2021.03.18

インターン生と考える、「カルチャライズ」って何?

皆さんこんにちは!今回初めてブログを書かせてもらうことになりました、今井美佑です。皆さんはきっと、「誰だ、お前?」となっていると思うので、まず初めに簡単に自己紹介をさせてください。私は現在上海の復旦大学経営学部に通っている大学2年生です。高校生のころに中国語の勉強と海外文化に触れたいと思い、一人で上海の現地校に留学をしました。上海生活を送り始めてからもうすぐで5年になります。去年の1月から、コロナウィルスの影響で、日本に一時帰国をしています。せっかく日本に滞在しているこの機会にしかできないことをいろいろ探していたところ、balconiaと出会いその企業理念にとても共感し、インターンをさせてもらうことになりました。これからインターン生として、ブログを書いていきますのでよろしくお願いします!現役の学生として日本と中国で経験してきたことや、思いをなるべく多く皆様にお伝えできればと思っています。

インターンを始めるにあたってbalconia上海/香港法人総経理の久保山さんから、「グローバルを統合したブランドガイドを作りたいとき、的確なカルチャライズが大切」だと教えてもらいました。

過去のbalconiaのブログを見ると何度かカルチャライズについての記述がありますが、今回は私なりに理解したカルチャライズの大切さについて書いていきたいと思います。

皆さんいきなりですが、このロゴに見覚えはありますか? 日本発レストラン「サイゼリヤ」の中国での表記です。サイゼリヤは2003年に「より多くの人々に、健康的で豊かなイタリアの食事が手頃な価格で日常生活にもたらす喜びを感じてもらいたい」という企業理念のもと中国に進出し、上海に第一店舗目を設立しました。現在もなお、中国本土において200店舗以上展開しています。参考:経営理念|企業理念|サイゼリヤ (saizeriya.co.jp)

サイゼリヤが中国進出を果たした2000年代当初、中国は改革開放が進み、外食をすることは一種の娯楽でした。当時は「ピザハット」や「味千ラーメン」といった外国レストランに連日一時間以上の行列ができていました。その様子を見て、日本の「ファミレス」も中国進出に勝機があると確信していました。そこでサイゼリヤ同様、「ココス」、「ジョイフル」、「ロイヤルホスト」といった大手ファミレスチェーンが本格的に中国に進出しました。しかし残念ながら、進出したほとんどのファミレスチェーンは売り上げをなかなか伸ばせず、失敗に終わっています。失敗に終わってしまった理由の一つとして、日本のファミレスの定番メニューが中国の消費者に刺さらなかったのではないかということがあげられています。例えば日本において、ファミレスの人気定番メニューといえば、「ハンバーグ」を連想する方が多いと思います。多くのファミレスチェーンはこの「ハンバーグ」を主力メニューにしたまま中国に進出しました。しかし中国人は、何の肉か、鮮度が良いのか悪いのかわからない「挽肉」に対して抵抗がありました。参考:https://socialzine.net/articles/3LNgs その結果日本において人気メニューである「ハンバーグ」は、中国人消費者にはうまく受け入れられませんでした。また「オムライス」や「ドリア」、「パスタ」などの主力メニューは、冷菜や温菜をバランスよく注文しその補足として「主食」を加える中国人にとって、「主食」中心となってしまい中国人の習慣に合いませんでした。その結果日本の「ファミレス」というポジションが、当時の中国では受け入れられづらかったのではないかと考えられます。参考:https://dot.asahi.com/dol/2017102300064.html?page=3 

ではなぜサイゼリヤは売り上げを伸ばし、いまもなお中国人消費者に愛され続けることができたのでしょうか。それはサイゼリヤが中国において「ファミレス」ではなく、「カジュアルイタリアンレストラン」というポジショニングを保ち、中国の習慣、文化および消費者の好みに合わせてメニュー内容を調整したからだと考えられます。例えば、日本のサイゼリヤでは「ハンバーグ」のメニューが豊富にあるのに対し、中国のメニューではハンバーグの代わりに中国人消費者が好む「羊肉」や「サーモン」といったメニューを豊富に展開しています。

引用:日本サイゼリヤホームページ

引用:中国サイゼリヤホームページ

このサイゼリヤの例のように、企業が海外進出する際、その商品・サービスが現地の顧客の習性や文化背景、嗜好に合っているか、狙い通りに知覚できる素地があるのかどうかを深く分析する必要がありそうです。

海外に進出する際、本国での価値やメニュー、空間をそのまま持って行き翻訳をするやり方を「ローカライズ」と呼びます。「ココス」、「ジョイフル」、「ロイヤルホスト」の例では、日本のメニューをそのまま持っていくという「ローカライズ」のやり方で終わったため、中国において定着することができなかったと思われます。「ローカライズ」にとどまらず、サイゼリヤのように現地の習慣、文化および消費者の好みに合わせてその商品やサービスを調整し、表現する方法をとる必要があります。これが「ブランド・カルチャライズ」です。カルチャライズは消費者の価値観、伝統的な文化や風習、生活習慣、感性や嗜好と深く関係しています。カルチャライズをすることによって、ブランドが表現したいことが現地の消費者に伝わりやすくなり長く好まれるものにすることができます。

