2026.06.26

若者が求めているのはスポーツそのものではなく、「心地よい感覚」との出会いだ

以前から「バリ島スポーツスクール」「チェンマイホビーサークル」「万寧スポーツスクール」といった言葉をよく耳にしていました。私自身もこの2年間、毎年2週間ほど休暇を取り、チェンマイのトレーニングキャンプに参加している1人です。当時はまだ「Sportcation(スポーツケーション)」という言葉はありませんでした。最近、REDのポッドキャスト番組で初めて「Sportcation」という概念を知りました。また、5月中旬にREDが千島湖(浙江省杭州市に位置し、豊かな自然とプライベート感があり、洗練されたライフスタイルや高級リゾートとしての魅力を兼ね備えた湖畔エリア)で「有感运动会(心地良い感覚・フィーリングの運動会)」を開催しました。このイベントはまさにSportcationをリアル化したもので、「千島湖スポーツスクール」という名前もREDで広く知られるようになりました。

画像出典:RED

Sportcationとは、一体何か?

Sportcationは、Sports(スポーツ)とVacation(バケーション)を組み合わせた言葉です。従来のスポーツに比べて、競技や成績を目的とするものではなく、そこから得られる感覚(フィーリング)を重視した「バケーション型のスポーツ体験」です。例えば、千島湖でサイクリングする人は必ずしもサイクリングファンというわけではなく、湖面を横切る風を感じる瞬間を楽しんでいたりします。ハイキングに行く人もコースを周りたいのではなく、情報過多な都市から一時的にエスケープしたいという気持ちが強いようです。特に中国の若い世代にこのような傾向があります。

REDユーザーは主体的にSportcationの楽しさや感想を投稿しています。
画像出典:RED

最近、多くの若者の日常は、仕事のグループチャット通知や高頻度で流れ込んでくるプッシュ通知などに囲まれています。休憩時間がないわけではないのですが、本当の意味での「オフライン状態」は減りつつあります。そのため、スポーツを通じて一時的に身体を解放させようとする人が増えています。Citywalkをはじめ、サイクリング、フライングディスク、SUP(スタンドアップパドルボード)、朝ラン、ハイキングなど、いま若者たちが求めているのは本格的なスポーツではありません。自分が確かに「生活の中にいる」というリアルな実感を求めているのです。

なぜ Sportcation はREDでバズったのか?

その理由はSportcationの本質が「有感生活(リアルな実感を伴う暮らし)」であるからです。他のプラットフォームに比べ、REDが得意としているのは生活そのものを記録して共有する機能であり、ユーザーは投稿を通して感じたことを共有します。すでにお気づきかもしれませんが、REDにあるスポーツ関連コンテンツは、従来のものから一線を画しています。

人々が投稿するコンテンツは「今日何キロカロリー消費したか」という数値ではなく、サイクリング中に偶然見つけた河川敷やテニスの後偶然出会った夕焼け、ハイキング中に何気なく聞こえてきた風のささやき、夜ランが終わってコンビニの冷蔵庫で手に取った冷たい炭酸飲料などといった瞬間なのです。このような些細な体験は多くの共感を呼び起こしています。現代の若者にとって本当に不足しているのはこのような具体的で小さなフィーリングなのです。それゆえに、Sportcationの本質はスポーツそのものではなく、一種の「回復」であり、身体の感覚を取り戻し生きている実感を取り戻すことなのです。

若者たちは再び「身近な場所」を探し始めている

ここ数年、多くの若者の行動範囲は非常に固定化していて、会社、交通機関、ショッピングモール、自宅などを往復する毎日です。しかしSportcationの広がりによって、若者たちは街を再発見しようとしています。最近のREDでは、朝食ランニングコースの紹介やテニスコート100選巡り、都市サイクリングマップなどといったコンテンツが人気です。ここではスポーツそのものよりも、運動を通じて街とのつながりを取り戻すことが重要になってきています。

