2022.09.27

中国政府はメタバースをどう見ているか

最近、メタバース関連の求人が少し熱くなってきています。中でもゲームエンジン作成のため、大手数社が高給で人材を引き抜いているといった話をよく耳にします。このような現象は今年の就職市場で特に注目を集めいています。 2022年に入ってから、メタバースへの熱狂は冷めるどころか、ローンチに向けて着実に動き出しているようです。

技術的な観点から見ると、メタバースの出現は過去10年間にわたり成長を遂げ、成熟したさまざまな最先端技術融合による必然的な結果です。 3Dグラフィックス エンジン、AR、VR、MRからウェアラブルデバイス、知覚インタラクションまで、人工知能、デジタルツインからブロックチェーン、Web3 、そして、5GからWi-Fi7 、マイクロOLEDから光学顕微鏡イメージングまで、これらのテクノロジーはいたるところで開花しています。 そして、これだけの技術が集まって何か大きな動きを見せるのも予想内のことであり、特に驚くことでありません。まさに数年前に勃発した電気自動車ブームと同様に、動力電池、マシンビジョン、センサー、自動化といった技術がほぼ同じタイミングで成熟した結果なのです。したがって、純粋に技術サイクルの観点から見ても、今後数年以内に次世代デジタル産業の波は必ずやって来るといえるでしょう。 「メタバース(中国語:元宇宙)」という3文字は、この波の単なるコードネームであり、ターニングポイントが現れるかどうか、その鍵を握っているのは、メタバースに対する中国政府の態度なのです。いくらメタバースの想像空間が大きくても、中国に上陸できなければ意味がないので、私は長い間メタバースをめぐる中国政府の態度を注意深く見てきました。過去6ヶ月間、上海、北京、広州、武漢、杭州、厦門、重慶の7都市全てにおいて、それぞれメタバースに対して意見表明したことがわかりました。

2021年12月21日、上海は率先して立場を表明し、メタバース業界向けの「バーチャル リアル インタラクション」のローンチ案を提案しました。復旦大学ビッグデータ研究所教授、復旦大学国家知能評価とガバナンス実験基地の副所長張星氏は、インタビューで次のように述べています。

「メタバースの発展形態に関する議論には、現時点3つの方向性があります。1つ目は米国のfacebook、metaなどのゲーム大手が提唱したもので、オンライン上で仮想世界やソーシャル空間を構築するという発想で、その本質は仮想空間です。2つ目はデジタルツインという方向性です。デジタルツインの応用はメタバースコンセプトが爆発する前から存在していました。都市のデジタルツインや交通路のデジタルツインなど、既に工業産業領域やその他の分野で広く利用されています。例えば、上海の虹口地区では大規模な航運デジタルツインシステムを構築しました。そして、3つ目は、上海市が提案した「仮想と現実の相互作用」という方向性です。これはまったく新しいメタバース・デジタル空間構築モデルのことです。 「仮想と現実の相互作用」の方向性には、今の経済分野(産業、商業、公務、文化観光、教育、オフィス、文化産業などを含む)が基礎となっています。このモデルの核心は依然として実体経済ですが、仮想と実体の相互作用のためのスペースを構築することで、実体経済の発展を促進することに繋がります。」

