2021.06.02

インターン生が学ぶ「カルチャライズ」ってどうやってやるの?

 前回カルチャライズの大切さについて記事(インターン生と考える、「カルチャライズ」って何?)を書きましたが、今回は具体的にどのようにカルチャライズを実施していくのかについて勉強したいと思いました。

 そこで今回はbalconia上海副総経理の川崎さんとコピーライティングを担当されるクリエイティブチームのAsaさんにカルチャライズを行う手順についてインタビューさせていただき、カルチャライズについてさらに理解を深めていけたらなと思います。

 その前にカルチャライズについて簡単におさらいをしたいと思います。

 「ブランド・カルチャライズ」とは現地の習慣、文化および消費者の好みに合わせてその商品やサービスを調整し、表現することです。カルチャライズは消費者の価値観、伝統的な文化や風習、生活習慣、感性や嗜好と深く関係しています。カルチャライズをすることによって、ブランドが表現したいことが現地の消費者に伝わりやすくなり、長く好まれるものにすることができます。

 それでは、インタビューを始めていきたいと思います。

今井:本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます!いきなりですが、

カルチャライズを実践するときにまず何から始めるのですか?

川崎さん:我々ブランドコンサルの立場からすると、市場を知る前にお客さんのこと、お客さんのブランドをまず知るということから進めるかな。

今井:なるほど。

川崎さん:例えばヤマハさんのヘッドホンって耳を守りながら音を響かせるという機能があるんだよね。でもこの機能をちゃんと知っていくと、「中国の消費者ってそもそも耳を守るっていうことを気にするだろうか」とか、「中国の消費者ってそんな大きい音で聞くのだろうか」とかそういう疑問がわいてくる。

今井:そのブランドがアピールする点を理解したうえで、現地でも受け入れられるかを想像してみるということですね。

今のヤマハさんの例で言えば、「音量とか耳を守るという点が日本と中国では違うかもしれない」というのはやっぱり中国に長く住んでいるから知っていることなのですか。

川崎さん:どっちかっていうと知っているというよりは仮説、こういうことがポイントになるんじゃないか?というのを思いつくっていうのが調査の最初の段階だね。なので、半分経験とか勘とかもあるんだけど。

今井:あ、そこは経験と勘なんですね(笑)

川崎さん:ほかの例で言うと、例えばニキビケア商品の調査の仕事。それをどうやって中国市場に展開するかっていう話で、自分が最初にやるのはまず現地のWatsons(ドラッグストア)に行ってその関連商品が置いてあるかを見に行く。あとは周りの中国人にニキビできた時どうしてる?とか聞いて、結構つぶしてるんだ!?っていうのが分かってくる。

今井:自分でつぶしてるんですか!?それは現地の人に聞かないと分からないことですね。

カルチャライズの仮説を立てるときは、現地に入っていくことが重要な一歩なんですね。

川崎さん:自分だったら、足で稼ぐっていうのを一番重視しているね。流行っている所に日頃から行ってみるとか。

今井:どのようなところに行かれるのですか。

川崎さん:上海だったら、若者が多く集まる淮海路(繁華街)とかかな。そこで何が起こっているのかじっくり見てみる。常に流行にアンテナを張ってみる。そうやって見ていくと、人の服装とか、中国って変化が早いから、新しい店ができたとか、店がつぶれたとかを見たりするだけでも何が流行っているのかが分かってくる。

淮海路にある最先端が集まったモールTXのフロアガイド
淮海路の一等地にオープンしたおもちゃ屋さん(引用:微博)

今井:なるほどー!そういう観点で観察するのって面白そうですね。

川崎さん:ほかにも最近のイベントで中国の若者が「很亚」って連呼していて、それはすごいサブカルチャーっぽいよねって意味らしいんだけど、そういう会話を聞くと、あ、今サブカルチャーっぽいっというのが来てるんだなっていうことがすぐ分かるし、あーやっぱり若者に触れるのは大事だなって思った(笑)。中国は若者から文化が広まっていくじゃん。だからやっぱり若者の流行にアンテナを高くしていくってことが必要だと思う。

