2022.08.19

書籍「ブランドカルチャライズ」で伝えたかったこと

balconia Shanghai 総経理の久保山です。2022年8月5日に「ブランドカルチャライズ - あなたの商品を世界で売るマーケティングの技法」という本を発売しました。この本は私と副総経理の川崎が書いたもので、当社が普段お客様に提供しているブランド戦略立案、クリエイティブ、プロモーション、などのサービスプロセスについてナレッジを体系的にまとめた本です。

背景には日本ブランドが海外マーケティングで苦戦している姿がありました。欧米企業は上海においてもマーケティングは上手ですし、私たちが上海で活動している間に中国企業も次々に新しい商品を上市し、勢力を拡大していました。そんな中で日本ブランドだけが少しずつ存在感が薄らいでいくのです。

なんとか、そんな状況を打開したくてこちらで日系ブランドを支援しているので、書籍の執筆にあたっても、日本ブランドに向けて何かしら気づきを提示することは本書のテーマでもあります。

書籍を執筆するにあたって皆さんにどんなことをお伝えしたかったのか、いくつかのポイントにまとめてみました。日本企業にあてはまることもあると思うのでよかったら読んでみてください。

ターゲット理解が甘い

ブランドカルチャライズでもっともお伝えしたかった主張はほぼこれかもしれません。

ブランドカルチャライズの定義は「進出先の国・地域の消費者の『知覚』に合わせてブランドの表現を調整すること」としています。

消費者の知覚を理解しないとブランドをカルチャライズすることはできないよ、つまり、日本ブランドが苦戦する理由は消費者の知覚を理解していないからだよ、と言っています。

実際に苦戦するブランドの責任者にそのブランドのお客様のことを聞いてスラスラと話ができることはあまりありません。

よくあるのは、「30代の女性に売れてるんですよね」「都市部の年収が高い人が買ってるんですよね」「ビジネス需要で伸びてるんです」といった答えが返ってくること。それは購買データなどから見たものや、販売代理店の説明から聞いたことだと思います。

でも、実際にどんなことを大切にして、どんなブランドが好きで、よく口にするセリフはどんな感じか。知り合いを紹介するようにお客様のことを語れることは極めて少ない印象です。

なぜこのようなことが起こるのか、理解を深めるためにどんなことが必要か、それが何の役に立つのか?みたいなことは本書で一番突っ込んで解説しました。

日本本社の理解が得られていない

もうひとつ、特に上海法人や中国事業担当などからいただくお話で、承認をもらうべき日本市場でずっとやってきた上司、部署の理解を得られない、というお話があります。

これには、日本本社の担当者が中国に来たことがない、とか。中国担当者がすぐに諦めてしまい、日本の本社はわかっていない、、、というところで止まってしまうなど、いくつか理由はあると思っています。

その中のひとつとして「何を合意すればよいかわからない」というのがあると思っていて、実は一番大きい理由ではないかと思っています。日本本社も失敗したいと思ってる人なんていないはずで、中国市場で成功させるために、中国支社を指導しようとしています。中国支社はうまくビジネスを成功させようとして、中国ならではの方法を模索しています。

大きく見ている方向は同じはずなのに手法だけを見ていると別の結論になることが多いために合意が得られず話が進まない、予算が降りない、といったことになってしまいます。

その「大きく見ている方向」のほうと、「そこから落とすと施策はこうなる」というほうとをセットで合意していく必要があります。その「なにに合意すればうまく話が進むのか」がわからない、ということが起こっているように思います。

本書で解説した調査を日本からもリモートで見ていただき実際に消費者に触れてもらうことは合意形成するのに役立ちますし、その上で、文化背景を元に本社と方針を変えたものをセットでまとめて戦略相関図にしておくことで合意形成はしやすくなると思います。

クリエイティブの作り方がわからない

進出当初は日本で作ったクリエイティブをそのまま作っているケースが多いと思います。しかし、これもなかなか現地の消費者に受け入れてもらえてないことがあります。むしろ、受け入れてもらえていないことがわかっていればまだ良い方で、あまりうけてないのに、そのことに気づいてすらいないケースも実際によくあると思います。

調査して、戦略も立てて、こういう勝ち方、ということが見えてきたとしても、それをどのように表現するのか、ここにもカルチャライズのポイントがたくさん詰まっています。

本書ではブランド側がクリエイティブを作る時にローカルクリエイターとどのようにやりとりをしていくのか、についても解説をしました。

メディア戦略の組み立てがわからない

また、プロモーションにおけるメディア戦略も同じく悩ましいポイントです。本書では消費者の知覚側からメディア戦略を捉えていくことを提唱しています。

特にメディア環境、ファネルの違いは中国で顕著なので、日本で培ってきたデジタルマーケティングの知見がなかなか活かせないことが多いです。もちろんPDCAの回し方、体制、など兵站のような部分は活かせることもあると思うのですが、KPIの設計などは割と1から考える必要が出てきます。

また、日本のメディア戦略の中心となるデジタル施策は計測可能なことが多いのですが、中国でのメディア戦略で中心となる施策は正確に計測することが難しいこともあり、これはこれでKPIの組み立て方を見直す必要があります。

日本ブランドの成功確率を高める

大きく章立てもここまでに書いたような順序でお話をしていますがこれらの課題は相互につながっています。ひとつずつの課題に取り組み解決していくことで、日本のブランドの成功確率は格段にあがると感じています。逆に言うとこのようなポイントを踏まえていることは海外で戦っていく前提になるものです。

私たちが海外でブランドコンサルとして活動しているのは、日本のブランドの成長が、日本全体の成長につながっていると感じているからです。日本には過去に世界を席巻していたブランドが多いですし、覚えてくださってる海外の人がいらっしゃるのは資産です。

また、これは私の個人的な意見なのですが、日本は仕組みやコミュニティを作っていく、という、デジタルサービスの分野の勘所より、ものづくりの勘所を掴むほうが得意な国民性があると感じています。こうした資産も総動員して戦えるのはやはりブランド・マーケティングだと思うのです。

本書がヒントになって、なにか皆さんのブランドにポジティブな効果を与えることができれば大変うれしいです。

この文章を読んで興味を持って頂いた方は、良かったら手にとってみてください。

関連リンク
アマゾン:https://www.amazon.co.jp/dp/B0B8H5K5KM/
プレジデント寄稿記事:https://president.jp/articles/-/60063
東洋経済寄稿記事:https://toyokeizai.net/articles/-/608597