2021.08.19

消費者との出会いを見逃していませんか?

 balconia上海副総経理の川崎です。今回は、海外マーケティングにおいて、カスタマージャーニーを作る前に知っておきたいことをご紹介します。1商品を認知、購入し使用するまでのジャーニーよりもう少し広い視点で、人生におけるカテゴリーとの出会いから現在にいたるまでのターゲットとの接点を考えていく方法です。

ライフコースの視点

 ペルソナやN1とともにカスタマージャーニーをマーケティングのベースに置いているブランドは多いと思います。特に、文化や習慣の違う海外マーケットを狙う場合には、ターゲット理解を深め、より確度の高い施策を打つために重要になってきます。

 このカスタマージャーニー、多くの場合は、1つのアイテムを認知してから購入に至るまでの情報接点と刺激を整理・構造化したものを作成することが多いのではないでしょうか?

 もちろんそれも非常に大事ですが、1つのアイテムに出会うまでの背景と言うか、そのカテゴリー自体にどうやってエントリーしてきたか、という視点も重要です。海外ではそもそもカテゴリーとの接点が日本と全く異なることが多々あります。ライフイベントが異なるなら、それに応じて消費行動も変わってくるのは当然です。

 特に呼び方にこだわりはないですが、ターゲット消費者の人生におけるカテゴリーとの接点を構造化したものを、ここではカテゴリー・エクスペリエンスと呼ぶことにします。

中国のライフイベントの例

 例えば、中国の学生時代に起こるイベントや習慣のいくつかを挙げてみたいと思います。

① 幼稚園・小学校から大量の宿題が出るが多くは電子ファイルの形で配布される
② 学生のうちに炎天下の下で軍事訓練を受ける
③ 大学生は基本的に学生寮に入る(だいたい4人以上が1つの部屋)

 上記のようなイベントを考えただけでも多くの消費行動が絡んできます。分かりやすいものだと①によって、子どもがいる家庭では進学の際に当然のように家庭用プリンターを購入するようになります。②は、普段はなかなか日光にあたらない勉強漬けの学生達が炎天下に晒される一大イベントです。サンケアアイテムが必須となるでしょう。③は、寮に入ることで一気に商品情報が増え、友人と一緒にオンラインで団体購入するきっかけになります。寮は洗面所や浴室は共有のことが多いので、友人の使っているシャンプーやスキンケアを見たり、交換して使ってみたり、という絶好の機会になります。日本のように大学生=一人暮らしが多い、というようなイメージでいると結構ズレが生じてしまいそうです。

 などなど、日本のライフイベントなら感覚的に皆さん頭に入っていると思いますが、それと同じことを中国でイメージ出来ているでしょうか?すごくシンプルなことですが、実は大事なチャンスを逃しているかもしれません。

 分かりやすいライフイベントだけではなく、意識の違いや、その社会での“常識“によっても消費行動は変わってきます。例えば、中国大都市部の女性の間では「25歳からアンチエイジング・ケアをしないと手遅れ」といった意識が強く、それが20代から高級アンチエイジングスキンケアにエントリーするモチベーションとなっています。

 このようにカテゴリー・エクスペリエンスは、習慣、意識によって大きく変化するため、国を超えてまるっきり同じということはかなり少ないと言えるでしょう。意識的に把握していく必要があります。

カテゴリーとの接点をまるごと理解する

 上記で挙げたようなファクトは、あまりにも当たり前過ぎて、日本人は勝手に日本ベースで考えていることが多く、また中国人スタッフも敢えて意識的に考えることもないので日・中双方のスタッフが揃っていても不思議と社内のナレッジとしてすっぽり抜けていることが少なくないように感じます。

 すごく一般的な習慣レベルのことでしたら、中国の方とじっくり話せば把握出来るため、わざわざ多くの予算をかけて消費者調査せずともOKですが、今担当されているカテゴリーが、ターゲット消費者の人生においてどのように出現し、どのように消費され、どのような価値を感じられているのか(いずれも、各ライフステージによって異なる可能性も大きいですよね)は、是非定性的にじっくり把握してみることをお勧めします。ちなみに手法としては、通常、1対1のデプスインタビューを通して理解していきます。

 短期的なカスタマージャーニーを作ったけど、「うーん、結局競合に勝てる突破口が見つからない・・・」「ペルソナもカスタマージャーニーもばっちりで投資もしているのに何か効果があがらない・・・」といった場合には、カテゴリー・エクスペリエンスから考え直すと色々と見えてくるかもしれません。私が見てきた中でも、18歳前後の女性をターゲットにした商品の不調の理由を探っていくと実は12歳前後に触れる情報が鍵になっていたといったケースがありましたが、マーケティングに関わる方でしたら、おそらく日本で似たような経験はたくさんされて来ているのではないでしょうか。文化も習慣も違う海外では、思いもよらない齟齬が生じている可能性はより高いといえます。

 以上、カスタマージャーニーをもう少し広い視点でとらえ直してみると見逃している機会が見つかるきっかけになるかもしれません、というお話でした。本稿の内容にご興味を感じて頂けた場合には、ご相談ベース、雑談ベースでも結構ですので是非balconiaまでお声かけ頂けると幸いです!