2022.09.09

問題解決思考のステップアップ論

balconia上海副総経理の川崎です。今回は問題解決思考に関するお話です。

以前から消費者リサーチに関するお話を何度かしてきましたが、ある問題に対して必要な情報を集めて、そこから得られた示唆を分かりやすくまとめて他者に伝える、というのはリサーチに求められる大事な役目です。

リサーチに限らず、こういった問題解決のスキルはどのビジネスの現場ででも求められるものだと言えますが、一体どうすれば伸ばすことが出来るでしょうか。書籍などで色々な情報が出ていますが、ジュニアスタッフや苦手な人にどのようにアドバイスするのか、どうやってレベルアップを促せば良いのかといった情報は案外少ないように思います。

そこで今回は特にメンバーの育成の視点をメインで書いてみたいと思います。

解を出すべき課題をクリアにし仮説ベースで分析する

問題解決における有効な分析の進め方に関しては、コンサル業界のフレームワークを紹介するものや、課題解決に関する啓発書といったビジネス書でよく触れる機会があると思います。

私が真っ先に思い浮かぶのは、安宅和人氏の『イシューからはじめよ──知的生産の「シンプルな本質」』(英治出版)や、私が新人の時に上司から推奨された『問題解決プロフェッショナル「思考と技術」』(齋藤嘉則著、ダイヤモンド社)あたりの著書です。今見てもやはり勉強になります。

参考資料を数え上げればキリがないですが、フレームワークの要諦は以下に集約されるでしょう。

➀たくさんある問題の中から解を出すべき本質的な課題を見つけ出す。
➁どんな情報があれば課題を解決できるのか、つまりアウトプットを起点に課題を分解していく。
➂課題に対する解に対する仮説を立てる。
➃仮説をベースに情報を収集、整理していく。

つまりは本質的な課題を見極めて絞り込み、それに対する仮説を持つことが重要と言えます。

リサーチではまさに、課題設定と仮説の精度をどれだけ高められるかで得られるアウトプットが変わってきます。

これは定量・定性といった消費者リサーチに限らず、デスクリサーチや普段の情報収集でもそうですし、ビジネスにおける問題解決全般に関して全て同じと言えるでしょう。

やみくもに情報を集め出すのではなく、まずは「何の情報が必要か」「集まった情報から何を言わないといけないか」を定めることで、アウトプットの質は高まりますし、効率が上がり生産性もグンと高まります。

ある種、問題解決のための分析フレームワークはとても明確で、目指すゴールもクリアなわけです。社内のトレーニングにおいても、日々の業務の中でも、上記のようなことが意識され、伝えられていることでしょう。

よし、じゃあもう皆さん大丈夫ですね!では!

・・・とはいかないわけです、当然。

最初のステップ「課題の抽出」は超難関

こんな偉そうなことを言いつつも、分析に関して私個人もまだまだまだまだ日々修行の身ですし、ましてや新入社員や分析業務に最近触れるようになった人にとっては「それは分かったんだけど・・・で?」という状態だと思います。

違う立場から見ると、慣れないメンバーをどう育成していけば良いのか悩まれている上位者の方も多いのではないでしょうか。「あれだけ課題課題っていつも言ってるのに、またとっ散らかったレポートをあげて来た・・・」という愚痴がどこからともなく聞こえて来そうです。

分析はもちろん個々人の能力や情報リテラシー等に左右されると思いますが、このジレンマの一番の要因は「課題の見極めこそがめちゃくちゃ難しい」ことではないでしょうか。

「何の解が今必要なのか」という問いをたてる行為は、向き合う問題に対する知見や経験、場合によっては専門知識が求められることが多く、簡単なものではありません。慣れないうちは、問題解決のための分析ファーストステップ且つ最重要なここで躓いてしまうのです。

これを解決する明確な答えや対処法があるわけではないのですが(それなのにこんな記事書いててすみません。。。)、私がメンバーのスーパーバイズをする際に考えていること、伝えていることが少しは参考になればと思い、ご紹介させて下さい。

問題解決のための分析能力レベル区分

前職のリサーチ会社時代には、均すとだいたい毎日1日に1本は、何かしらのレポートのチェックをしていました。中には100ページを超えるようなものもざらです。

そんな中で、分析のレベルは下図の通りだいたい4つくらいに分かれるかなと思うようになりました。分析能力は、そのまま問題解決能力として読み替えることが出来ると思います。

