2021.01.12

中国の香水市場は個性の時代となるか(後編)

前回で中国の香水市場の推移、高級インテリアフレグランスの牽引者「Diptyque」についてご紹介しましたが、今回は明星(芸能人)影響と香水のニッチ化についてご紹介します。

明星影響による爆売れ、男女ともにさまざまな香水をつける

Weiboで2600万人以上のファンを持つ21歳の中国人俳優、劉昊然(リウハオラン)。ある日ファンが劉昊然と空港で会い、「現在私の服は劉昊然の香水の匂いに満ちてる!!!」という興奮気味の投稿をした途端、「刘昊然用的什么香水(劉昊然はどこの香水を使っているの?)」というハッシュタグが立ち、ファンたちはリサーチにリサーチを重ね、さまざまな香水を試したり情報を拾ったりして、このハッシュタグは瞬く間に2億2000万ビューとなりました。(結局BLEU DE CHANELでした)

近年の中国男性芸能人はファンに対してものすごい購買牽引力を持っているかを示しただけでなく、若い中国人男性が香水を購入することへの需要が高まっていることも示しています。

実際、「渣男香(クズ男の香り)」「斩女香(女を落とす香り)」といった言葉が2017年頃から発生し、今も「【对比评测】斬女香是哪款?60款男士香水試用報告(【比較評価】女を落とす香りはどの香水タイプでしょうか?60個のメンズ香水トライアルレポート)」などの記事が氾濫しており、男性にも香水文化がかなり浸透しているように感じます。

これは私個人の感覚かもしれませんが、香水に限らず、日本でよく見る「男性にモテるXX!」と同じくらい「女性を虜にするXX!」というTIPSが溢れているように思います。

また異性の芸能人の使用アイテムを真似て使用する事象から、女性にメンズ香水が売れたり、逆に男性がレディース香水を身にまとうこともよく見られる光景の理由かと思います。中国の香水市場は非常にユニセックスです。

参考:
When Smells Sell: Chinese Male Celebrities and Their Favorite Fragrances
https://jingdaily.com/male-celebrities-fragrances/
【对比评测】斩女香是哪款?60款男士香水试用报告
https://my-best.cn/40490/

「商业香​​」と「沙龙香」。香水も個性の時代へ

中国のSNSでは「宁愿撞衣、不要撞香」という言葉をよく目にします。これは「同じ香りの人に出くわすよりも、同じ服の人に出会うほうがよい」という意味です。化粧品とは異なり、香水は嗅覚を刺激し、感情や記憶を誘発することが知られています。このように、自分が選んだ香りは自分の感覚と密接に絡み合っています。個人のアイデンティティに対するこの影響は、若いミレニアル世代が10億人を超える人口の中で目立つように努力している中国でさらに強く見られます。

中国のフレグランス消費者は、主流とニッチを区別するために独自の語彙を考え出しました。「商业香」(商業的な香り)は、シャネル、バーバリー、カルバンクラインなどの確立されたブランドの香水を指します。その反意語「沙龙香」は文字通り「サロン香水」を意味し、独占的に少量生産されているニッチな香水を指します。中国の買い物客は進化しており、香水のボトルの背後にある独特のアイデンティティと創造性にますます気づき始めています。

香りに個性やアイデンティティをかなり見出している中、中国のフレグランスブランドである気味図書館(SCENT LIBRARY)は勢いがとどまることを知りません。ブランド全体の店舗コンセプトは、本のように香りを閲覧するという発想に基づいています。ここでは、顧客は15mlの香水または小冊子のような3mlの香水のミニギフトセットを購入するオプションがあります。それぞれの香水は、「姜絲可楽(風邪の時に母親が作ってくれた生姜入りホットコーラ)」や「涼白開(冷ました白湯の香り)」など、中国の生活を象徴する子供の頃の記憶を呼び起こすように設計されています。

涼白開はSNSで話題となり爆発的に売れ、2018年11月の「独身の日」セールでは40万本以上を売り上げました。

中国のニッチな香水eコマースプラットフォームMinorité(ミリノテ)は、パーソナライズのニーズに応えるブランドです。最も興味深い点はその場で香水を販売していないことです。訪問者が特定の香水を購入したい場合はWechatストアで注文可能です。
創設者であるソンユアンは、香水を体験するために芸術感のある没入型の環境を作り出すことが重要であると信じています。

ミノリテの売り上げトップはUlrich Lang NewYorkのAPSU。公園での朝のジョギングに触発され、刈りたての草のような香りがします。人口の多い都市では、特に朝の地下鉄や混雑したエレベーターで、強くて過激な香りが他の人のすでに限られた個人的なスペースに侵入する可能性があります。新鮮な草の香りは確かに受け入れられやすいです。Dom Rosa(ピンクのシャンパン)やIle Pourpre(黒のイチジクと生姜)のような珍しい香水も中国でますます高く評価されています。

また、テンセントのインフルエンサーリストで3位の男性芸能人、朱奕龍(Zhu Yi Long)や韓国人ラッパーのG-Dragonは、それぞれ「Louis Vuitton Le jour se léve(ルイ・ヴィトン ルジュール・セ・レヴ)」とFrédéric Malle(フレデリック・マル)の「Musc Ravageur Eau De Parfum(ムスク・ラヴァジュール・オードパルファム)」を使って、より個性的なアプローチをしていることを言及しています。

参考:
Niche Perfumes: China’s Growing Appetite for Unusual Fragrances -
https://www.luxurysociety.com/en/articles/2019/02/niche-perfumes-chinas-growing-appetite-unusual-fragrances/
Lighter Fragrances Prevail With China’s “Innocent Princesses”
https://jingdaily.com/lighter-fragrances-chinas/

このように近年目覚ましい発展を遂げている中国のフレグランス市場。

ファッションのみならず、香水までも個性を表現する市場となるかどうか、この市場はメイク、表現、高級商材と密接にかかわっており、世界的にもまだまだ成長する兆しがあります。

実際すでにミリノテのようなオーダーメイドカスタムの香水も増えつつある2021年。来年の香水やフレグランス市場に注目です。

中国の香水市場は個性の時代となるか(前編)