このようなトレンドの背景には、若者たちの典型的な心理変化があります。人々は「用意された消費体験」に飽き始め、主体的に日々の暮らしに関わることを求め始めたのです。かつてブランドは商品を提供する存在でした。しかし今の若者たちが重視しているのは、そのブランドが、自分の憧れるライフスタイルへと没入させてくれるかどうかです。そのため、近年では多くのスポーツブランドは大規模な競技大会ではなく、河川敷や公園、地域コミュニティなど気軽に参加できる場所でライトイベントを行っています。その理由はとてもシンプルで、若者たちが求めているのは気軽に参加できて、人と交流ができて、生活感があるようなシチュエーションだからです。

彼らは本格的な競技スポーツよりも、お喋りを楽しみながら身体を動かし、お気に入りの写真をSNSでシェアして、日常に自然に溶け込む体験を好みます。その結果、朝ラン+朝食、サイクリング+コーヒー、ハイキング+キャンプといった組み合わせが頻繁に登場するようになりました。スポーツはいま、「健康維持や競技といった目的のための行為」から「ライフスタイルを構成するコンテンツ」へと変化しつつあるのです。

左:「朝ラン×朝食」の定番コンビ。
画像出典:REDユーザー 切切切切切尼
右:「サイクリング×コーヒー」も人気の組み合わせです。
画像出典:REDユーザー 霍天

ブランドが理解すべきは情緒的価値だけではない

ここ数年、「情緒的価値」という言葉はマーケティング業界で頻繁に使われています。しかし、多くのブランドは感情を語ろうとする一方で、その感情がどこから生まれるのかを十分に理解できていないようです。Sportcationがユニークなのは、それが従来のような単なる消費のアップグレード(ハイエンド化)ではなく、メンタルのリカバリー需要に近いという点です。

若者たちが運動靴を買うとき、クッション性だけを見ているわけではありませんし、サイクリング用品を選ぶときも、スペックだけで決めているわけではありません。彼らが本当に求めているのは、「限られた運動時間の中で、自分もあの心地よい状態に没入できるだろうか」という期待感です。だからこそ、現在エンゲージメントの高いスポーツコンテンツの多くは、プロダクトそのものではなく、人に焦点を当てています。ブランドが真に入り込むべきなのは、消費者の買い物カゴではなく、彼らの生活ルーティンなのではないでしょうか。

商品のスペックを強調するよりも、汗をかいた後の解放感や仲間と一緒に体を動かす楽しさ、運動後にまったり過ごす静かな時間をアピールするほうが、今の若者に響くはずです。なぜなら、彼らが求めているのはスポーツの上達ではなく、より実感を伴う心地よさを感じることだからです。

Mini Sportcationが次のトレンド?

もう一つ注目すべき変化があります。それはSportcationがますますライト化しているということです。以前は、運動と旅行をセットで考えていたため、実現するにはまとまった休暇が必要でした。しかし、今では「Mini Sportcation」を実践する人が増えています。例えば、昼休みに20分だけ散歩する、仕事帰りに少し遠回りして自転車で帰る、出張先で朝ランをしながら街を探検する、週末に1時間テニスをしてから食事に行く、などといったものです。こうした隙間時間のアクティビティは決してストイックなものとは言えませんが、現代の若者の現実生活に非常にフィットしています。長期休暇を取るのが厳しい中、心身を整えるためのつかの間の時間が必要なのです。

ブランドにとって、このような変化には重要な意味があります。今後チャンスを掴めるのは生活から遠くかけ離れている、本格的・プロ向けの専門ブランドとは限りません。むしろ、日常のわずかな時間で身体を動かし、心地よい感覚と出会えるシチュエーションへ自然に溶け込めるブランドです。若者に寄り添い、ほんの少しだけ日常から離れるエスケープを提供できるブランドだけが、若者の暮らしに浸透していくことができるでしょう。