Asaさん:その通りですね。やっぱりトレンドとか流行が集まる場所やメディアとかを観察することがカルチャライズには大事です。

今井:カルチャライズってやっぱり簡単じゃないですね、すごく奥が深そう。

次に実際に調査をする際に気を付けていることはありますか。

川崎さん:例えば定量調査の一環でアンケートをとるとして、ペンを買うときに何を重視しますかって聞く場合、色、書きやすさ、持ちやすさとかの選択肢を作るよね。ってことは、聞かれる立場からすると、最初にこちらが想定した答えしか選択肢にないんだよね。

今井:確かに。

川崎さん:昔あった調査で、インドネシアの生理用品の調査があったんだけど、インドネシアの女性って生理があった後に生理用品を洗うんだよね。これは再利用するためとかではなく、宗教上の理由で洗ってから捨てる。ってことは生理用品の重視点にインドネシアは洗いやすいっていうのが入ってないといけなくなるよね。

今井:なるほど!それって日本ではなかなか選択肢として思い付かないですね。

川崎さん:そう。あとインドネシアの民族衣装ってぴっちりしていて、体にフィットしている感じ。ということは生理用品の薄さを求められたりもする。

今井:選択肢作ることにもカルチャライズ!あらゆるところでカルチャライズを意識しているんですね。

川崎さん:定性調査でも同じで、調査対象の人を選ぶ際の条件がすごい大事。例えばアンチエイジングって日本だと何歳ぐらいを思い描く?

今井:40代ぐらいですかね。

川崎さん:だよね。でも中国では25歳からアンチエイジング化粧品を使う。だから日本の感覚で、アンチエイジング化粧品の定性調査は40代の女性を呼んでくださいってなると、中国で言ったらまるっきり違うことになってしまう。このようなことが起こらないためにも定性調査を行うときにしっかり仮説を立てなきゃいけない。

今井:これもカルチャライズですね!私がイメージしていた調査って、それこそデータ収集と分析がメインで、それをもとにまとめるのかと思っていました。でもただそれだけだと足りず、正しく現地の消費者を理解するためにも、カルチャライズを強く意識した仮説を立ててから調査を実施しなければならないということを知ることができました。

今度はコピーについて質問させてください。

例えば、最近ではジェンダー問題が意識されるようになっていると思うんですけど、コピーを考える際にそのような問題を考慮することはありますか。

Asaさん:中国では近年女性の権利についての意識が高まってきています。もし有名人とかがジェンダー問題に関して失言したら一斉に批判されます。このような環境でコピーを考えるには、表現を慎重に考えなきゃいけないです。この前川崎さんが言ってましたが、今日本では特定の人種を想起させるようなコピーは慎重に考えた方が良いそうです。

川崎さん:コピーとかあとはイラストや画像とかね。

Asaさん:コピーはそういった文化とか敏感な問題と関わることが多いですね。例えば先日、日本のお客様向けにウェブサイトを作成しました。コピーの構成を考えたときに、明治維新をイメージさせる表現を考えたのですが、結局採用しませんでした。

今井:それはどうしてですか。

Asaさん:全く新しいものに作り替えられるというイメージを、「明治維新」という言葉で表現しようと試みたのですが、これには問題があって、中国消費者が明治維新を想起させる表現を見たときに、「この会社は日本の会社ですごく日本を主張している」という印象を与えかねないとの声が上がりました。こういう歴史が関係する問題は特に慎重に考慮しなくてはなりません。

今井:それは確かに難しいです。日本との歴史的関係を考慮することもカルチャライズなのですね。

川崎さん:コピーに関して言うと、文化や政治とかトレンド以外にも、そもそも言葉が持つ意味ってあるよね。そこから想起されるイメージ。それがすごいカルチャライズでは大事で、例えば「膜」。日本ってベースメイクでよく薄い膜を張るとか「膜」を使うけど、中国だと通気性が求められるから、ベースメイクで「膜」って文字を見た瞬間に「これは厚ぼったいから嫌」ってなることが結構多いんだよね。だから結構その「膜」っていうのをどうやって中国で表現するかってすごい難しくて、日本と同じように伝わらないことがある。その場合はもう全然違う表現に変えちゃったり、シルクのようなサラサラで通気性のいい、みたいに膜の前にいろいろ付け足すことを考えたりします。

