2023.03.06

「ブランドカルチャライズ」を読んで

みなさん、こんにちは。初めまして、Evelynと申します。balconiaに入社する前は、いくつかのブランド企業で仕事をした経験があり、ブランド市場についてはある程度の理解があります。
最近、当社総経理の久保山と、董事の川崎の共同著書「ブランドカルチャライズ」を読みました。今回は、ブランド企業、そして中国消費者の視点から、海外ブランドが中国市場に参入した後に起きた社会現象および私が感じたことついてお話していきたいと思います。

この本では「ブランドカルチャライズ」とは何か、そして、どのようなプロセスを経て、ブランドのカルチャライズを行なっていくのかについて詳しく説明しています。多くの事例があげられているので、この本を読めば、直観的かつ数学の公式に当てはめるだけで解けるようなシンプルな方法でブランドカルチャライズを運用することが可能です。
しかし、ブランドカルチャイズとは一体何であるかを理解するには、多くの側面を考慮する必要があるでしょう。海外ブランドが新しい市場に進出した後(この本では主に日本のブランドが中国市場に進出する際の課題を取り上げています)、文化的な側面における「ローカル化コミュニケーション」をどのようにして行うのか、より馴染みやすい形で地元の消費者にアプローチし、消費者からの共感を得ることは、決して簡単なことではありません。

国産じゃなかったのか!

私は、てっきり中国製だと思っていた商品が実は海外のブランドだったのか!と、随分時間が経ってから気づいたという経験がたくさんあります。
例えば80年代生まれや90年代生まれが子供の頃よく飲んでいた「菓珍(オレンジジュース)は実は50年代にアメリカで生まれたブランドで、モンデリース傘下の商品です。また、中国人にとってはお馴染みの食用油「金龍魚」はシンガポール系の「益海嘉里」というブランドの商品です。さらに、「湾仔码头餃子(冷凍餃子)」はアメリカのGeneral Millsグループの商品で、スナック菓子の「上好佳」はフィリピン系のブランドです…このような事例は数え切れないほどあります。

事実、これらのブランドは、消費者が知らないうちに随分前から黙々とブランドカルチャイズを行っていたのです(当時のマーケティング施策の中では “カルチャライズ”と呼ばれていなかったが)。その結果、多くの人はこれらのブランドが最初から中国ブランドだと思い込んでいたようです。

「菓珍(オレンジジュース)」を例にとってみると、これは80年代に中国市場に参入した商品で、以前はNASAの宇宙飛行士のための特別ドリンクとして注目を集めていました。中国市場に参入後、多くの宣伝やキャッチコピーが打ち出されました。その中で最も印象深かったのが「冬にホットジュースはいかがですか」というものでした。一見とてもシンプルなキャッチコピーですが、お湯を好んで飲む中国消費者の特徴をしっかり掴んでいます。

恐らく、世界中で最もお湯を好んで飲むのが中国人です。頭痛や微熱など体調不良の際に、よく言われるアドバイスが「お湯をいっぱい飲んで」です。

古くから中国では、特に高齢者や子どもにとって、冷たいものは胃腸に優しくないと考えられてきました。しかし、「菓珍(オレンジジュース)」の消費者ターゲットは「お母さん」でしたので、いかにしてお母さんたちを「子どもに買ってあげたい」という気持ちにさせるかがブランド側の重要な課題でありました。中国人はお湯を飲むのが好きだという特徴を上手に掴んだ「菓珍(オレンジジュース)」は、他のオレンジジュース等の競合ブランドを排除することに成功し、お母さんたちにとって、冬の飲み物として最適な選択肢になりました。
ローカル消費者の文化背景とその消費行為を正確に掴めたことで共感を引き起こしました。これこそがブランドカルチャイズの成功事例ではないでしょうか。

益力多(ヤクルト)VS養楽多(ヤクルト)、海賊版はどっち?

私は食品業界で長年働いておりました。ネットで食品関連のニュースを検索することも多かったのですが、非常に興味深い現象に気づきました。「知乎(Yahoo知恵袋のようなサイト)」というサイトで時々このような質問の投稿を目にします。「”養楽多”を知っていますか?益力多(ヤクルト)の海賊版なのかな?」

香港を旅行した人は「この”益力多”ってなに?養楽多(ヤクルト)とそっくりだけど、もしかしたら香港ヤクルトの海賊版?」。
実は、二つの商品は名称こそ違いますが、全く同じ商品なのです。どちらも日本ヤクルトグループの商品で、海賊版ではありません。
では、なぜ全く同じ商品なのに、同じ中国でも地域によって違う名称を使っているのでしょうか。