カルチャライズを行っているその他の例として、スターバックスコーヒーを挙げてみます。

スターバックスは日本、中国両方で大規模に展開している人気のブランドです。

日本では、日本人好みの期間限定商品を定期的に売り出したり、飲み物のサイズを本場アメリカより小さめに作ったりしています。ほかにも日本には昔から喫茶店文化があることからわかるように、日本人はカフェや喫茶店で飲み物を飲みながら作業をする習慣があります。スターバックスでは作業がしやすいようにコンセントを設置したり、長机を設置することで、作業がしやすい、家でも職場でもない「サードプレイス」という空間を提供しています。参考:会社案内|スターバックス コーヒー ジャパン (starbucks.co.jp)

また期間限定のフラペチーノなどは、日本の若い女子の間でいわゆるインスタ映えとしてとても好まれています。最近ではモバイルオーダーの導入により、個人が好きなように飲み物をカスタマイズできるようになり、さらに売り上げを伸ばしています。

引用:Instagram カスタマイズが好きな日本人消費者

このようにスターバックスは日本においてカルチャライズを行うことにより、長く日本の消費者に愛されることができたのだと考えられます。

次に中国においてのスターバックスをみてみます。日本で中国(台湾)発ブランドのタピオカブームが来たことからわかるように、中国にはタピオカミルクティーやフルーツティー、コーヒー等の飲料専門店がたくさんあります。その結果常に競争が激しいため、工夫を凝らした新商品、サービスが頻繁に展開されています。例えば店舗を持たずデリバリーに特化し、高品質なコーヒーを低価格で提供しているサービスが出てきています。そのような環境の中で、価格が比較的高く、オーソドックスなコーヒーメニューを中心としたスターバックスが中国において広く受け入れられ続けているのは、カルチャライズを積極的に実施しているからだと考えられます。例えば飲み物のサイズが日本ではショートサイズがあるのに対して、中国ではTall、Grande、Venti(中杯、大杯、超大杯)というようにショートサイズがありません。これは中国人の、小さいサイズを持っていると恰好が悪いと感じる人が多いという習性に加えて、大きいサイズを頼むことで自分を大きく見せられるということもあります。

またスターバックスは日本でのイメージと比べて、高級ブランドとしてのイメージを中国では持たれています。そのためスターバックスのギフトカードが企業のお中元として定番になっていたり、個人のプレゼントやお土産に適した小さいスイーツセットなどが販売されています。

引用:微博

もう一つ面白い例として、スターバックスは中国の建国記念日である国慶節に合わせてブランドロゴを刻んだ独自の月餅を販売しています。これらは友達へのプレゼントや自分のご褒美として中国の消費者にとても人気があります。

引用:微博

日本と中国においてのスターバックスの例のように、現地の消費者のニーズや習慣、嗜好や生活に合わせて提供する価値を調整したり、販売する商品を工夫する「カルチャライズ」を継続的に実行することによって、その企業が現地の消費者により長く、深く愛されていけると考えることができます。

今回ブログを作成してみて、海外に進出する際にカルチャライズを意識することがとても大切だということを理解しました。一方、実際にカルチャライズを行うことはそう簡単ではないということも同時に思いました。上海ではたくさんの日本から来た商品やサービスを目にすることができますが、その中でも存在感をもって中国消費者に人気があるものは、サイゼリヤ、ユニクロ等の一部を除いて少なく感じます。例えば日本でとても人気があるチーズタルト専門店が上海に進出した際は、個人的にすごくうれしかったのですが、日本同様に長蛇の列ができることはなく、いつの間にか閉店していました。このように日本の良い商品やサービスが中国に進出してもうまくいかず、撤退していく姿を何度も目の当たりにして、残念でもどかしい気持ちを感じていました。

かつて中国は物に飢えていて、日本の商品やサービスをそのままローカライズしても日本産や海外輸入等と書いてあるだけで売れるという状態でした。

しかしここ最近急速に中国の消費者は豊かになり、その商品やサービスのクオリティの高さ、そのブランドの背景のストーリーや信用性について重要視するようになりました。今では日本から来たというだけでは簡単に売れなくなってきています。また安くて品質も良い中国現地ブランドも増えてきています。日本の企業にとっては厳しい環境ですが、依然として日本の商品やサービスは中国国内でも信頼性が高く、工夫をすれば日本のブランドにとってまだまだチャンスがあると私は信じています。中国は世界最大級の市場です。このコロナ禍でも中国消費者の購買力は衰えていません。

そこでこれからとても重要なのが適切な「ブランド・カルチャライズ」を実践することです。いかに日本の良い商品やサービスを現地化し、消費者が求めるものに作り上げることができるかが勝負だと思います。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。中国に興味がある私と同じ学生や、中国マーケティングに興味のある方にすこしでも役に立てたなら幸いです。