今井:言葉の持つ意味の違いもカルチャライズには重要なポイントに思えます。

川崎さん:文化とかトレンドとか政治とか法律ってさ、調べるとまあ違いが分かるんだよね、専門の方もいるし。一方分かりにくいものもあって、もともと言葉が持つ意味とか、そこから想起されるものとか、そこがすごいセンシティブになる。だからこそ丁寧に一歩一歩調査、検証していくことが必要になる。

今井:現地の人に言われるまでその言葉の持つ意味に気づかないことも多いと思います。

コピーについては、表現する際、方法によっては誤解を生むケースも出てくるので、より一層カルチャライズを徹底する必要があるのだなと思いました。

最後になりますが、カルチャライズすることが難しい分野とかはありますか?

川崎さん:日常に入るのはやっぱりすごい難しい。例えばカレーのルー。あれは中国に浸透するのにとても苦労してるように見える。食生活っていうのは生活の一番ベースにあるところだから、そこに入るっていうのはとても難しい。なかなかうまくいかないのは、カレーライス自体、伝統的な中国の食生活にはなかったものだから。ある日本の企業では、カレーのつくり方にカレーライスじゃなくて、カレー味の料理に使えますよみたいに書き方を工夫したりしてたね。中国って特に広東とかの地方ではカレー味のものが多いじゃん。

今井:なるほど!

川崎さん:しかも調理方法で出てくる食器やツールも中国だと全部中華鍋でつくるから、その中華鍋を出すだけでも全然違うよね。あ、うちでもできるんだって思いやすい。こういう風に、身近にあればあるほど難しくて工夫が必要になってくる。化粧品とか車って憧れだよね。憧れのものって自分と距離感があってもオッケーってことになってくるでしょ?なので、もともとの表現のままで受け入れられる可能性があると思うんだけど、近くなってくればくるほど文化っていうものが横たわってくると思う。

Asaさん:そうですね。中国でとっても身近な麻辣湯[1](マーラータン)は日本に輸出したらみんな食べれないじゃないですかね。

麻辣湯(引用:百度图片)

川崎さん:でも最近日本で流行ってるんだよ。

今井:流行ってます、火鍋ブームが来てます。

Asaさん:へー、きっと味がカルチャライズされてるでしょうね。

川崎さん:あとたぶん、言い方が違うんじゃないかな。例えば、中国は麻辣湯って気軽に食べたいモノ食べるって感じじゃん。でも日本だともしかしたら、野菜がいっぱい食べれますよって言ってるかもしれないね。ヘルシーですよって。

Asaさん:え?麻辣湯がヘルシー!?中国だと健康に悪いというイメージ[2]なのに。

川崎さん:だって自分で好きに野菜を入れれるから、たくさん摂取できてヘルシーですよって言ったほうが流行ると思う。それがカルチャライズだよ。

Asaさん:なるほど。

今井:あとは中国では人気の鸭血[3]って具材とかも血っていう字をつけないようにしてると思います。

鸭血(引用:百度图片)

Asaさん:川崎さんが食べれないものですね(笑)

今井:私も無理です(笑)

今回は貴重なお話をいただきありがとうございました。たくさん勉強になりました。カルチャライズの実践に向けて具体的なイメージがわいてきました。本当にありがとうございました!

[1] 麻辣湯は、中国四川省発祥の辛いスープ料理です。肉類、野菜類、大豆製品、練り製品、主食類などから自分が好きな具材を選び、花椒や唐辛子が入ったスープに入れて食べます。

[2] 中国では、麻辣湯に使われるスープの調味料などが健康に悪いといわれています。

[3] 鸭血はアヒルの血を固めて作ったプリン状の食べ物です。ビタミン類、タンパク質、鉄分などが豊富に含まれています。