なお、STEP1にあがる前の初心者レベルを含めると、厳密には5つのレベルになります。

● 0→1:まずは初心者の段階から、テーマや課題に関する情報を漏れなく集められるようになる。必要な情報をキチンと集めるのにも実際にはスキルが必要です。なので、これが出来るだけでも既になかなかのスキルを持っていると言えます。ただし、その中で本当に大事な情報は何か?を絞り込めないのがこのステップです。
● 1→2:集まった情報から課題に関する本質的な情報を抽出できる。このステップアップが非常に難しく肝となります。中には勘どころが良くスッと乗り越えられる方もいますが、そうじゃない場合(多くのケース)、1人で乗り越えるのはなかなか困難です。
● 2→3:2で得られた情報を相手に分かりやすく誤解なく伝えられる。ここで求められるのは文章力や可視化能力で、その人のセンスにも左右されますが、技術として覚えれば大丈夫といったことも結構多いように思います。
● 3→4:ファクトやファインディングスを越えてネクストアクションを提示することが出来る。もちろん、前のステップでも提言は出来るようになりますが、ここではビジネスにインパクトを与えられるようなレベルを指します。

レベルに応じたスーパーバイズが必要

こうやって見るとイメージが出来ると思うのですが、まだSTEP1にあがっていない方や、STEP1にいる方に対して「課題は何なんだ?伝えたいことは何なんだ?」とフィードバックしても、なかなか上手く出来ないというより、「ピンと来ない」というのが正直なところだと思います。

そんな場合は、「本質的な課題は何なのか」という絞り込みまでは、どうしても上位者や別の誰かの助けが必要となります。

分析に入る前に、分析を進める担当者と、まずは向き合う問題や課題について議論し、そこで十分インプットを行います。場合によっては、その問題のエキスパートへのヒアリングの時間をセッティングする必要も出てくるかもしれません。

上位者の方にとっては手間も時間もかかるものではありますが、こういったプロセスがないとシンプルにアウトプットのクオリティが高まらないと同時に、その当事者の成長も促せません。能力とかスキルとか以前に「ピンと来ない」のですから1人でのステップアップは相当難しいものがあります。

逆に言うと、こういった仕事を振られた方は、相手に対して、ここのプロセスを積極的に求めていくことが大事だと言えます。既に経験を積んだ人や問題解決が上手な人は、実際にこのステップにすごく時間をかけますし、雑談を含めて色んな人の話を聞くようにしているのは共通して見られる特徴だと思います。

冒頭でお伝えした、本質的な課題を見極めることこそが難関、というお話と対応させると下図のような関係性になると思います。

結局、最も重要な「本質的な課題を見極める」というのは、問題解決のファーストステップでありながら難易度が高く、経験やスキルが求められるものと言え、だからこそジレンマが生じてしまいます。「がんばろう」「考えよう」では、なかなか乗り越えられないのが現実です。

レベル区分を意識したステップアップ

ここまで書いておきながら、このレベル区分自体の良し悪しが重要とは考えていません。

ただ、これまでの経験として、メンバーへのフィードバックや面談の際に「今はここまで出来てるから、次の目標はここだね。そのためには○○が必要だと思うよ」といった具体的な話が出来ることで「フィードバックが腹落ちしやすく、次の目標のイメージがついた」というメンバーが多数いました。

例えば、STEP1あたりだな、というメンバーに対しては、最終的な示唆の良し悪しで評価するよりは、課題が絞り込めるようになったか?を基準に評価をすることでお互いストレスなくステップアップ出来ることが多いと感じています。

更に、このステップは1人の成長段階を表す以外に、1つのプロジェクトでどこまで深く分析出来ているかの指針にもなると言えます。自分が業務にあたる際にも、1つのプロジェクトの中でどこまで出来ているか、どこを目指さないといけないかを意識するのに役立ちます。

自分自身が今どこにいるのか、もしくは今育成中のメンバーがどこにいるのかを意識しながら、各ステップで必要な学習やサポートをしていくことで、無理なくステップアップが出来るのではないかと考えています。

以上、こちらは個人の経験談的な側面が強く、キチンとフレームワーク化出来ているとは言えないものですが、何かしら皆さんの日々の業務の参考になるのではないかと思いシェアさせて頂きました。

お気づきの点などあれば、忌憚ないご意見をお聞かせ頂けると嬉しいです。