影

ここ数年、商業施設は「消費」から「つながる」を目的とするロジックへと明らかな変化を見せています。これまでのショッピングモールは「どうしたらもっと買ってもらえるか」を中心に研究していましたが、今は「どうしたら長居したくなるか」について研究し始めています。その結果、最近では多くの商業施設はコミュニティ、マルシェ、公共スペース、個人商店を取り入れ、情緒ある街の雰囲気や昔ながらの街の姿を残そうとしています。Eコマースが買い物の利便性をもたらし、ショート動画で暇つぶしができるようになった今、オフラインで最も貴重とされているのは人と人、人と場所のリアルなつながりではないでしょうか。

かつて商業施設の本質は「いかに消費してもらえるか」でした。ショッピングモールならブランド数や内装の豪華さ、集客規模、不動産なら立地や面積、テナント誘致力を競ってきましたが、今日、多くの商業施設は人々が本当に必要としているのは消費する場所だけでなく、「人と人、人と街の繋がり」であることに気づき始めています。これは「コミュニティづくり」を取り入れている商業施設が増えている原因でもあります。

そもそもコミュニティづくりという考え方は商業施設のコンセプトと異なり、当初は住宅開発や公共ガバナンスの領域で使われていた言葉です。例えば「阿那亚(Anaya)」「良渚文化村」といったプロジェクトなど、本質的には「コミュニティへの帰属意識」という課題を解決するためのものでした。デベロッパーたちは、住宅の価値を高めるのは建物そのものではなく、住民同士が紡ぐ関係性のネットワークであると気づいたのです。書店や演劇祭、地域イベント、公共スペースが一体となって「コミュニティ感」を形作っていました。ただこの段階のコミュニティデザインは、まだ不動産の「付帯設備」の領域であり、対象はあくまで住民たちのみでした。

河北省秦皇島阿那亚(Anaya)文化コミュニティ。
画像出典:阿那亚(Anaya)レッドオフィシャルアカウント
杭州良渚文化村。
画像出典:レッドユーザー「发发的户外生活

その後、コミュニティづくりは都市再生のフェーズへと移行し、多くの古い街道ではコミュニティラウンジや共有スペース、公共マーケットなどといった新しい試みが次々と現れました。その多くは公共性や地域文化、住民の参加を重視してきましたが、残念ながらビジネスとして成り立たなかったため、実際には政府や公益金に支えられてきました。この時期、コミュニティづくりはビジネスではなく、あくまで公共ガバナンスのテーマとして捉えられていました。

転換点が現れたのは、デベロッパーが積極的にコミュニティづくりに取り組むようになってからでした。その原因は非常にシンプルで、従来型の商業モデルがだんだん機能しなくなったからです。Eコマースでショッピングが利便化され、ショート動画で暇づぶしをできるようになった今、人々がわざわざオフラインで集まる理由は何でしょうか。その答えは「消費」のためではなく、「生活コミュニティとつながる」ためでした。そして一部の商業プロジェクトは、ショッピングモールの運営から、コミュニティの運営へと方向転換したのです。

「南頭古城」の事例を見てみましょう。「南頭古城」はその歴史を土台にして多様なカルチャーを受け入れてきたクリエイティブな街です。約1700年の歴史を持つ古城には3万人が暮らしているコミュニティがあり、100以上の個人ブランド店舗があります。コミュニティデザインを担うチームは、既存の住民やエコシステムを無理に排除するようなことはしませんでした。代わりに、住民、商店、ブランド、そしてデベロッパーの間を繋ぐ「翻訳者」となることを目指したのです。彼らはマーケットや共創イベント、コミュニティ育成等を通して、分断されていた商業空間にリアルな人間関係を築き上げていきました。

深圳南頭古城。
画像出典:レッドユーザー「奏韵创意分享

もう一つ典型的な事例がBACアートコミュニティ(BAC艺术社区)です。このプロジェクトでは本格的な運営を始める前に、大規模なフィールドリサーチが行われました。周辺住民のライフスタイル、文化的背景、そしてコミュニティの習慣を徹底的に研究した上で、提供するコンテンツや商業の方向性を決定しました。従来の商業プロジェクトの場合、まずテナントを誘致してからどうプロモーション・拡散するかを考えていたのに対して、最近の一部のプロジェクトではまず「ここにいる人々は誰か」を徹底的に知り、そこから商業のあり方をデザインします。その背後にあるのは、商業の価値基準の変化そのものです。昔は「坪あたり売上の最大化」が重視されていましたが、今では「滞在がうむ関係性」が注目されています。かつてのロジックなら「どうすればもっと買ってもらえるか」でしたが、今は「どうすれば人が長居したくなるのか」に変わったのです。

杭州BACアートコミュニティ
画像出典:レッドユーザー裙子姐姐Tracy

このように、これまでの常識にとらわれない商業施設が多く現れてきています。個人商店、マーケット、コミュニティイベント、公共ラウンジ、共創スペースが次々と生まれました。これらは必ずしも高い効率性を誇るわけではありませんが、人々の間に最もリアルな「感情の繋がり」を形成することができます。そしてこの繋がりこそが、今の商業において最も希少な資産になりつつあるのです。

将来、コミュニティづくりは「イベント運営」から「繋がりを生むインフラ」へと進化する可能性があります。商業空間の競争も「コミュニティ競争」へと変わっていくでしょう。地域の文化をどれだけ深く理解しているか、人と人との信頼をどれだけ構築できるか、そして長期的な参加感をどれだけ生み出せるか。それらを備えた場所こそが、安定的で強いユーザーとの関係を築くことができるのです。ある意味では、今後の商業空間は単なる「消費する場所」ではなく、小さなコミュニティのような存在になっていくかもしれません。人々はそこでショッピングするだけでなく、帰属する安心感を求めて足を運ぶようになるでしょう。