詳細内容についてはこちらのURLをご参照ください。
https://www.163.com/dy/article/HAGAJNHQ0552F5RG.html

2022年1月19日、北京市からも「北京市副都心メタバースイノベーション主導の開発を加速するための8つの措置」を発表しました。

第一条 応用モデルの積極的な推進

第二条 産業構造全体の最適化

第三条 初期および長期投資の開発を奨励

第四条 知的財産保護と標準化の強化

第五条 メタバーズ企業への賃料補助金支援

第六条 多業種組織の力を最大限に発揮

第七条 人材とチームの受け入れを支援

第八条 国際交流と協力を強化

詳細内容についてはこちらURをご参照ください。
http://www.bjtzh.gov.cn/bjtz/xxfb/202203/1515469.shtml

上海に続き、他の都市もメタバースに対して重要視する態度を表明しました。

1月21日,武漢市は、メタバースと実体経済の統合を促進することを提案しています。

2月23日,杭州市は、早急にメタバースへの布石を打ち、積極的に主導権を握り、新しいエリアで競争することを提案しています。

3月30日,厦門政府は、「メタバース生態系モデル都市」の構築に努めると表明しました。

4月16日,重慶市は、渝北区メタバース産業の革新と発展のため、3年行動計画を提案しました。

5月22日、広州市はメタバース共同投資ファンドを設立することになりました。

7月8日、上海市は《上海の「メタバース」ニューエリア育成のための行動計画(2022-2025)》を追加発表しました。

上記7都市のメタバースに関する企画書をよく読んでみたところ、上海市の行動計画が最も詳しく、計画の導入によって資本市場に最も大きな影響をもたらすことになるのではないかと考えます。上海市の「行動計画」が発表された当日、中国株式市場のメタバース概念株の株価が急騰し、資本市場もこれを重みがある計画だとみているのではないでしょうか。
この中から、私なりに面白いなと感じた3つのシグナルについて読み解いてみたいと思います:

一、新しい「入口」としてのメタバースは非常に重要

「中国にとってメタバースは何を意味するのか、中国政府としてどのように考えているのか?」についてですが、実体経済のアップグレードという観点から、メタバースは優れたツールであり、デジタル産業競争という観点から、メタバースは新たな入り口にもなりえます。そして都市問題解決の観点からは、メタバースは新しい方法であるとみているようです。これらの情報から政策を理解する上で重要なポイントを概ね捉えている気がします。つまり、メタバースは新しいポータルサイト、すなわち「入口」と見なされているのです。これは、国にとって戦略的な意義があることを意味していると思われます。世界のデジタル化の歴史を振り返ってみると、デジタル産業のアップグレード過程において、「入口」と呼ばれるものは非常に重要だったのです。PC時代の入口はパソコンとOS、Web時代の入口はパソコンとブラウザ、モバイル時代の入り口はスマートフォンとアプリ、この「入口」において、中国はその一部を占めており、特に米国とは各々長所や短所がありながらもデジタル産業を発展させてきたことから「入口競争」の重要性が伺えます。

二、中国展示会産業に潜む大きな可能性

この計画では、ビジネス現場側において現状の実体店舗以外にもう一つのデジタル世界のレイヤーを整備し、デジタル化の実現に向けたアクションを奨励しています。つまり、将来的にはショッピングモール、展示ホール、ガレージなどのリアル世界は、iPadまたはVRメガネなどを使ってデジタルパラレルワールドでも見ることができるというイメージです。これを実現するには新しいコンテンツがたくさん必要とされるため、3Dコンテンツクリエーターにとって新しいチャンスとなるのでしょう。私が知る限り、最近のデジタルイベント業界ではARコンテンツの採用が盛んになってきています。ご存知のように、中国は世界最大の展示会需要国ではありますが、世界級の展示会会社はまだ出現していないため、中国の展示会産業に大きな可能性が潜んでいると思われます。コロナ収束後のデジタル展示業界の発展について、私は非常に楽観的に見ております。

三、高品質なオリジナルゲーム制作を奨励

メタバース時代におけるゲームは橋頭堡として認識されています。実際、ゲーム業界に対する政府の態度は常に規制と奨励の間にあり、今回の上海の態度は明らかに奨励のほうに傾いているように見えます。同計画によると、自己研究、強力なIPアピールおよび国際競争力を主張するメタゲームブランドを育成することに重点を置くとされています。つまり、オリジナルで質の高いゲームを作り、積極的に海外進出し、中国文化の伝播だけでなく、より強い国際競争力の育成にもつながるでしょう。そして、高品質ルートを選んだゲームチームにとって、このメッセージは間違いなく力強い後押しになります。

上海によって発表されたこの計画には、商業、教育、文化観光、娯楽、生産、健康、オフィスの7つの主要産業の具体的な内容が含まれています。詳しい内容はこちらのURLでご覧になれます。https://www.shanghai.gov.cn/202214bgtwj/20220720/90aa73b046464b9c8799ef2339026d7d.html

中国において、政府の指導の下、これらの都市が率先してメタバースに突入しています。中でも上海市政府は最も積極的な姿勢を示しており、明確な目標を持ち、明らかな行動をとっています。今後、ますます多くの都市がメタバースエリアに参入することが予想されます。

上海に本部を置く日系ブランドのコンサルティング会社として、常に政府の姿勢と動向を注視し、マクロ環境要因と組み合わせた、包括的かつプロフェッショナルなブランド戦略サービスを提供しております。