2022.06.20

中国における「メタバース」と「マーダーミステリー」の考察

TikTokやWechatなど多くのSNSで新たなトレンドに関するトピックがよくあがっていますが、その中でもよく取り上げられているのが世界的に注目されている「メタバース」、そして「マーダーミステリー」だと言えるでしょう。
マーダーミステリーとは、参加者全員に台本や役割が与えられ、その台本に沿って役柄を演じながら犯人を捜していくパーティゲームの一種です。
(詳細はこちら⇒ 中国で独自の進化を遂げるエンタメ「マーダーミステリ」

画像出典:TikTok

メタバースについては説明するまでもないと思います。もう一方の「マーダーミステリー」については意外に思う方もいるかもしれませんので1つのデータをご紹介します。

データ出典:https://www.iimedia.cn/c460/81623.html

上記のデータは中国におけるマーダーミステリー市場規模の推移です。19年には100億元(約2,000億円)を超え、成長率は68%を記録しています。20年はコロナの影響を受けたとは言え市場は成長を続け7%の伸びを示しています。予測では22年には約239億元(4,780億円)の規模に達する見込みです。

「メタバース」と「マーダーミステリー」、前者はバーチャルなもの、後者はオフラインのリアル、一見共通性がないように見えますが、若年層におけるこの2つのブームにはつながりがあるのではないかと考えています。今回の記事ではそれについて考察していきます。

若者はなぜこれほどメタバースに夢中になるのか

1.現実世界のプレッシャー
常にスマフォでオンラインにつながっていて、デジタルの世界とリアルの世界の境目がそもそも曖昧になっているデジタルネイティブ世代にとっては、現実世界において欲望が満たされなければその分だけ、虚構の世界に夢や安らぎを求めるようになる傾向があると思います。
特に、SNSの世界からは、同年代の人達がセレブな生活を送り、素敵な恋人と一緒に過ごし、ブランド物をたくさん所有している様子がたくさん流れて来ます。でも、普段の生活でいくら努力しても、そのような理想の生活にはなかなかたどり着けない。どんな情報にでも簡単にアクセスできるデジタルネイティブ達は、逆にそれがプレッシャーになっているとも言えるでしょう。
そのように現実世界で感じるプレッシャーが強ければ強いほど、メタバースに活路を見出そうとする傾向が強くなるのではないでしょうか。

2.現実世界における「実感」の希薄さ
生活のあらゆる面でデジタル化が進み、色々な「実感」が感じられなくなっていることもメタバースを押し上げる要因の1つだと考えられます。
例えば、仕事に関しても、ここ数年で多くの業務が細分化され、そして機械化・IT化が進みました。非常に便利になった一方、多くの人は仕事の充実感や達成感を感じづらくなっているのではないでしょうか。報酬も、中国の経済が右肩上がりで成長していた頃に比べて上がりづらくなっています。
一方で、メタバースには分かりやすい報酬のシステムがあります。リアルな世界では、卒業しても、テストで一位を取っても、全身がキラキラ光ることもなければ、頭上に「Level Up」が表示されることもありません。しかし、仮想の世界なら、攻撃する度に、画面上に攻撃値「500」と表示され、2回攻撃すると撃退成功、さらに撃退に対する報酬をその場で手に入れることさえでき現実よりもずっと刺激的です。多くの人々は、得られる達成感の多さ、分かりやすさからメタバースにはまっていくのではないでしょうか。

画像出典::http://www.gzmjhzs.com/hok/836272338.html

メタバースの役割

ここまで見てきたように、若者達がメタバースにハマるのは、現実の自分ではなく別の「何者か」に変わりたい願望と、仮想ででも「達成感」や「実感」を得たい欲求が背景にあると言えるでしょう。
では、こういった価値をもつメタバースのような存在は、インターネット上でしか生まれないのでしょうか。私は、これが現実世界で展開されている一つの例が「マーダーミステリー」ではないかと考えています。

マーダーミステリーはメタバースのリアルバージョンなのか?

画像引用:https://zhuanlan.zhihu.com/p/376421056

冒頭でご紹介した通り、マーダーミステリーは、参加者全員に台本や役割が与えられ、その台本に沿って役柄を演じながら犯人を捜していくパーティゲームの一種です。
ただのゲームが、なぜこれほどまでに人を惹きつけるのでしょうか?ユーザーの中には、普段の生活では味わえない充実感が得られると言う人が少なくありません。
虚構の舞台でキャラクターを演じることによって、ストーリーの進行を左右したり、人物の運命まで変えることが可能となり、演出の楽しさを存分に味わえること。それが大きな魅力と言えます。テレビでドラマを視聴する場合、あらかじめ書かれた脚本に沿ってストーリーが展開され、登場人物の運命は最初から決まっていました。しかし、マーダーミステリーでは物語の展開から人物の運命まで全てプレイヤー次第、突然、人の生死を左右するような権利を手に入れたとさえ感じられます。
「自分ではない何者かになって、何かを行っているという実感を得たい」。マーダーミステリーの人気にはこのような背景があると思います。そして、これはまさにメタバースに求められていた価値です。

もちろん、マーダーミステリーが爆発的に成長した背景には色々な要因がありますので、上記は1つの側面に過ぎません。しかし、私はこの2つには強いつながりがあり、現代の若年層の意識やライフスタイルを代表する現象ではないかと考えています。メタバースもマーダーミステリーも、市場的にも更に広がりを見せている領域です。今後も引き続き注目していきたいと思います。