その答えは方言の発音にあったのです。広州や香港地区では広東語を使用するため、「益力多」の発音はどちらかといえば日本語の「ヤクルト」に近い音になります。一方で、普通語では「養楽多」の発音のほうが日本語の発音に近いのです。商品のネーミングは込められた意味以外にも、商品との繋がりやインパクト、キャッチーで覚えやすいか等も大事です。しかし、広東語圏で「養楽多」は発音しにくいうえ、覚えにくいといったデメリットがあります。消費者にブランド名を覚えてもらうために、異なる言語の地域では商品名を変えて対応しています。ちなみに、実はシンガポールでは「益多」という中文名称を使用していますが、これも現地の言語習慣にあわせて調整していると思われます。

今は、広東語地区でも中国の他の地区でも、この商品はかなり高い知名度と忠実度を誇っています。これは当初のネーミング策略が功を奏したと言えるのではないでしょうか。
広大な国土と豊富な資源を持つ中国は、近年ではインターネットが飛躍的に発展を遂げており、地域間のコミュニケーションはますますスムーズになってきています。多くの企業ブランドは全国の消費者を対象にコミュニケーションを図っています。このような状況において、同一商品の名称が異なる場合はコミュニケーションの妨げになりかねませんので、前述のような消費者が名称違いの商品を海賊版ではないかと疑ってしまうこともありました。

ただし、当初の策略が成功したからといって、いつまでも踏襲できるとは限りません。ブランドカルチャイズはその時の市場の変化や消費者の変化に応じた対応を随時調整していかなければなりません。また、ブランドが重視している方向に向けて取捨選択を行うことで海外ブランドが現地に根ざし、長期的に成長するための鍵となるでしょう。

このままだと、次は火鍋しかないな!

ブランドカルチャイズといえば、思わず中国語の「ローカライズ」に類似しているのでは?と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、二者は切っても切れない関係なのです。私見として、ブランドカルチャイズは言語、文字の面におけるローカライズ以外にも、ターゲットとなる消費者の伝統や文化、宗教等の背景を理解した上で、現地の消費者に寄り添った表現であり、より深いものであると感じます。

中でも、一部のブランドは中国市場に参入する際、馴染みやすく親しみを感じさせるため、ローカライズの構築を重要視しています。例えば、中国の食文化に溶け込む努力をしているKFCが良い例です。KFCはメニューを開発する際に、ご飯、お粥、油条(揚げパン)などといった中国でお馴染みの食べ物だけでなく、風味に関しても中国の八大料理を積極的に取り入れることによって、「洋式ファーストフード」でも「中国人の胃袋」を満たせる、地元民にご満足いただけるように取り組んでいます。

ところが、過激なローカライゼーションの方針を推進したKFCは世間の議論を引き起こしました。特に最近では四川風味、藤椒(タンジャオ:中国山椒の実)、酸笋(筍の塩水漬け)など中国の消費者にとっても少々過激なフレーバー商品は、洋中どっちつかず、うやむやでジャンル不明、KFCのオリジナリティーを失くしているのではないかと違和感を感じている人もいます。また、頻繁な「ローカル新商品」の入れ替えによって、消費者にブランド価値が下がっている、自分のレベルまでランクダウンしたと感じた人もいるようです。

確かに、「斬新」なテイストの新商品が発売されるたびに注目を集め、話題を呼んでいましたが、実際には、一時的にユーザーを獲得したに過ぎず、長期的な販売戦略として消費者を定着させることは難しいでしょう。KFCはローカライズという軌道から外れたのでしょうか?あるWeChatの公衆号で多くのいいね!を獲得した文章は「KFCは夜食の串焼を始めたぞ!これで中国消費者の胃袋を満たせなかったら、次は火鍋しかないな!」とコメントしていました。

ブランドカルチャイズを行う際、気をつけるべきポイントは多々あります。積極的に消費者にあわせるのはもちろんのこと、いかに自分のオリジナリティーを保持し、同化させないかということも重要なのです。これは深い議論をしてみる価値のある問題だと思います。どのようにしてブランド自身と消費者のニーズを把握しつつ、バランスをとっていくのかという点は、多くのブランドが学び続ける必要があるでしょう。

いかがでしょうか、ここまでお読みいただいたあなたにも、海外ブランドの新しい市場参入について、いろいろ思うことがあるのではないでしょうか。もっと理解を深めたい方は、ぜひ「ブランドカルチャイズ」を読んでみてください。新たな視点と意外なヒントを与えてくれる1冊になるかもしれません。